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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第7章 開戦

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反撃の風が吹く

優太がユステス将軍と合流した頃、作戦指揮本部にて。


「おい、ユステスを呼んでこい。」


「駄目です。剣を探しに行くと出ていかれてから行方知れずです。呼び掛けにも応じられません。」


「あ?逃げたんじゃねえだろうなクソ将軍が。国に戻ったら反逆罪で投獄してやる。おい、なら『グレイール』はどうした?」


「副将軍は強襲してきた崇拝教幹部の押さえ込みに苦戦されています。」


「チッ、どいつもこいつも使えねえ駒だな。」


相次ぐ剣戟銃音、悲鳴や怒号が飛び交う本隊から離脱し、作戦指揮本部へと戻った第一王子は、着いて早々悪態をつく。


そうだそうだと本部そこに属する取り巻き達が同調した。


(ユステス将軍の不参加も、実力不足であるグレイール副将軍の起用も王子あなた達の命令では?)


戦況報告の為、本部そのばにいたウェストンは心の中で毒づく。


もちろん、口にも表情にも出さない。


ウェストンが所属する王国特殊戦況調査団は国王直属の部隊であるが、この戦場での総指揮官は第一王子なので、今は彼の指揮下に属している事になる。


ウェストンは戦況分析班として戦いに参加しており、戦況を事細かく正確に把握して、王子および作戦指揮本部に伝える事で彼らの指揮を助力し、そこで下された命令を各部隊へ通達、優勢な状況を作り上げ維持するという重要な役割を担っている。


一見すると地味であるが、情報は戦場においてとても重要な武器であり、場合によっては勝敗を左右する。


だから、ウェストンは黙って任務をこなすしかなかった。


ここで彼ら分析班が作戦本部に属する幹部達とりまきたちに歯向かい、命令を蔑ろにすれば兵達が混乱し、必死で立て直しをこころみている本隊が今度こそ瓦解してしまう。


(取り巻きのイエスマン共はともかく、王子がまともな命令を出しているのがまだ救いか。)


ウェストンは胸の内で嘆息しながら灯音の護衛任務を解かれた部下達と共に本部が下す命令を待つ。


セラフィリアス王国第一王子、『レオフォード・アイネス・クランディア・セラフィリアス』は傲慢で冷酷だが無能では無い。


だからこそ


「火守の血も全く使えねえな。出力調整できない不良品じゃねえか。クソザコが集まってきて鬱陶しいから、ここから離れた場所へ捨てて来い。あ、なるべく血を流させろよ?囮にするんだからよ。」


平然と非情な命令を下す。


「さすがレオフォード様、名案ですね!しかし、あの・・・火守の娘を連れ出すのは良いとして、連れ出した者も魔物の標的にされるのではないでしょうか?」


「あ?そんなものそこらの兵士にやらせたら良いだろ。

そうだな、遠くまで運んだ後、女を好きにして良いと伝えろ。欲に目が眩んだ馬鹿が深く考えずに引き受けるはずだ 。

戦場から離脱できる上に女といられるんだ。しばらくは天国だろ?」


あかねと距離を置く事で、本隊へと襲いくる魔物の数が激減するとまではいえなくても、少なからず減りはする。


そうなれば部隊の立て直しも早くなり、攻勢へと転じられるだろう。


「まあ最後は地獄だがな。」


少なくない数の魔物に追われる事になろうと、レオフォードは囮側に護衛をつける気はないらしい。


逃げて逃げて逃げて、それでも、その先に待ち受けるのは魔物の餌食となる未来しかない。


ー 確かに! ー


戦いでの興奮か、本隊崩壊の恐怖から解放される安堵からか、取り巻き達の間で卑下た笑いが起こる。


そこには、第一王子レオフォールの私利私欲による策略の為に招集された灯音や、失敗のツケを払わされる兵士への罪悪が一切感じられなかった。


ー ギリッ・・・ ー


本部内が邪な熱気に包まれる中、ウェストンの部下の1人が奥歯を噛み締め、怒りに耐えていた。


『ユノー・アラスハ』である。


齢18歳である彼女は灯音の護衛として付いていたうちの1人であり、年が近い同性である事から灯音と話す機会も多く、短い間ながらも2人の間には友情が芽生えていた。


「みんなの為、友達の為に力になれて嬉しいです。」


護衛任務を強制的に解かれ、灯音と別れる際に交わした、彼女の言葉と笑顔がユノーの頭から離れない。


(・・・うん、決めた。)


思いを巡り巡らせた末、彼女は自身が灯音を連れて逃げようと決意した。


ただ、ユノーは若いとはいえ、ウェストン直属の部下であり、階級も騎士にあたる。


そんな将来を期待された者が自ら必死の囮になるのは大きな損失以外の何物でもない。


感情に任せた決め方であり、冷静な判断が出来きておらず、軍人としては間違いであり失格である。


だが、彼女はその選択が違いだとは思っていない。


彼女が目指している憧れの軍人、いや、騎士がそうであったから。


何よりも仲間を大切にした彼は、それが原因で苦境に立たされようとも、決して仲間を見捨てる事なく、また、心折れる事なく立ち向かい乗り越えていった。


実在した人物であり、物語の主人公でもある白い鎧の騎士。


そう、彼女も白騎士かれに憧れを抱く少年少女のうちの1人であった。


覚悟は決めた。


もちろん、逃げ切る覚悟だ。


死ぬつもりなど更々ない。


ユノーは準備を進めている幹部達へ顔を向け、進言しようとする。


(駄目だ。)


だが、口を開くより先に、脳内にはっきりと否定の声が上がった。


(お前じゃ逃げ切れない。)


声の主はウェストン。アースラの能力を介してユノーと念話を繋げたのだ。


(しかし!それでは彼女を、灯音を見捨てる事になります!)


ウェストンの否定にユノーは食い下がった。


ー 隊長も普段から仲間を大切にしろと口煩く言っているのに何故!? ー


そんな非難の意思を抱くが、すぐに霧散する事になる。


(お前が行けば俺も大切な仲間達を見捨てる事になる。)


(っ!・・・)


ハッと気づいたユノーは意識して心を落ち着かせる。


ー 自分が行かなければ! ー


その思いは、もちろん友を心配する気持ちからきたものだが、緊迫した戦いの雰囲気に当てられていた事も否めなかった。


(では・・・どうすれば?)


冷静になった彼女は、信頼する上官ウェストンの意見を頼った。


彼は部下ユノーを安心させるように優しく、そして力強く宣言する。


(大丈夫だ。火守灯音を護衛するに相応しい者がもうすぐ来る。)


(・・・え?)


ー ゴォオオウッ! ー


ユノーが聞き返そうとした時、突如、作戦指揮本部がある建物の外、灯音が待機している方向から激しい風の音が聞こえた。


「・・・来た。」


ウェストンは小さく、しかし、はっきりと呟く。


同時に灯音を護衛していた王子の部下が慌てて本部内へ入ってきた。


「報告します!護衛対象を中心に風が突然吹き荒れ、気付けばいました!」


報告者は混乱しているようで言葉を上手く伝えられない。


「落ち着け。そして、何がいたか言ってみろ。」


作戦考案中に水を差された王子レオフォードは低くドスの効いた声で脅すように報告を促す。


「し、失礼しました!」


失態に気付いた部下は慌てて謝罪し、無理矢理心を落ち着かせて報告し直す。


「吹き荒れる風の中から現れたのは少女です!幼い少女が突然、護衛対象の傍に現れました!」


「「・・・は?少女?」」


その結果、何故か王子とウェストンの声が綺麗に重なった。

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