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随分と長い一日を終え、会場に赴くと受付のお姉さんは満面の笑みで俺を迎えた。
再び現れた目の下のクマが、俺ががんばった勲章である。
「いやぁ期待してますよ! 今日も邪神らしく頑張ってくださいね!」
「……」
まったく顔を合わせると、人の気力をごっそり持っていく人だった。
だけど、今なら耐えられる。
俺のメンタルは、アイドルさんの一件ですり減ってはいるが、耐久度自体は上がっていた。
ホントになれって大事である。
「もうすっかり有名人ですよ! 邪神ヤシロ! アイドルでもとことん容赦しないそのプレイスタイルにユーザー狂喜乱舞です! あらゆる意味で!」
「喜んでもらえてよかったです?」
「ええそれはもう! ところで、狂喜って狂うって字が入っているだけでなんか邪悪な印象になりますよね!」
「なんで今それ思いつきましたか?」
何にしても碌な噂は立っていないに違いない。
いわゆる一つの外道として、俺は全世界に発信されているわけだ。
お姉さんはどんよりする俺に、フォローはいちおう入れてくれるようだった。
「えーっと。まぁ色々言われていますが、ルール上は問題ありませんし。ただ絵的にすさまじかっただけです! そう言えばモザイクは今後貴方の試合ではどんどん使っていく方針なので、大丈夫ですよ?」
「どんな方針ですかって話ですよね?」
「……グロかったですからね」
「……そんなにですかね?」
今更過ぎて、言い返す気にもならない。
だいたいどの試合だって結構グロイじゃないかと言う感じである。
ただ俺の相手がアイドルさんで、キャラも可愛い女の子だったからヒドイ所業に見えるだけなんじゃないか?
「とにかく頑張ってください! 一ファンとして応援していますので!」
「……」
特に何を言うでもなく、俺は眼鏡を上げて会場を目指す。
無駄な抵抗も心の中では自由だ。
ただ……俺のプロフィールの画像にはすでに眼鏡付き卵に黒いマントが追加されていたことにはいよいよもの申したかったが。




