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異世界姫滞在記  作者: いぬがさき
第4章 進む非日常

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夢と招待状

シュードイラ達と戦った日の夜、優太は再び不思議な夢を見た。

前回と同じく、自身は子どもの姿をしており、命の恩人であるお兄ちゃんの背中を見ていた。


だが、夢の内容は大いに異なっていた。


前回は優太の幼い記憶に近かったものに対し、今見ている夢は明らかに優太の記憶にない、知らないものである。

夢の中で、優太達は深い霧が立ち込めた森のような場所を歩いていた。


優太の前を歩く彼は、白を基調とした鎧を身に纏い、左腕に白銀の盾を、右手に柄が藍白に彩られた剣を携えている。

兜をしていた為、顔は見えなかったが、夢の中特有の自信か、白鎧の人物はお兄ちゃんだと優太は確信できた。

また、前を進む姿は彼以外にも2人おり、彼を挟むような形で両隣を歩いていた。

近くにいるにも関わらず、2人ともぼやけて見えづらいが、直感的に前回の夢でも見たお兄ちゃんの仲間だと優太は気付く。


はっきりとした輪郭は分からないが、おおよその出で立ちは判断できた。

1人は小柄で身長が彼の胸辺りまでしかなかった。

ローブのようなもので全身を覆っており、手にはその小さな背丈に不釣り合いな、あのシュードイラの聖約武器を彷彿させる、巨大な斧のような武器の柄が握られていた。

もう1人の方は、お兄ちゃんよりも少しだけ背が高く、銀色の鎧のようなものを身に纏っていた。

その者は左右の手に、それぞれ剣のようなものを握っていた。

彼らは周囲を警戒しながら移動しているようで、優太のいる後方も時折を振り返るが、優太の姿は見えないようで、一度も優太と視線を合わす事はなかった。

そこに若干の寂しさを覚えながらも、優太は彼らの後ろにつき続け行動を見守った。


そう遠くない距離を進んだ所で突然、小柄な仲間の方が立ち止まった。


「ウィン?・・・もしかして?」


立ち止まった仲間に対し、お兄ちゃんとは違うもう1人の仲間が、低く落ち着きのある声で確認の問いを行った。

『ウィン』と呼ばれた仲間は軽く頷き、彼らに注意を呼び掛ける。


「そう。白騎士、ハリス。奴等がくる」


子どものような中性的な声であり、抑揚のない平坦な口調であった為、優太的には緊張感に欠けている気がしたが、ウィンが問いを肯定した時から、彼らは互いに背中を合わせて3方向を向き、死角を減らす陣形をとると共に、各々の武器を構えて臨戦態勢に入っていた。

優太は彼らの突然の行動に驚いたが、すぐに戦闘が始まる事に気付き、一挙一動でも見逃すまいと注視する。


彼らが臨戦態勢に入って数分も経たないうちの事であった。

深い霧の中、正面の木々の合間に複数の影が浮かび上がる。


ー キラッ ー


影が現れると同時に、霧の中で何かが一瞬鈍く光った気がした。

すると正面で構えていた彼、白騎士が突然構え直し、盾を前に押し出して足を踏ん張った。


ー ガギィイン! ー


白騎士が防御の構えをとった直後、盾に何かが激しくぶつかり、金属同士が接触する不快な音が鳴り響く。

凄まじい勢いで飛来してきた何かは、白騎士の盾に防がれ、そのまま地面に落ちた。

優太が落ちたものに目をやると、それは所々に刃こぼれと錆びを纏った剣であった。


「「「ギェェエエエ!」」」


奇襲に失敗した事に気付いたのか、霧の中の何者か達は不気味な雄叫びを上げ、白騎士達目掛けて飛び出してくる。

その者達の姿を見た優太は驚愕した。


深緑色の肌に尖った耳。

禿げ上がった頭部にヤギのような黄色の眼と四角い横長の瞳孔。

乱杭歯を剥き出しにして雄叫びをあげるその姿は、ゲームや漫画に頻繁に登場する『ゴブリン』そのものであった。


姿を現したのは3匹。

一様に背丈は白騎士の肩程であり、ボロ布を身に着けた上から錆びついた胸当てを纏うという共通の出で立ちであった。

3匹の内、錆び付いた短槍を持った1匹が突出して、小柄なウィンに襲いかかる。

盾を持った白騎士相手は不利であり、自分達よりも小さい者になら勝てると考えたのだろう。


残り2匹、岩石を乱暴に削った粗末な棍棒を持った者が白騎士を、錆び付いた短剣を持った者が『ハリス』と呼ばれた仲間を、小柄な仲間ウィンの救援をはばむように襲いかかる。

ゲームや漫画の中では主に愚鈍な雑魚敵として描かれているが、この夢の中のゴブリンは判断力、統率力ともに高く、決して油断ならない相手のようであった。


優太は夢の中にも関わらず、目前のゴブリン達に恐怖を覚える。

逃げ出したい気持ちもあったが、白騎士達の勝利を信じて、また、彼らの戦い方を見て学び、今よりも強くなる為、弱い心を無理矢理抑え込み、手汗を握って行く末を見守る。


文字通り一番槍となったゴブリンの初突は、ウィンの腹部に向けて放たれた。

腹部は身体重心の中心であり、大きく左右に動かせない為、正面からの刺突は避けにくい。

迎え撃つウィンもその事は百も承知のようで、慌てる様子もなく、即座に柄を短く持ち、刃を下に向ける事で斧部分を盾代わりにした。

短槍の一撃はウィンの思惑通り、切っ先を逸らされる形で防がれ、勢いよく突っ込んだゴブリンのバランスが崩れる。

追い討ちをかけるようにウィンは武器を回転させ、柄の先を敵の足に引っ掛け転倒させた。


「グギィッ」


うつ伏せに転倒したゴブリンは顔面を打ち、短い悲鳴をあげる。

怒りに震え、反撃の為に立ち上がろうとしたが、ウィンが勢いよく振り下ろした刃によって頭部と身体が斬り離された。


先陣を切った仲間が即座に討たれた事で、白騎士、ハリスとそれぞれ武器を打ち合わせていたゴブリン達に動揺が走り、その僅かにできた隙を彼らに突かれた結果、胴体を切断され、あるいは喉を裂かれて絶命した。


比較的短時間で3匹のゴブリンを屠った白騎士達だが、息つく間もなく今度は左右から3匹ずつ現れ、彼らを挟撃する。

ゴブリン達の防具は先の3匹と同じだったが、武器の方は6匹とも錆びた片手剣ショートソードとボロ板の盾で統一されており、先程より戦闘色が濃い為、本隊だと思われる。


ゴブリン本隊は左手の盾を前面に、右手の剣を掲げた一糸乱れぬ構えで白騎士達に突撃する。

先の戦闘より敵数が倍増したが、それでも彼らに焦りはなかった。


ー ズドゥンッ!ズドゥンッ! ー


突撃の最中、突如銃声が鳴り響き、ハリス側の3匹のうち2匹が彼に辿り着く寸前で転倒する。

見ればハリスが双剣の先をゴブリン達の足元に向けており、剣から消煙のようなものが立ち昇っていた。

ハリスはそのまま突撃してきた残り1匹の斬撃を左手の剣で受け流し、右手の剣でその腕を斬り飛ばした。

一瞬で腕を武器ごと斬り飛ばされたゴブリンは、状況を把握できないままハリスに首を斬り落とされ絶命する。

地面に倒れ伏せた2匹のゴブリン達も、終始沈着冷静なハリスによって順次止めを刺された。


3匹を討ち倒したハリスは援護をしようと白騎士達の方を向いたが、彼らの周りには元は盾であったと思われる腐食した木片と、ひしゃげた片手剣が散乱していた。

かたわらには手足が欠損していたり、上半身が潰れたゴブリン達の死体が打ち捨てられており、ちょうど戦闘が収まる頃合いであった。

ウィンが重量武器で最後の1匹の頭部を粉砕した後も、白騎士達はしばらく次の増援を警戒していたが、一向に気配がない為、戦闘終了と判断した彼らはようやく息をついた。


戦闘をそばで見ていた優太もようやく一息つく事ができ、吐き気を我慢して青ざめた顔でその場にしゃがみこむ。

戦争を経験した事のない優太にとって、人外であるゴブリン相手の戦闘であったとしても、見るに堪えられない衝撃的な光景であった。


優太が吐き気を治め、立ち上がるまでにしばらくの時間を有した。

その間、白騎士達も同じように、その場にしゃがみこんだり、気を紛らわす為に仲間と雑談したりしていた。


(もしかしたら彼らも俺と同じかもしれないな)


彼らのそんな姿を見た優太は、何となくそう感じた。

騎士とはいえ心を持つ者。

戦いや剣筋に迷いがなくても、敵を殺す事に躊躇が無くても、だからといって何も感じない訳ではない。

心の中には苦悩も迷いも葛藤もあるだろう。

だから、こうして消耗しているのだ。

いつしか優太は彼らの存在を身近なものに感じ始めた。


それと同時に改めて尊敬と憧れを抱く。

彼らは迷いながら消耗しながら、それでも戦っているのだ。

弱いけれど強いその心で。

大切なものを守る為に。


しばらく彼らを眺めていた優太は、突然睡魔に襲われた。

夢の中で、眠たくなるというのもおかしな話だが、自身が目覚めようとしているのだと解釈した。


抗えないまどろみの誘惑が続く中、優太は最後まで、命の恩人である彼、白騎士の姿を目に焼き付ける。


(見ていて下さい。強くなっていつか必ず貴方に追い付いてみせます)


そして、薄れゆく意識の中、優太は未来を目の前の大きな背中に誓った。


ー リリリ、リリリリ、リリリリ ー


目覚まし時計が鳴り響く部屋で優太の意識が覚醒する。

起きた優太は昨夜の事を思い出す。

アリスがシュードイラを倒した直後、突如オーディスは動きを止め、優太達に念話を送ってきた。


(雪華狼シエラウルナの姫君と、アリスティア王女の騎士よ。わが主が失礼した)


低く力強い漢の声音であった。


(そう思うなら・・・いえ、使い魔契約上、仕方のない事ですね)


リリが凛とした声音で答える。


(わが主に苦言1つ提言できず、力不足で恥ずかしい限りだ。しかし、そなたや騎士殿は主に物怖じせずに意見を進言できるのだな)


(私どもは使い魔や騎士であると共に、アリス様の友達ですので。貴方とシュードイラ殿の関係もそうであったなら、また出会いや結果も変わっていたのかも知れませんね)


(友か。我らには考えられぬ関係だ。だからこそ、まだまだなのだろう。だが、次に相見えた時は強くなったわが主とともに勝利を頂こう)


(はい、望むところです。次こそはお互いの誇りをかけて)


(ああ。それとそこの騎士よ。名前は何と言う?)


「・・・優太だ」


(ユウタか。覚えておこう。リュウヤを倒した腕前、見事だったぞ。これからも精進して、いつか我と死力を尽くす誇りある戦いをしようぞ)


「そうだな。必ず」


(良い返答だ。楽しみだ。・・・では、そろそろ退陣の刻だ)


ー スウゥ ー


オーディスは霧掛かったかにように薄くぼやけ、やがて完全に消え去った。

その後、アリスと合流し、無力化したシュードイラとリュウヤの2人をメモと共に警察署前に放置して帰宅したのだ。


「結局、俺は何もできなかった・・・」


優太は右の拳を眺めながら、悔しさを滲ませる。

戦いが終わった後、魔法で治してもらったので痛みはもうないが、心はまだ覚えている。

リュウヤには勝利したものの、オーディスとの戦いではリリの背に騎乗したのみ、シュードイラ相手に至っては何もできなかった。


「もっと強くならないと」


大切なものを守れるぐらいに。

オーディスとの約束、夢《白騎士》への誓いを守る為、優太は今日も朝の鍛練をしようといつもの運動着に着替える。

時刻は5時30分。アリス達はまだ妹の部屋で就眠中だろう。


優太はなるべく音を立てずにリビングへ降りた。

すると机の上にメモ紙が置いてあるのを目にする。

昨日の夜にはなかったもので、もちろん優太自身が置いた記憶もない。


(アリスが夜中起きて書いたのか?)


興味をそそられた優太がメモを確認すると


ー 我が騎士よ、道場に来たし ー


メモには簡潔な言葉が記されていた。

道場とは朝の鍛練で訪れる古い剣道場の事だろう。


「言われなくても行くさ」


優太は鍛練の準備をしながら独り呟く。

その声は心なしか弾んでる。

新しい何かが始まる。

劇的ではないけど、少しずつ強くなれる、気がする。

玄関を出て軽くストレッチを終えた優太は、そんな期待を胸にして、道場に向けて駆け出した。


メモに記された文字はセラフィリアス語であり、通常なら読めるはずがないのだが、読んだ優太本人さえ気付いた様子がなかった。

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