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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第4章 進む非日常

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穏やかな始まり

アリスと優太の朝稽古が始まって数日が経った4月初め。


ー パシィ! ー


ー パァン! ー


ー バシィッ! ー


古い剣道場でこの日も朝早くから、竹刀が打ち合う音や竹刀を打ち払う音、そして竹刀が身体に当たる音が響き渡る。


「痛っ!」


「チェックメイトじゃ」


竹刀が当たった音を響かせたのは、もちろん優太であった。

彼は攻撃を受けた右脇腹に手を当て、痛みに呻く。


「わらわの勝ちじゃ。今回の反省点じゃが、なるべく剣同士で打ち合うのは避けよ。攻撃をかわす事を最優先とし、かわし切れぬなら盾を使い、それでも無理そうな場合に、最後の手段として剣を使うのじゃ。実剣じゃと刃こぼれや最悪折れたりもある。または今のように払われて、無防備になったりな。まあ、初めよりはマシになってきてるゆえ、鍛練を怠らずに続けるのじゃ」


「ぐぅっ、ぜぇっ、・・・分かった。アドバイスありがとう、先生アリス


痛みと息切れで呼吸が乱れている優太とは対照的に、アリスはまだまだ余裕のある様子で、彼に先程の反省点を伝える。


優太達は面以外の防具を着けていない。これは痛みを知る為と、痛みに慣れる為との事らしい。

鍛練の時から防具を着けていると、痛みを緩和、または防ぐ為、どうしても防御の意識が疎かになってしまう。

場合によっては防具で防御する事について、無意識のうちに依存してしまうかもしれない。


そして何より、想定外の事が起こるのが実戦である。

防具を簡単に引き裂く武器が相手だったら。

そもそも、防具を身に付けられずに戦闘が始まったら。

だからこそ、防具に頼りきらないようにする為に、アリスと優太は稽古の時から必要最低限の防具しか身に付けていない。

痛みを知って、防御の重要性を本能に叩き込む為に。

痛みに慣れて、傷を負わされた時でも冷静さを失わない為に。

その全ては戦いにおいて少しでも生存率を上げる為に。


「さて、と。優太よ。呼吸は整ったか?先程の反省を踏まえて、もう一戦しようぞ」


「おう、呼吸も整ったし望むところ・・・いや、待て。リリ、今何時だ?」


(?まだ7時前ですが)


「っ!しまった、やばい!早く帰って準備しないと遅れる!すまん、アリス。今日はこれで終わりにしよう」


「なんじゃ急に慌てて。何か大事な用でもあったのか?」


「ああ、凄く大事な用だ!」


いつもながら、もう一戦する余裕があり、優太も乗り気であったが、何かに気付いてリリに時刻を確認した時から彼は慌て出し、稽古終了の旨をアリスに伝えつつ、急いで帰り支度を始めた。

突然の事で状況が把握できない彼女は至極まっとうな疑問を問い掛ける。

それに対し、道場の清掃中である優太は手を動かしながら答えた。


「今日は高校入学の事前説明会なんだ!」


優太が今年の春から通う予定の白蹄高等学校はくていこうとうがっこうでは、入学式や翌日から始まる授業を円滑に進める為、校内案内や授業内容、部活動紹介といったオリエンテーションを入学式前に一度開催しており、それが今日であった。

開始時刻は通常の授業日と同じ8時30分。

今から帰宅して準備をし、高校に到着する時間を考えれば間に合うが、のんびりする余裕まではないといった具合である。


優太はテキパキと後片付けと買える支度を行い、道場を後にする。

もちろん、アリス達も道場を出発し、いつもと時間は違えど、いつもと同じく雑談と共にジョギングしながら帰路につく。


「高校とは確か学舎の事じゃったな?」


「そうだ。去年まで中学生だったんだが、この前卒業して、今年から高校に通うんだ。そういえば、アリスは学校に行かなくて良いのか?」


「セラフィリアス王国では、一般家庭は学舎に通うが、王侯貴族は専属の家庭教師とワンツーマンで教養を受ける事が一般的なのじゃ。もちろんわらわもそうじゃった。15才で行われる成人の儀式までに、こちらでいう大学を卒業するレベルの教養を身に付けなくてはならぬから、学舎ではちと間に合わぬ」


「そうなのか。それはそれで大変だな。それじゃアリス達はこのまま学校へ行かず仕舞いになるんだな」


「いや、成人の儀式が終わる3年後に、王侯貴族は王立の学舎に入る事が決まっておる。まあ、教養を身に付ける為ではなく、協調性や指揮命令能力を高める為じゃがな。あとは、コネを作ったり、派閥を拡げたりもじゃ。何にせよ、楽しさとは無縁なものになりそうじゃ」


アリスは少し寂しそうに、そして、羨ましそうに日本との、一般人との教育の違いを説明した。

話題が一段落した後、彼女はもう1つ気になった事を訊ねる。


「そういえば、今日の午後からの散策は中止になるのかの?」


朝稽古が始まってからは、午後からの散策も日課となっていた。

白騎士の手掛かりを見つける為に、街の散策がてら、気になる場所を数箇所巡ってみたが、まだ有力な手掛かりを見付けるには至っていない。


「いや、説明会は午前中で終わるようだし、今日も散策しよう」


白騎士の手掛かりについては、特段焦っていない為、中止にしても良かったが、単純にアリス達と街を散策する事が楽しいのと、鍛練の気分転換にもなるので、優太個人としては散策したい気持ちの方が大きかった。

それはアリス達も同じだったようで。


「そうじゃったか!じゃったら今日は昨日、テレビで紹介されたあの店に行きたい!」


(パンケーキとやらが有名なお店ですね!私も是非御一緒したいです!)


弾んだ声で、あそこに行きたい、あれがしたいと、散策のスケジュールを次々と立てていく。

彼女達も白騎士探しに焦りはしていなかった。

焦ったところでどうにもならない。時間はまだある。

だったら、今できる事をしよう。今しかできない事を。

日常の幸せを噛み締める為に。


そんな彼女達の年相応のはしゃぎ声をBGMに、優太は軽やかな気持ちで、家までジョギングを続けた。

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