対魔王軍最前線
灯音が目撃する数分前、白い流星こと、優太とミーシャは空を駆けながら、敵陣に突っ込んだ後の行動を打ち合わせしていた。
「敵陣を分断した後は混乱に乗じて俺を地上に降ろしてくれ。アリス達と合流する。」
(分かった!じゃあ、私はパパを降ろした後、先に灯音お姉ちゃんの所に行って護っておくね!)
「ああ、そうしてくれると助かる。でも、無茶したら駄目だぞ?」
(それはお互い様だねっ。)
行動と覚悟が決まった所で、優太達は本隊と魔王軍との戦いに介入する。
ー ズドドドドォオオオオオン! ー
ミーシャは飛翔の勢いを落とさないまま突入し、陣とも群れともつかない魔物の集団の中を、空を駆けて横断する。
天馬が駆け抜けた際、その蹄に運悪く踏まれた魔物達はことごとく身体がひしゃげ、もの言わぬ肉塊に成り果てた。
また、直接接触していない魔物達も、駆け抜けた際に生じた衝撃波によって吹き飛び、あるいは捲れ上がったコンクリート等の瓦礫の散弾を全身に浴びて、原形を留めない程ズダズダに引き裂かれる。
そして、ミーシャが通過した直線上に、魔物の血肉と砂塵が舞い散る空白地帯が出来上がった。
ただでさえ戦場の空は厚い雲に覆われているのに、魔王軍の中に突如できた空白地帯は、霧のように砂塵が舞っている為、すこぶる視界が悪い。
人間が1人紛れていても気付かないくらいに。
魔物達は奇襲と視界不良で混乱に陥り、至る所で同士討ちが発生していた。
ただ、それでも火守の血は魅力的なようで、混乱しながらも魔物達は進軍を再開する。
鎧に身を包んだ、とあるゴブリンは混乱の中、運良く生き残り、抗えない衝動に身を任せて敵陣へと歩を進めていた。
周囲で同族の悲鳴が度々上がるが、欲望のまま同士討ちでもしたのだろうと気にも留めていなかった。
もちろん警戒もしていない。
ー ザシュッ ー
「ギィy?」
だからこそ、終わりは呆気なかった。
そのゴブリンは何が起こったか分からないまま、頭部と胴体に分かれて崩れ落ちる。
悲鳴さえ上がらなかった死は誰にも気付かれず、その亡骸は後続の魔物に踏み荒らされていった。
(出来るだけ削る!)
砂霧の中、優太は次々とゴブリンやコボルトといった比較的倒し易い魔物を討ち取っていく。
肉眼では視界不良でも、鎧の機能のおかげで兜内に景色が鮮明に映されるので問題なかった。
混乱と砂霧が収まるまでに、また、アリスとリリが合流するまでに、少しでも敵戦力を削ろうと、優太は敵陣の中を縦横無尽に駆けて敵を屠る。
鎧が仲間達が近付いてきている事を伝える。
合流まであと少し。
ー ゴォオオオオウ! ー
「っ!」
しかし、突如として魔王軍内に突風が吹き、砂塵の霧を根こそぎ吹き飛ばしていった。
突風に耐えた優太が顔を上げると、遠くの方で馬に似た頭部と、牛に似た頭部を持つ2体の大きな魔物が、巨大な鉄扇を手にしているのが見えた。
「くっ!」
優太が予想していたより早く、魔王軍の中で自分の存在が白日の元に晒されてしまった。
ー グギャギャギャギャー! ー
優太の存在を認識した魔物達は憤怒の雄叫びを上げる。
1対大軍、しかも囲まれた状態である為、退路はない。
絶望的状況の中、それでも優太は心を折らずに左腕と剣を構える。
身体に刻みつけた型である。
盾が先日のユーリ戦で損傷して使用できないにも関わらず、その型を構えるのは、絶対の信頼を置いているからだ。
アリス達と合流して、灯音を救出するまで絶対に倒れない。
固い決意を胸に、優太は押し寄せてくる魔物の軍勢を迎え撃つ。
ー グォオオオオン! ー
大型の魔物の咆哮を合図に、少なくない数の魔物が殺到する。
同時に、背後から剣戟音と魔物達の絶叫が聞こえ、複数の影が優太の隣へと踊り出た。
影の正体は騎士達であり、彼らは勢いのまま優太に迫る魔物達を斬り倒す。
「少年、大丈夫か?」
そのうち、全身鎧を着込んだ大柄な騎士が、優太の隣に並び立ち、大きく猛々しい声で話し掛けた。
「は、はい!ありがとうございます!あの、貴方は?」
突然の出来事に混乱していた優太であったが、辛うじて言葉を返す。
返事を耳にした騎士は、何故か兜の中で少しだけ笑い、先程同様、勇ましく名乗った。
「『ユステス』だ。今後とも覚えておいてくれ。」




