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『……ここがゲーム?』
白状しよう。思った以上の衝撃に最初の一歩を踏み出すのをためらった。
空気に色さえありそうな臨場感は、まるで現実と見まごうばかりだったからだ。
ちなみに俺の見た目は今、光る玉みたいな外見らしい。足は地面についてはいないが、それはスルーしてほしい。。
「しかし随分可愛いい御姿で、我が神よ」
圧倒されてキョトンとしていると、その時俺に聞き覚えのある声が声をかけてきた。
もちろん相手はケビンさんだ。
約束通り、プレイヤーの出現ポイントで待っていてくれていたようである。
「ふむ、この神殿という場所はあまり詳しくなかったのですが、面白いですな。最初来た時はやけに事務的でしたが、契約してから来ると、個室がある。どういう仕組みなのか実に興味深い」
プレイヤーが出現する場所は神殿と呼ばれている。中はホームになっていて、プレイヤーの個人スペースらしいのだが、キャラクターから見るとそんな感じらしい。
俺が飛び出したのは木製の神棚みたいなもので、とりあえず見た目ちょっと神様っぽくはしてくれている様だ。
『あ、ケビンさん。どうも』
俺は何となく軽く返事をすると、キャラクターの分身である光の玉は俺の視線と頭の動きに応じて、お辞儀っぽい動きをしたようだった。
「神様だと言うのに殊勝な人ですね貴方は。もう少し慇懃無礼でもいいでしょうに」
『いや……だいたいの人はこんな感じだと思いますよ?』
「そう言うものですか? さすが神の国は礼儀の水準も高いようです」
『ああ、うん。……それはどうなんだろうか? 』
「そうですか。なら私の運が良かったという事でしょう」
うん。まぁここまで普通にしゃべれると、ついつい敬語になるんじゃないだろうか? 相手が年上っぽかったらなおさら。
なんにしてもここで話すのも具合が悪い。始めたばかりの俺のホームポイントは何にもない空き家なのだ。立ち話もなんである。俺達は外に出て、適当な食堂で今後の事を話し合う事にした。
店は神殿を出てから、ほんの数十メートルほどの所にあるおじさん行きつけのお店らしい。
たどり着いた店はまるで西部劇に出て来るような外観で、木製で手押しの扉である。
タイムスリップか異世界を旅しているようで、ほんの少しの移動でも十分すぎるほどの刺激があった。
おじさんは空いているテーブルに腰を下ろしたので、俺は向かい合うようにテーブルの端っこで浮かんでいた。
『……さて。まず初めに俺が出来る事と言えば、このままついて行って。こっちのストックしているアイテムをおじさんに使うだけなんだけど、その辺は知っていますか?』
「ええもちろん。サポートしていただけるのは助かりますよ。予定は相談という事で」
プレイするにあたって俺が出来ることはかなり制限がある。
俺は仮の視界からキャラクターについて回ってサポートするだけの存在だ。
言うなれば、メインキャラクターの周囲をうろうろしながら、微妙な役目に徹する妖精ポジションっぽい立ち位置、正直地味である。
そして作戦を立て今後の方針を決めたり。クエストを受け来て、キャラクターに紹介するなど。それが基本的なこの世界での遊び方という事になるわけだが、もちろんついて行って一緒に冒険することも可能なわけだ。
ただ基本的に俺がいなくても冒険は進められる、たまにアクセスして経過報告を聞くだけなんて事も出来るわけだ。だから時間のない人も短い時間で遊べるというのが強みである。
ただ、キャラクターには持ち運べるアイテムにも限りがある。持っていける装備も充実していれば生存確率も上がるし、現地から多くのアイテムを運び出せるわけだから、そこはライフスタイルに合わせてお好みでプレイすればいいという事らしい。
ファンタジーでもロールプレイングゲームとはジャンルが違う、むしろブラウザーゲームのシミュレーションと言った方が近いかもしれない。
『――だけど、俺達は冒険している時間はあんまりないかも。とりあえずは大会に向けて準備する方向で行きたいんですけどまずは人数合わせですかね?』
「ですな。のんびりと言うわけにはいかないでしょうから。私の方で腕に覚えのある奴らに声をかけておきましょう」
『モンスターを捕まえるのは?』
「ああ、そう言ったことも神の方々は出来るのでしたね」
俺が尋ねると、ケビンさんは若干眉をひそめる。
こちらは異質なのか、モンスターを捕まえる事に関してはよく知っているわけではなさそうなおじさんだった。
まぁそりゃあ、討伐対象を捕まえて仲間にするなんて言うのは、ぞっとする話なのかもしれない。
しかし俺としてはこちらのゲームでの目玉機能だし、楽しみにしていた要素の一つだった。
『あんまり一般的じゃないとか?』
「いえいえ、最近は随分多くなってきましたよ? ですが人里にはなかなか。化け物がぞろぞろと町の中に入ってきたら怖いでしょう? そう言うことが出来る町はありますが。私はあまり行きたくはないですな」
「そうでしょうね」
討伐したモンスターに捕獲用のマーカーを付ける事で、プレイヤーを主と認識させることが出来るようだが、こればかりは実際にやってみてもらうしかないだろう。
『でも時間がない。こういう場合。ヤッパリ手堅く戦力を上げるには人間に頼む方がいいですかね?』
「そうですなぁ。モンスターを仲間に出来れば強力でしょうが。それはあくまで、強いモンスターを仲間に出来ればの話です。私一人で倒せるモンスターを手に入れた所で大した戦力になるとは思えません、それでも新米よりはマシでしょうが」
『ですよねぇ……』
現状おじさん一人だけのさびしいパーティだ。頑張ってモンスターを倒しても、そろったメンバーがしょぼくなることは目に見えている。なら交渉で腕に自信のある人間を揃えた方がいくらかましだろう。
『……それじゃあ。まず交渉から行って見ましょうか?』
「そうですな。凄腕が見つかれば、それなりに戦えるかもしれませんからなぁ」
それなりにと言っている辺り、やはり勝率は高くないとケビンさんも思っているという事か。
『出来れば二つ名持ちがいいんですけどねぇ』
「ホッホッホ。うまくいけばいいですな」
だだ一つ言わせてもらうなら、まさかゲーム最初のミッションが、仲間の勧誘交渉とは思わなかったけど。