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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第6章 魔王崇拝教

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魔王崇拝教幹部第9位

「グォオオオオオ!」


以前遭遇したオークと同じく、優太の、白騎士の姿を認めた瞬間からオークは優太へと尋常でない殺気を放つと共に雄叫びを上げて彼へと迫り、ゴブリンの血や肉を滴らせた巨大な棍棒を脳天へと叩き付ける。


優太が大きく横へステップを踏んだ為、直撃は免れたが、代わりに寸前まで彼がいた場所は陥没し、周囲には大量の土煙が撒った。


月明かりが出ているとはいえ夜。


更に土煙により視界が極めて悪く、一瞬だがオークの姿を見失ってしまう。


直後、オークの影が浮かび、土煙を掻き消す凶悪な横薙ぎが振るわれるが、強化された反射神経で辛うじて身体を沈み込ませ、その一撃を回避した。


続く追撃の蹴りを、斜めに構えた盾でさばく。


ー ドガァアアッ! ー


攻撃を受け流したはずなのに、凄まじい衝撃が盾を襲い、堪らず数メートル後退した。


優太の態勢が整わないうちにオークは距離を詰め、避けられないタイミングで止めの袈裟斬りを放つ。


「っ!」


盾で受けるとしても、タイミング的にギリギリであり、また、たとえ間に合ったとしても盾ごと潰されてしまう事は必至であった。


だが、何もせず直撃を受けるよりは、わずかでも可能性がある方に賭けようと、優太はオークから目を離さず盾を構え直そうとする。


オークの棍棒が唸りをあげて迫る。


優太は盾を掲げるが僅かに間に合わない。


死が迫っているからか、世界の全てがスローモーションのように見え、周囲の温度も1、2度下がったように感じた。


だがーー


その時、振り下ろされる棍棒の勢いが僅かに鈍った。


それを優太は見逃さない。


「っ!間に合え!」


彼は全力で左前へと態勢を崩しながらも無理やり踏み込んだ。


ー ズドォオオン! ー


直後、轟音。


再び地面にクレーターが穿たれる。


しかし、そこに優太の姿はなかった。


土壇場の回避が成功し、オークの斜め後ろに回ることが出来たのだ。


空振ったオークに隙が生じる。


オークの肉体が異常に硬い事は前回の戦いで確認済みの為、斬り落とすよりバランスを崩させる事を意識して、態勢を整えた優太はその右膝裏に勢いを付けた盾の一撃を打ち付ける。


「ぐぅっ!」


まるで木刀を大木に全力で打ち付けたかのような衝撃が腕に伝わった。


鎧で身体が強化されているはずの優太の腕が逆に悲鳴をあげる。


「こんのぉおおお!」


腕が痺れて途中で止まりそうになるが、根性で耐えて全力で振り抜いた。


もちろん、それだけではオークのバランスを完全には崩せず、衝撃を受けた右足とは逆の左足に力を入れて踏ん張ろうとする。


だが、優太には共に戦う仲間がいる。


「グォガッ!?」


一見、こらえたかと思われたオークの身体は、驚愕の唸りと共に地面へと傾いていった。


左足に力を入れた時、まるで氷上に足をついたかのように滑り、踏ん張りがきかずバランスを崩したのだ。


事実、その時オークが足をついていた地面は凍っていた。


凍らせたのは、優太から少し離れた位置で愛剣を地面に突き刺しているアリスである。


「オークよ、わらわ達の事を忘れておるじゃろう!」


(冷気の足枷で多少は鈍らせましたが・・・アリス様、ユータ様、油断なさらず。)


アリスは血気盛んに、リリは冷静沈着に言葉を発する。


愛剣を引き抜いたアリスは、倒れたオークの頭部へと駆け、その大きな口内の奥へと剣を差し込んだ。


ー グジャッ ー


「っ!グェエッ!グゲ・・・ゴポォッ・・・」


さすがに身体内までは頑丈でなく、口から血が溢れ出る。


オークは喉から剣を引き抜こうと、倒れたまま腕を振り回するが、リリによる魔法あしかせで徐々に鈍くなる動きでは速度と威力に欠け、優太の盾に難なく阻まれてしまう。


「チェックメイトじゃ。内側なかから凍れ。」


ー パキパキ、パキ ー


「ゲェエッガァアアアア!・・・」


アリスの剣が青白く輝き、オークの口内から凍る音が聞こえ始めたと同時に断末魔が上がる。


最後の力を振り絞って激しく抵抗するが、優太が必死で防御を行い、アリスへの攻撃を許さない。


やがてオークは動かなくなり、口から溢れ出た血も凍り尽き、断末魔も聞こえなくなった。


オークが絶命している事を確認してから、アリスは剣を引き抜く。


「ふう・・・思惑通りにいけたのじゃ。」


アリスはそっと息を吐く。


前回の戦いから、オークは体外からより体内から攻める方が有効であると推測し、今回の戦いで内部への攻撃を実践した。


結果として、アリスの戦法は対オーク戦では効果的であると立証される事となった。


予想とは裏腹に、迅速にオークを討てた為、体力の消費も抑えられた。


しかし、気を弛めた者は誰1人としていない。


まだ戦いは終わっていない。


むしろ、今までは前哨戦に過ぎず、次に起こるであろう戦いこそが決戦であった。


優太達は襲撃に備えて再び灯音を守るように立つ。


(いつでも来い・・・!)


優太が心の中で呟いた時である。


「仮にも魔界の兵ともあろう者達が・・・情けない。」


静寂を取り戻した公園内に突然女性の声が響き渡った。


「誰じゃ!?」


アリスは声に対し武器を構えて鋭く詰問した。


オルガじゃない・・・!?」


優太も困惑しながら盾と剣を構える。


オルガの襲撃を覚悟していた分、肩透かしをくらった気分に陥るが、声の主も強敵には違いなく、優太達の間に緊張が走る。


口振りからすると、優太達とゴブリン、オークの戦いを観察していた様子であった。


その上で、勝利した優太達から離れ去る訳でなく、しかも逆に自身の存在を示したのだ。


存在を知られていない事は、命のやり取りを行う戦場においてとても優位となる。


安全に離脱できるのはもちろん、奇襲の成功率も高くなるのだ。


その優位性を捨てて己の存在を明かすのは、ただの目立ちたがり屋か、よほど強さに自信のある者かのどちらかである。


「ああ。君達がそうか。」


満点の星空の下、ゴブリン達が侵入してきた方角から声の主が姿を現す。


スーツ姿に長めの髪を編み込んで短くまとめた男装の女性であった。


その表情は冷たく、足元に転がるゴブリンの死骸を、道端の石ころのように気にも止めず踏み越えてくる。


「・・・わらわ達の事を知っておるのか?」


彼女の挙動を警戒しながらアリスは問う。


「オルガから話を聞いた程度にな。」


「オルガ・・・!じゃあ、そなたも魔王崇拝教の信者で間違いないな?」


ー カチャリ ー


アリスは剣を鳴らし、臨戦態勢へ入る。


「そういえば名乗っていなかったな。」


空気が張り詰める中、女性は優太達から少し離れた場所で立ち止まると、武器を出す訳でも、構える訳でもなく、無防備な状態で名乗りをあげる。


「私は魔王崇拝教ヘルズピア幹部ナンバーズ第9位ユーリ。」


ただそこに立っているだけ。


それなのに隙が見つからない。


ユーリは言葉を続ける。


「オルガは訳あってここには来ないが、彼から伝言を預かっている。『次は万全の状態で殺してやる。3度目はもうないぞ。』だそうだ。

・・・しかし、残念だがそれも叶わない。何故なら、今から私が君達を殺すからだ。」


淡々と語る一方でユーリの殺気が急激に増幅する。


「私達の計画を邪魔する君達にはここで退場してもらおう。」


彼女はおもむろに懐から黒い革手袋を取り出すと地面へと落とす。


ー ズズ・・・ ー


オルガの黒ナイフと同じく、手袋も地面へと沈み込んだ。


そして、彼女は表情一つ変えないまま、宣戦布告を行う。


獄装アビスリンク。」

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