表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/85

「どうしてこうなった……冗談ですよね? 冗談だと言ってくださいお願いします」


 急転直下の展開に、思わず唇が震えた。


 受付のお姉さんに詰め寄ると、若干迷惑そうなお姉さんである。最悪だ。


「そんなに丁寧にお願いされましてもどうしようもありませんしー。……そ、それじゃぁ気を取り直してゲームの内容説明いってみましょうよ! せっかく契約者も見つかった事ですし!」


 無責任にそんな事を言って来るが、アイドルが出てくる大会なんてそんな知名度の高いものに出場するほど俺の肝は太くない。


「……俺、目立つのとかすげぇ苦手なんですけど」


「いえー私もまさか、すぐ横で当りを引くなんて事があるとは思いませんでした。……なんだかもうネットの方では話題みたいですよ?」


「速いよ!」


「情報が高速化してますからー」


 いやいやいや、それでも早いよ! あのアイドル、どんだけ人気だこのやろう!


 なんて事だ、冗談じゃないぞ? さっき写メで顔とか取られちまったぞそう言えば。


 絶望的な気分になりながら、血の気が失せた頭を抱えて、俺は席に座り直した。


「こほん……それで? なにをすりゃいいんですかね?」


 ともかく何かをしなければならない。すがるような気持ちでお姉さんにアドバイスを求めてみた。すると、受付のお姉さんは参加前提のアドバイスを始めた。


「とりあえず……メンバーが三人いないと始まりませんので、メンバー集めをしてみては?」


「……でも相手は凄腕なんですよね?」


「それはもう、強いですよ、あの三人は。だいたい負けさせる気ありませんから」


「本人の前で言っちゃいますか!」


「これはうっかりですね。口が滑ってしまいました。でも素直なのが私の唯一の美点なので」


「わーそうですかー。……惚れちまいそうですよホント」


「そうですか、美しいって罪ですね」


 この人、ほんとに勘弁してほしい。というか、開き直りを感じるのは気のせいじゃないだろう。


「……それで? 大会っていつあるんです?」


 もうあきらめた方がいいのかもしれない。こうなったらその大会とやら、存分に楽しんでやろうではないか。あきらめ交じりにそう尋ねるとお姉さんはとてもいい笑顔で即答した。


「明後日です」


「アホか!」


 すかさずツッコミを入れてしまったが、受付のお姉さんは、やれやれと頭を振って嘆息とともに呟く。


「申し訳ありません……でも販促なので」


「……萎えますから販促連呼するのやめてください」


「これは失礼しました。そうですね確かにその通りです」


 本当に正直な人なのか、身も蓋もない発言だった。これは本格的に俺は販促に利用されてしまうらしい。


「やっぱり棄権したいんですけど……ダメですかね?」


 最後にそう付け加えたのは本当に最後の抵抗である。


 俺のプレイスタイルは、もっとまったりしたものなのだ。


 オフラインのゲームだって、レベルを最高にしてからラスボスに挑む派の男、それが俺だ。


 しかしお姉さんはそんな俺にすごく残念そうな顔で視線を下げて、妙なことを言い始めた。


「……そうですか。そうですね、仕方ありませんよね。ここまで理不尽な要求ですものね。もしお受けしていただけるようでしたら、私の独断で本来貸し出しでしかお渡しできない、臨場感たっぷりにゲームをプレイできる最新のマウントディスプレイを無料でお渡ししてもよかったのですが……」


 マウント……ディスプレイだと?


 最近開発されたばかりの、ヘルメット型のアレだろうか? 従来の液晶ディスプレイで頑張っていた俺に? まるでゲームの中に入ったようだと雑誌等で言わしめたあれをくれると? 


 いやいや、馬鹿な。こんな理不尽な要求、なんで俺が受けなきゃいけないんだ。


 いくら俺が贈り物に弱いって言ったって、こんな露骨なエサをちらつかされてまんまと引っ掛かるなんてことがあるわけが……。


「って、大会だってゲームの内ですよね! やります!」


 しまった……つい!


 意見をついひるがえしてから、後悔する暇も無く、受付のお姉さんの指は残像を残すほどの速度でキーボードを叩いて、登録は完了。


 電光石火の早業に、俺は口をパクパク動かす。


「そうですか! やっていただけますか! では本登録をしておきますので!」


 受付のお姉さんはそんな俺の両手を握って握手をすると、はつらつとした笑顔だった。


「……は、早いですね」


「頑張ってくださいね! 私も個人的に応援してますから!」


 ぐぅ、俺の性格を見破られていたか! なんだか恥ずかしい!


 だがここでただわかりましたと言うのは負けた気がしたんだ、だから……。


「はぁ――ならもっかい確認ですけど」


「はい?」


 聞き返すお姉さんに俺は身を乗り出して唇を出来る限り笑顔の形に歪めて言った。


「……別に倒してしまってもいいんですよね?」


 するとすかさず、俺よりも様になった不敵な笑みで受け付けのお姉さんはこう返した。


「もちろん、存分に。でもそれフラグっぽくないですか?」


フラグか、どうやらこのお姉さんもゲーマーの様だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ