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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第5章 影は忍び寄る

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穏やかな日

『オークやゴブリンとの死闘』という、当事者達にとっては子や孫、そして子孫へと永遠に語り継げる程の大きな出来事だったとしても、日本または世界規模からみれば、情勢に全く影響を及ぼさない程度の些細な出来事だったのだろう。


ふと、そんな冷めた感想を抱きつつ、優太はリビングでコーヒーを片手にテレビを流し見していた。

今は地方ローカル番組でニュースが読まれており、昨夜の出来事たたかいについては、液体窒素を積んだトラックによる事故として放送されていた。

現場の映像も映されていたが、凍った木々の一部やひび割れたアスファルトのみで、全貌はうまい具合に隠されて見えない。


確かにこの映像ではトラックの横転事故といわれても納得できるものであった。

もちろん、実際の戦場げんばはそんな生易しいものではないが、セラフィリアス王政府ならびに関係者達が必死に隠匿、修復しているのだろう。


(先日といい、昨日といい滅茶苦茶にしてしまって申し訳ないですが、こちらも命がかかっていたので許して下さい。そして、また御世話になります)


優太は今も現場で一生懸命作業しているであろう顔も名前もしらない人達に、心の中で謝罪と感謝をする。


「ユータ様。おかわりはどうですか?」


そんな中、キッチンの方から銀髪ショートの美少女が姿を現し、笑顔で優太に訊ねた。

人型になったリリである。


「ああ、ありがとうリリ。もう一杯もらうよ」


「分かりましたっ」


リリは嬉しそうに優太からカップを受け取り、コーヒーを注ぎにキッチンへ戻る。

その姿を微笑ましく見ているとーー


ー ドタドタドタッ! ー


階段を急いで降りる音が響き


「ぬわあぁぁっ!リリ!優太!何故起こしてくれなんだ!遅刻してしまうじゃろーっ!」


慌てた表情のアリスが元気よく顔を出した。


「もうっ、わらわはそなた達の主人じゃぞっ!」


学校へ行く最中、アリスはプリプリ怒る。

しかし、本気で怒っている訳でなく、甘えや、じゃれ合いの一環である事を優太達は知っているので、笑いながら謝罪した。


「すまんすまん。リリからよく寝てるって聞いたし、昨日はあんなに頑張って疲れてるだろうから、起こすのも悪いと思ったんだ」


「限界まで戦われましたからね。御無事で何よりでした」


「うっ、ま、まぁわらわの事を気遣ってくれての結果じゃし、今回は不問にするのじゃ」


ありがとう。


優太達の気遣いにアリスは照れながら感謝を伝えた後、3人で明るく笑う。

昨夜を生き残れた事に感謝して。


「そういえばアリス。今日は本当に休まなくて良かったのか?」


優太はあの後の事を思い返す。


オークが粉々に砕け散り、今度こそ本当に事切れた事を確認した後、灯音と共に駆け寄ってきたリリの背にアリスを預け、優太も戦闘状態アクティブモードを解除した。


「ぐっ!ぁ」


ー バキ、ゴキ ー


その途端、全身の筋肉や骨が軋みをあげ、 重度の筋肉痛のような痛みが優太を襲う。

倒れる程ではないが、しばらくはその場、その態勢から身体を動かす事ができそうにもなかった。


(鎧は使用者の身体能力を強制的に上げているので、装備解除後にその代償フィードバックがくるのです)


とはリリの言葉である。

ちなみにリリも戦場を駆け巡り、疲労困憊であったので全員でしばらく休息をとった。


なお、フィードバックの痛みについては、身体を鍛えていけば徐々にマシになっていき、かつ、身体能力も向上し強くなるとの事なので、日々の鍛練の重要さを改めて認識した優太である。

やがて、まだぎこちない歩き方しかできない優太もリリの背に乗せてもらう形となり、どうにか身体を動かせるようになった一向は、どちらが送られているのか、護衛されているのか分からない状態で、灯音を家まで送り届けた。

優太も自宅に着いた後、スヤスヤと寝息を立ているアリスをリリに任せ、自室へと上がりベッドへと倒れ込んだ。

そのまま数秒もしないうちに、気絶するように深い眠りにつく。


翌日となった今日は、昨日の戦いで疲れた身体を十分に休ませる事にした。

もちろん朝の鍛練も本日は臨時休業である。


「もう大丈夫じゃ。学舎まで休むと、逆に身体が鈍ってしまう。それに今日から授業じゃからな。休む訳にはいかぬ」


アリスは気合いの入った足取りで、駅前から学校へと向かって歩き始めた。

そんな彼女の姿に苦笑しながら優太達も並んで歩く。

アリスは今まで専属の家庭教師達とワンツーマンで教養を身に付けてきたので、学校等の集団学習の経験がなく、大勢で楽しく学ぶ事に憧れを抱いていた。


そして、日本に来てその憧れを叶える機会を得て、本日がその初日であった。

そんな待ちに待った日を誰が休めようか。


(まあ、今日は授業の説明くらいだしな)


御主人様の願いを叶える事も騎士の務めである。

優太達はアリスの気持ちを理解しており、休む事を強くは勧めず彼女の思うようにさせた。


初授業は優太の予想通り、どの授業も説明と簡単なレクリエーションで占められ、身体を休めるにはもってこいであった。


そして、放課後。

優太達は昨日と同じく、超常現象研究会の部屋に顔を出す。


「昨日ぶりじゃな、灯音。あれからは何事もなかったか?」


「はい、アリスさん。少し不安でしたが、何もなかったです。まだ御守りが護ってくれているようです。ですので、あの時は本当に偶然的に見つかってしまったのかもしれません」


この部屋の主である少女は微笑みながら、首から下げている御守りを引っ張り出し、優しく撫でた。

白蹄高校2年にして超常現象研究会の会長の火守灯音ひのもりあかねである。

彼女は昨日の夕暮れ時、突然現れた化け物に襲われそうになったところを、アリス達に助けられたのだ。


彼女の家系は特別な血を宿しており、それが原因で過去にも一度、同じような化け物に襲われかけた事があった。

その時、偶然出会った白騎士に助けられ、彼から魔除けの御守りを譲り受けて以来、昨日まで平穏な日々を送る事ができていた。

今回もアリスのおかげで事なきを得たが、帰宅後、もしかして御守りの効力が切れてしまったのではと、夜は不安でなかなか寝付けなかった。

だが、押し潰されそうになる心を、御守りを握って耐えているうちに、そこから微かに温もりを感じて不思議と安心する事ができ、そのまま微睡みのふちへと誘われていったのだ。


その優しい暖かさから、灯音は御守りがまだ自分を護ってくれているのだと確信している。

以上の事をアリス達に伝え、今度は灯音が彼女達に質問した。


「それで、昨日は余裕がなくて聞く事ができなかったのですが、アリスさん達は・・・異世界のお姫様達・・・なのですか?」


昨日の出来事を見れば、彼女達が只者でない事は明白なので、疑っているのではなく確認の為の質問であった。

対するアリスはあっけらかんと答える。


「そうじゃぞ。異世界人というのは日本では一応機密事項じゃが、まあ、そなたなら公に吹聴する事もなかろうし大丈夫じゃろう」


「そうだったのか?俺には口上付きで最初から異世界人だと自己紹介してたような」


「あ、あの時は緊急事態じゃったのじゃ!」


「勘違いでしたけどね」


「うっ!」


優太とリリからからかいの突っ込みが入り、たじろぐアリスであったが、別方向から助け船が出された。


「アリスさんとリリさんが異世界人だというのは納得できるのですが、雪城君もなのでしょうか?正直、日本人にしか見えませんが・・・あと、私や皆さんも捜している魔法使いさん・・・白騎士さんも、もしかして異世界人なのですか?」


「いや、優太は正真正銘の日本人じゃ。偶然この街で出会ったのじゃが、過去に白騎士に助けられたという奇跡的な接点があったし、逆に運命だったかもしれぬ。そなたとも同じ事が言えるがの。そして、白騎士じゃが・・・異世界人、わらわ達の世界をクリシュナ、わらわの国をセラフィリアスと言うのじゃが・・・その類いではなく、たぶん日本人である可能性が高い」


アリスの推測については、セラフィリアスに伝わる物語も関係しているので、ついでにその物語も要約して灯音に伝えた。

ただ、アリスにとって大好きな物語なので、要約したはずなのに多少長くなってしまったのは御愛嬌である。

更にその後、アリスと優太がそれぞれ白騎士に助けられた時の事を語ったので、多くの時間を要してしまった。


それにも関わらず、灯音は飽きる事もなく、物語や彼女、彼の話を興味津々で最後まで楽しく聞いてくれた。


「確かに話を聞くと私達を助けて下さった白騎士さんの日本人である可能性が高そうですね。そういえば、雪城君もそうですし、白騎士さんも魔法を使っていましたが、日本人でも魔法を使えるものですか?」


全てを聞き終えた灯音は、アリスの推測が正しいものだと感じ、また、自分が日本人である事にちょっぴり誇りを持った。

そして、少し気になった事をアリスに問い掛ける。


「優太のは少しだけ意味が違うがの。じゃが、程度はあるが、基本的に魔法とは誰でも使えるものなのじゃ」


「それでは私でも魔法が使えたりするのですかっ?」


魔法に強い憧れを持っていたのか、灯音は目を輝かせて、先程までの落ち着いた雰囲気を一変させ、食い気味にアリスに迫った。


「あ、ああ。知識と道具と鍛練が必要じゃがの・・・そうじゃな。優太の知能ある鎧の件もあるし、これを機にちょっとした魔法講座でもするかの」


アリスは灯音の反応に少しだけ戸惑いをみせたが、良い機会だと思い、優太への知識教育を兼ねて魔法についての説明を一同に行う事を思い付く。


「本当ですかっ!?ありがとうございます!」


その提案に灯音は即答で賛成し、優太もインテリジェント・メイルの使い方を学ぶ為、快く賛同した。

ただ、今日はもう部活の終了時間に近い為、明日以降にする事を約束し、灯音の言葉によりこの日の活動が締められた。

帰り道、昨日の事もあるので、優太達は灯音の許可を得て彼女を家まで送り届ける。


「そういえば灯音よ。そなたは何故わらわ達に対しても敬語なのじゃ?」


その道中、アリスは気になっていた事を灯音に訊ね

た。


「それはアリスさんはお姫様ですし・・・」


「リリや優太に対してもじゃ。そなたの方が年上じゃし、わらわ達に対しても砕けた口調で良いのじゃぞ?」


「そうなのですが・・・実は小学生の頃から少し孤立していて・・・正直同世代の方達とどう接したら良いか分からないのです」


灯音は恥ずかしそうに、そして、少し寂しそうに答える。

それを聞いたアリスは何かを決心した表情を一瞬浮かべた後、すぐに優しく微笑んだ。


「わらわも同じじゃった。わらわは出自が少し特殊でな。王族や貴族の中では孤立しておった。そなたと同じく接し方も分からず、じゃが、友達というものに憧れを抱いておった。そんな中、白騎士様やリリ、優太と出会い徐々に仲間を、友達を増やす事ができたのじゃ」


そこで一度言葉を止め、少し緊張を含んだ声音で申し出た。


「わらわが日本に訪れた目的は、白騎士様を捜す事とわらわの騎士を見つける事、そして、友達を作る事じゃ。特に友達を作る事はわらわにとって、なかなか難しくてな。じゃが、そなたとなら身勝手ながらきっとうまくいくと思っておる。じゃから・・・こんな不出来なわらわで良いのなら、どうか友達になって欲しい」


「不出来なんてそんなっ!・・・こちらこそ私なんかで良ければ、無礼をかけると思いますがよろしくお願いします」


異世界とはいえ王女であるアリスに頭を下げられた灯音は、慌てた感じで手と首をブンブン振り、その後、はにかみながら申し出を快諾した。


「ありがとうなのじゃっ!無礼など気にするでない!それと、友達じゃから今後は敬語も不要じゃ!」


新たな友達を得たアリスは笑顔が弾ける。そんな彼女を見て、優太やリリにも笑顔が広がった。

友達の申し出は、彼女自身の目的の為だけではなく、灯音への心遣いも感じる事ができ、着実に一歩ずつ立派な王女へと歩んでいる事が窺える。

その後、優太やリリも友達になりたいと申し出て、灯音はもちろん快諾した。


部活の先輩後輩兼友達となった4名は賑やかに帰り道を歩く。

それぞれ全く異なった人生を歩んできた者達が、共通の目的を持ったが故に出会い、そして友達となった。

これを運命と言わずに何と言おうか。

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