71
面倒なことになったと。社 真志は一人部屋の中で思案した。
部屋は暗く、画面はいつも以上に光を発して目に優しくないように見える。
そしてそこに記されている情報も、同様にやさしくはなかった。
ドラゴン。
大型の肉食恐竜みたいなそいつは、明らかに今までのモンスターとはサイズが違う。
情報収集の末に聞きだした貴重な意見は、こいつと遭遇したら諦めろの一点だけだった。
「鋼のような鱗と、強力な火炎、飛行能力が最大の武器。3体フルメンバーで正面から行ってもまず勝ち目がない。他プレイヤーとパーティ必須だが、倒せたとしても一人しかドラゴンを手に入れることはできない。パーティに入れると、3人でメンバーが組めなくなる報告がある。おそらく1.5、もしくは2つ枠を取っている可能性がある……。なんか敵にしても味方にしても使いづらいと」
そして極めつけが最後の一人、女性型のモンスターと言う以外は全て謎のモンスター。
今まで確認されたという話は全くなく、おじさんが言うには元人間で、何かヤバい物に突っ込んでいった末に誕生したと言う。
まったく意味が分からないが、どう考えてもまともでなさそうな姫様は意味もなく強そうだ。
あんなものをどうやって仲間にしたのかと連日様々な情報が駆け巡っているようだが、有力情報どころか、噂も曖昧なものばかりだった。
画面の前にはぐちゃぐちゃに丸められたメモがどんどん増えてゆく。
それでもあきらめるわけにはいかずに、俺はひたすらに情報収集に励んだ。
どうにか詰め込めるだけの情報を詰め込もうとするが、しかし調べれば調べるほどに、このゲームの奥深さと言うものを垣間見るだけだ。
草木の一本にいたるまで名前があり、動物もちゃんと存在する。その上キャラクター以外の人々にさえ営みが存在しているときている。
薄々気が付いていたが、この画面の中にはしっかりとした世界があった。
「……ほんとに、キャラが出来ることは多い。その割にプレイヤーは最低限の助言とアシストしか出来ない」
このゲームはアイテムのアシストというよりも、相手に如何にこちらの考えを伝えるか、それに尽きる。
プレイヤーは高みから彼らの戦いを見下ろして、贔屓のキャラクターの勝利を楽しむ。
逆に言えば、始まってしまえばほとんどそれしかできないのが歯がゆい。
「神様視点か、どこまでも……」
まさしくそんな感じである。
俺はたっぷりと牛乳の入ったインスタントコーヒーを飲みながら頭をしゃっきりさせた。
つまらないことを考えている場合じゃない。
「もうあんまり時間がないな……なんで俺はこんなにも思い悩んでいるんだろう?」
時間がない、勝たなければいけないと今の惨状を振り返って俺はふと考えを止めた。
当初の予定通り、俺は充実した夏休みを過ごしているのだろう。
しかし決勝戦。手放しに楽しんでいるはずが、どうにも俺は今までに増して思い悩んでいるようだ。
「事情は、あるんだ。でも、なんか違うよな……」
俺はどんな事情があるにしても、ゲームを楽しまなければならないはずだ。
決戦は明日。
そんな時、俺の元に、メールが届いたのはタイミングが良かったと言えばよかった。
宛名は社長さんだ。
条件反射的に中身を確認して、俺はしばらく目を閉じ、パソコンの電源を落とした。




