第十話 武器を買った
「ほう、ではこれが?」
「ああ、女剣士の着ていたものの一部だ。特にこれはパンツの部分貴重だよ」
自治会事務所にて、英留は拾ってきたライヌスの衣服を見せていた。
結局これしか証拠がないので、とりあえずこれを見せるしかない。
「あんなに勇ましいのに、下着はコットンの白だった。人は見かけには寄らないもんだろ?」
「はあ……まあ、下着はともかく、確かにこの鎧の一片は話にあった女剣士の物と一致します。ということは倒したということですか?」
「倒したっていうか、剣で切って裸にしてやったら泣いて逃げて行ったんだよな。あそこまでやれば二度と現れないだろう」
フィメーラと街に戻り、まずは宿を取ってから一人で自治会事務所に来た。
このくらいなら一人で出来るから任せろ、と言って来たのだが、実際はこの服の破片を見せるのを見られたくはなかったからだ。
「殺してはいないのですね?」
「まあな。ただ女の子を丸裸にして敗走させただけだ。もう人を襲うことはないだろう」
「分かりました。では報奨金をお渡ししましょう」
少し考えたのち、事務所の職員はそう言って、奥から小さな袋を持ってきた。
「三千エメル入っています。ご確認ください」
「ああ」
確認、と言われても、この世界の文字がよく分からない。
袋の中には紙幣が入っていて、札が三枚。
おそらく紙幣一枚千エメルで、三枚で三千エメル、日本円換算で約三十万円だろう。
三十万円というと、駄菓子屋のおばあちゃんがくれるお釣りの値段と大体同じだ。
英留は三枚とも同じ紙幣が入っていることを確認した。
「ああ、問題ないな。三千エメルだ」
まあ、よく分からないがそう答えた。
一枚十万の紙幣はなんだか物凄い大金に見える。
英留の日本にいた時の小遣いは五千円だったので、この一枚で英留の一年と八か月分の小遣いだ。
それが三枚。
なんだか何でも出来る気がする。
「ではまた何か困りごとがありましたら告知しますので。今回はありがとうございました」
「ああ、また来る」
旅の途中でもあり、おそらくもう来ないかな、などと思いつつ、頭を下げる事務員を背に、英留は事務所を出る。
「さて、それじゃまずはこの金で剣……いや、上着か」
ちなみにここまで、英留はずっと上半身裸だった。
誰も何も言ってこないということは別に珍しくもないのだろうか。
だが、女性を見ると、目を背けてそそくさと去っていくようにも思える。
「とりあえず、さっさと上着を買うか。三十万もあるんだから一万くらい使ってもいいだろ」
ちなみに英留はシャツに一万も使ったことはない。
シャツの九割は親任せであるし、お気に入りにしても量産店のデザインシャツで、同じシャツの人を良く街で見かけたものだ。
「えーっと、服を買う店はー……」
英留は喧噪の中、店を探して去っていった。
「早かったわね? お金はもらえたの? 変なことに使ってないでしょうね?」
「お前はおかんか」
宿に戻った英留を迎えたのは、ずっと宿にいたフィメーラだった。
ゆったりとした服に着替えていた彼女は、先程までよりものんびりしている、というか緊張を感じられない。
「ああ。……やっぱりもう終わってたか……」
がっくりと肩を落とす英留。
「? 何の話よ?」
「いや、いい……」
落ち込んだまま、ベッドに座る英留。
不思議にそれを見ていたフィメーラが、ふと思い至った。
「……ひょっとして、あたしが着替えたりお風呂に入ってる所に出くわしたかったとか?」
「風呂にまで入ったのか!?」
英留は昔、可愛がって貰った婆さんが死んだ時のような悲しい顔をした。
「そうね。もうこのまま寝てもいいくらいよ」
これ見よがしに服を見せつけるフィメーラ。
ロングワンピースのようなそれは、そこらの女の子でもよく見かけたので、この世界の女の子の普段着なのだろう。
「残念ね、あたしの着替えが見れなくて」
「いや、別にそんなもん見たくないからな?」
「は? そんなわけないじゃないのさっきだって」
「ああ、ライヌスの裸は綺麗だった。報奨金もらえなくてもあのまま続けてもよかったくらいだ」
英留はあの剣士の裸を思い出して目を閉じる。
「これに引き替え……はあ……」
ちら、とフィメーラの身体を見て、これ見よがしに大きなため息を吐く英留。
「…………」
「そんなもん、もう見たくもないんだよ。見せるなよ? 見せたら本気で嫌がるからな?」
ため息混じりにそう言ってさらにため息を吐く。
フィメーラはそれはじっと睨んでいた。
英留は何度もちらちら、とフィメーラを見ていた。
「あのさ、いくらあたしを怒らせても、見せないからね?」
やたら冷たい声で、フィメーラが答える。
「あと、謝って」
「……ごめんなさい」
挑発に乗らせて脱がせる作戦に失敗したので、挑発自体を謝った英留。
「はあ……本当にあんたは馬鹿よね?」
「ばっか、これ、成功することもあるんだぞ? 馬鹿そうで、プライド高そうな奴ならな!」
ちなみに英留の元の世界での成功率は二十人中一人だけ成功して成功率五パーセント。
その子もスカートをめくった時点で煽られたことに気づき、思いっきり殴られた。
結果、煽った全員から嫌われた。
リターンの割に失う物が遥かに大きい。
だが、英留はすげえいい笑顔で「女の子が自分から見せるパンツ、プライスレス」と言った。
その結果、それから一週間ほど、下駄箱に「死ね」と書いた手紙が毎日色々な字で約二十通入っていた。
それに対して「いやあ、この学校はツンデレの子が多いなあ」と言ったら次の日から一通もなくなった。
ただし、上履きがカッターで切り刻まれていたが。
「いま、あたしを馬鹿でプライド高そうって言ったのも謝って」
「いや別に、お前の事を言ったわけじゃないぞ?」
「謝って」
「だから、理由がなけれは謝まごめんなさい」
フィメーラが拳を振り上げたので、謝る。
「はあ……じゃ、夜ご飯食べて、明日は剣を買ったら旅に出るわよ?」
「あ、剣なら買ってきた。ほら」
英留は先ほど買ってきた剣をフィメーラに渡す。
「……ずいぶん軽いわね?」
「ヒノキ製だからな」
「……これってどうやって抜くのよ?」
フィメーラが柄と鞘をもって引き抜こうとするが、どこにも留めもないので、引き抜けない。
「引き抜くも何も、それ、木刀だからな?」
「はあ? 報奨金もらったんでしょ?」
「ああ、それで服を買ったら、残りがあまりなかったからさ、でも、何も武器なしってわけにはいないだろうから、とりあえず」
「木刀で何しろっていうのよ!?」
フィメーラは木刀で、英留の腕を叩く。
「まあ落ち着けって。しょうがないだろ? それだけの値段で買える剣がそれしかなかったんだからさ」
「…………?」
フィメーラが訝しげな顔をする。
「ふんっ!」
今度は強めに英留の腕を叩く。
「そんなに怒るなって。また金儲けたら買ってやるからさ」
いかにも儲けるあてがありそうに英留がフィメーラをなだめるが、それよりも木刀で殴っているのに、まったく痛がらない英留を不思議に感じるフィメーラ。
「あのさ、そのシャツ、何? どこで買ったの?」
「ああ、これさ、繊維が鎧になってる素材らしいんだよ。なんか女の子が一人でやってるワゴンの店で買ったんだけどさ」
「へえ……そんなのあるんだ?」
「そうだろ? 剣で切られても切れない素材らしくてさ、こんなの俺のいた世界でもかなり高いんだぞ?」
怪しげなワゴンで、明らかに怪しげなものを平気で買える当たり、英留は平和な
日本で育った高校生に過ぎない。
「で、それ、いくらしたの?」
「二千九百八十エメルもしたんだけどさ、こんなの買わないわけにはいかないだろ?」
「……ふんっ!」
「でぇぇぇっ!?」
フィメーラは何の躊躇もなく、木刀をフィメーラの頭に振り下ろした。
慌てて英留は避けたので、致命的なことにはならなかったが、それでも側頭部を殴打され激痛が走る。
「頭は駄目だ! マジでやばいんだぞ?」
「うるさいっ! このっ! このぉぉぉぉぉっ!」
英留が頭をフル防御すると、フィメーラは足を木刀で殴りつける。
「痛っ! マジで痛いって! 木刀って人殺せるんだからな!?」
「じゃあ死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
英留は断末魔のような叫びを上げた。




