表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第4章 進む非日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/69

陽だまりの朝

ー バシィッ! ー


優太の腿にアリスの放った竹刀の一閃が直撃し、本日何度目かの小気味良い竹刀の音が道場内に響き渡る。


「痛・・・っ!」


「どうした!動きが止まっておったぞ!」


「ぐっ、このっ!」


叱咤する声に負けじと、優太は痛みを根性で押さえつけ、続く斬撃を左腕に着けた練習用の木盾で打ち払う。


ー パシィッ! ー


身体に当たるよりかは若干高い音を鳴らし、竹刀と木盾がぶつかり合う。


「おっ!良く防いだ!では、これはどうじゃ!」


アリスは声と共に腰を落として一回転する。

視界を遮っていたアリスの盾が離れた事で優太の視界は開けたが、彼女はその視線より更に下で構えていた為、優太からは消えたように見え、驚きで一瞬動きが固まってしまった。


そしてーー


ー バシィッ! ー


「うっ!?」


回転した竹刀の一撃が優太の膝裏を強打し、バランスを崩された彼は堪らず尻餅をつく。

そして、急いで立ち上がろうとした優太の首筋に、アリスは竹刀を当てて一言。


「チェックメイトじゃ」


本日何度目かとなる優太の敗北を言い渡した。


「ふう・・・また敗けか」


優太は深く深呼吸を行い、身体と精神の熱を冷ますと共に、今の稽古を振り返って苦笑した。


「当然じゃ。今日、しかも一時間程前に剣の稽古を始めたばかりの者に敗けてたまるか」


アリスもクールダウンを行いながら苦笑で返す。


「じゃが、最初に比べたら動きは良くなってきておる」


「そうか?」


「ああ、最後はわらわの攻撃を防いだではないか。それだけでも大きな進歩じゃ。まあ、まだまだ『攻防一体』からは程遠いがな」


「そりゃ、一時間程前に稽古を始めたばかりだからな。でも、『攻防一体』か。頭では分かっているつもりだけど、実際身体を動かすととても難しいな」


「二刀流のようなものじゃからな。それに、わらわにとっては専門外じゃし、そなたに教えられるのは基礎の型と理念だけじゃ。じゃが、幼い頃より武芸を叩き込まれて、武器の概念、使い方が凝り固まってしまったわらわ達よりは、武器について知識のないそなたの方が向いているはずじゃ。このまま反復していけば、必ず形となってそなたの力となろう。鎧が発達して盾を持つ必要性も薄い現代では使い手も少ないゆえ、手本となるものがなかなかなく壁にぶつかる時が来るかもしれぬが・・・白騎士の弟子になるなら、その辺りも問題なかろう」


「あの人の、白騎士の剣術だしな・・・ありがとう、アリス。やられっぱなしで正直凹んでいたが、やる気が出てきたよ。身体の方も回復したし、もう1回やるか?」


「いや。今日はこのぐらいにしておこう。最初から飛ばしても、すぐに身体が故障するだけじゃ。それよりも、身体の方を休めている内に、基礎の型を頭の中で反復してイメージし、脳にも構えた姿を刻み付けておく方が効果的じゃ」


「なるほどな。ただがむしゃらにやったって身に付かない訳だな」


「そうじゃ。特に今日のような実戦形式ではな。もちろん、型を構えるだけなら休息は無用じゃ。むしろ、無意識で構えられるくらいになるまで、反復するのじゃ」


「構えるだけなら何も必要ないし、身体にも負担がかからないしな。っと」


優太もクールダウンをしながら、アリスから指南された基礎の型を、復習がてら1つ1つ丁寧に構えて確認していく。

半身になり、左の盾で身体を守り、右手を後ろにもっていく事で、剣の刀身を相手から見辛くする型。

左腕を相手の顔面へと押し出す事で、盾で相手の視界を奪う型。

盾と剣を前面に構えて相手へと突撃する型。

等、多種多様な型をゆっくりと構えていく。


ほとんどの型は実戦の稽古の前に指南されたばかりなので、構えるまでにもたつき、構え姿自体も不恰好であった。

だが、中には昨日、今朝の夢の中で優太が目と心に焼き付けた、白騎士が構えていた型もあり、それらは多少ぎこちなくとも、自然な動作で構える事ができ、その姿もなかなか様になっていた。


(これがイメージを脳に刻んだ効果か)


他の型よりイメージしやすい分、自然と構える事ができ、そのまま次の動作にも繋げられる。

また、他のよりも構え姿ができかけているので、早くものにする事ができるだろう。

アリスの言った、イメージを脳に刻み付ける稽古方法に手応えを感じた優太は、そちらの鍛練も怠らずに行おうと心に決めた。

一通りの型を構え終えた優太は、ふと今朝の夢を思い出して、傍で見守っていたアリスに何気なく問う。


「そういえば、昨日に続いて今朝も白騎士の夢を見たんだ」


「なんじゃと?ああ、だから先程の構え姿のうち、マシなものがいくつかあったのじゃな。正直まだまだじゃが、それでも、ほんのちょっぴり、極粒位は様になっておった。じゃがなあ、そんな事よりそなたばかりズルいぞっ!」


「見ようとして見た訳じゃないけどな。それに今回のは俺の記憶にない内容だから、本当にただの夢だと思う。それで、1つ聞きたいんだが・・・ゴブリンって知ってるか?」


「ただの夢でも羨ましいがの!・・・わらわの夢にもそろそろ出て来ていただきたいのじゃ。まあ、それはそうと・・・ふむん。小鬼ゴブリンか。もちろん知っておるとも」


「本当か?」


「ああ。こちらの世界とは認識が違うかも知れぬが、セラフィリアス、いや、クリシュナ全土でも有名な魔物じゃ」


「そうなのか。こっちではよくゲームや冒険漫画の序盤に登場する数だけが多い空想ファンタジー世界の雑魚敵ってイメージなんだが、セラフィリアスではどうなんだ?」


「わらわの世界でも概ねそのイメージじゃ。背は低く、知能も力も弱くて、群れるだけが取り柄の魔物。もちろん、セラフィリアスでもゲームや漫画等の娯楽に多く描かれておる。じゃが、1つだけこちらの世界と認識が徹底的に異なっておる」


「まさか・・・」


アリスの言わんとする事が分かった優太の顔は驚きに包まれる。


「そのまさかじゃ。クリシュナにおける小鬼ゴブリン空想ファンタジーなどではない。実在する魔物じゃ。いや、実在しておった魔物じゃ。大昔、クリシュナ全土を支配しかけ、伝説の七英雄達と死闘を繰り広げた魔界の軍勢、魔王軍の尖兵としてな」


「魔王軍の尖兵・・・」


その言葉を聞いて、優太は無意識のうちに唾を飲み込む。

今朝の夢での戦闘を思い出したからだ。

しかし、同時に安心もした。

彼女はゴブリンについて、魔王軍の尖兵とともに群れるだけの力の弱い魔物だとも言った。


おおよそクリシュナ全土がその認識なのだろう。そして、クリシュナは実際にゴブリン達と戦った世界。

ならば、やはりゴブリンは弱い敵であるに違いない。


(なんだ。やっぱりただの夢だったか。たぶん、漫画やゲーム内の強い敵とごちゃごちゃになったんだな)


優太はそう結論付けて納得する。

夢の中のゴブリン達はあまりにも力強くて統率力もあった。

だから、違う。

あんなに手強そうなのはゴブリンであるはずがないのだ。


クールダウンを終え、道場内を清掃した一向は、騒がしく、しかし、楽しく歩いて帰路につく。

話題は様々で、朝食の事や今日の予定、互いの国の文化や娯楽、個人の趣味や特技まで幅広い。

中にはシュードイラ達の処遇や、徹底的に破壊し尽くされた運動公園の処置も話題に挙がった。

アリス曰く、セラフィリアス人が他世界で罪を犯した場合、その世界の法律に則って、その世界の警察や司法機関により、罰せられるようだ。

しかし、やはり裏はあるようで、犯罪を犯した者が貴族等の権力者の場合、その大部分が司法機関と家との間で内々に取引を行い、犯罪の取り消しや釈放をされているらしい。

今回の場合も、シュードイラが日本へ向けて行った犯罪は窃盗のみなので、裏取引で釈放される可能性は大いにある。


廃園と化した運動公園については、昨夜の戦闘のようにセラフィリアスの力を用いて土地や建物に被害が出た場合、情報秘匿の為、日本に常駐しているセラフィリアスの王政府役員と日本の秘密機関が合同で問題の解決、修復に務める。

今回の場合は、セラフィリアス側が結界で公園の存在認識を阻害し、その間に日本側が工事等の修復作業を行うであろうとの事であった。

昨夜の出来事の後始末について、少し気になっていた優太は人知れずホッと胸を撫で下ろした。


ー ぐ~ ー


安心すると同時にお腹の音も鳴り、それを聞いていたアリスはにんまりと優太を茶化す。


「優太よ!お腹の音を響かせるとははしたない!そんなにもお腹が減っておるのか?そなたは腹ペコ騎士じゃな!」


「腹ペコ姫の騎士ですからね」


「なっ!だ、誰が腹ペコ姫じゃ!?」


「出会ってすぐの初対面である俺に向けて、お腹の音を響かせた食いしん坊姫の事ですよ」


「んなっ!?あ、あああれは・・・」


(そういえば昨日もお腹の音を響かせていましたね?)


「リ、リリまで!?ン、ンニャアアアア!もうっ!2人揃っていじわるじゃ!」


上手く言ったと思っていたら、逆に優太から茶化され、更に追い討ちをかけるようにリリからも茶化されたアリスは、恥ずかしさが爆発し涙目で拗ねる。


「あはは、すまんすまん」


(ふふっ、無礼を御許し下さい)


1人と1頭は満足し、笑顔で彼女に謝罪する。


「うう、許さないもん」


しかし、アリスの方は気恥ずかしさもあって機嫌がなかなか治らず、幼児退行してしまった上にへそを曲げてしまった。


(そういえば、あの朝アリス様は親子丼を所望しておりましたね?)


「親子丼か・・・ よしっ。じゃあアリス、お詫びに今日のお昼は美味しい親子丼を食べに行こう」


「本当か!?」


先程までの拗ねた態度が一転、ワクワクキラキラした表情になる。


(チョロ過ぎる!)


口に出すとまた拗ねる為、心の中に止めたが、それでも衝撃的なチョロさであり、少しだけ表情に出てしまった。

そんな優太の様子にアリスは気付かず、彼女のチョロさに苦笑気味のリリに抱きつく。

さすがに何年も一緒にいる間柄だからか、アリスのチョロさにも理解があるようだ。


「約束じゃからなっ!」


リリに抱きついたまま、アリスは優太に笑顔で念を押す。


「ああ、もちろんだ。約束する。だけど、まずは先に朝食だからな」


「そうじゃった!親子丼を食べる為の腹ごしらえじゃな!」


「なんだそりゃ」


アリスの笑顔と言葉につられて優太達も笑みがこぼれる。ふざけ合いじゃれ合いながら歩く2人と1頭の足取りは軽い。

そんな笑顔と楽しそうな声で今日1日が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ