きっかけ……と言うか、すべての始まり、と言うか。そんな類の話。
#001 きっかけ……と言うか、すべての始まり、と言うか。そんな類の話。
宇宙人。
それがどんな姿をしているとか、どんな凶悪な武器、もしくは能力を持っているとか。
そんなことはおいておくとして。
存在するのか否か。
数々の目撃情報、撮影された宇宙人やUFOの写真。
証拠はあるのに。山ほどあるのに。
信用する人は少ない。
信用している、信じていると言葉では言っている人も、果たして本当に信じているのだろうか?
その答えは、否だろう。
心のどこかで、その存在を否定している。
本当に信じている人もいるだろうけれど。
僕はどうかって?
もちろん否――と言いたいところだけれど。
信用したくないところだけど。
僕――儚烏亜が。
儚烏亜と言う僕の存在そのものが。
否を――否定しているのだ。
否定せざるを得ないのだ。
僕は――
「はあ~っ……」
ため息。
別に失恋したわけでもなく、漠然とした何かに絶望したわけでもなく。
ただ疲労を感じたから、疲れたからだろう。僕の口から自然と息が――ため息がこぼれた。
「もう6時か……」
制服の裏ポケットに忍ばせてあったケータイで、今の時刻を確認する。
今は学校――南岬中学校の帰りだ。
儚烏亜。
これが僕の名前。
南岬中学校で3年生という職業を営んでいる、ごく普通の中学生。
――表向きはね。
そして今僕の視界に入ってきたのが住んでるアパート。
いろいろとわけありで1人暮らしをしている。
歩くと、バイオハザードそっくりの音がなる階段がチャームポイントのアパートだ。
ただ一人生き残った勇敢な主人公気取りで、僕は1段1段ゆっくりと階段を登っていく。
僕の部屋は2階にある。
2階の端っこにある。
このアパートはボロくて古くて錆びてて湿ってて。
そんな感じだけど、結構気に入っている。
なんて言うか、落ち着く。
自分が住んでるところだからかもしれないけど。
まあ住んでるって言っても、仮にだけどね。
「…………あれ?」
使い古した通学かばんから鍵を取り出し、ドアノブの鍵穴にそれを差し込もうとしたときだった。
そのとき。
異変に、気づいた。
「鍵が、開いてる……」
僕は結構用心深い性格(自己評価)だから、登校時に鍵をかけ忘れるなんてことはまずありえない。
だとしたらもしかして……。
と言うか、やっぱり……。
あれか? あれなのか?
「…………」
僕はゆっくりと、鍵の開いていた――開けられていたドアを開く。
やけに静かに感じた。
ドアの耳障りなきしむ音だけが、響き渡った。
「えっと……」
中は真っ暗だった。いつものことだったが、今日だけはやけに不気味に感じた。
一呼吸おいたところで、僕は再び口を開いた。
「どなたかいらっしゃいますか?」
自分の家なのに。
「返事をしてくださ~い……」
いや。されても正直どうしていいか分からないんだけど。
て言うか、さっきからなんで自分に突っ込んでるんだ?
そんなことを思いながら、僕は自分の家に足を踏み入れた。
さっき訊いたどちらの返答にも、答える人は――答えてくれる人はいなかった。
明かりもついてないし、やっぱり気のせいだったか?
「…………」
一応無言のまま、僕は靴を脱ぎ、先へ進んだ。
足の震えが止まらない。
さっきとは一転して、チキンな主人公だった。
そして廊下の突き当たり――部屋の入り口にたどり着く。
ガラスがついた扉だが、そのガラスは曇りガラスである。中の様子を確かめようとしたが、無駄だった。無理だった。
「……よし」
意を決して。覚悟を決めて。
開ける。開け放つ。勢いよく。
「覚悟しろ! 悪党め!」
なんてことを言ってみたが。
部屋には、誰一人いなかった。
…………穴があったら入りたい。
勢いあまって持ってもいない銃を構えながら――構えるふりをしながら部屋に飛び込んできてしまった。
「はあ~っ……なんだよ、脅かすなよ」
勝手に驚いているだけだが。
またしても自分で自分に突っ込みながら、そんな自分にあきれながら。
僕はかばんを床に投げ出し、電気のスイッチまで歩を進めた。
スイッチまであと3メートル。
あと2メートル。
1メートル。
「……っ!」
手を伸ばして、あと50センチといったところか。そんな距離だったのだが、まだスイッチを押せない距離だったのだが……。
電気がついた。
最近変えたばかりの蛍光灯が、まぶしいくらいに輝く。
部屋全体を――僕を。
そして、彼女を。
まぶしく照らした。
「なっ……!?」
彼女。
いや、少女と言うべきかな?
小学生ぐらい――10歳ぐらいの、少女。
ひざまであるさらさらしたやわらかそうな長い髪の毛。
棒のように細い、幼くてか弱そうな腕と足。
見つめていると吸い込まれそうな瑠璃色の瞳。
どこか気品のある整った顔。
それを引き立たせるような、真っ白なワンピース。
そして。
小学生女子特有の。
皆無と言っていい、平地と言っていい…………胸。
「ねえ、地球防衛軍に入ってよ」
しばし平地に釘付けになっている僕に、少女はそんなことを言い出した。
唐突に。
「は?」
え? なにこのロリっ子。
地球防衛軍?
…………いや、そんなことよりも。
「お前は――ああ、いや、あなたはどこから来たのかなあ? お譲ちゃん。迷子お?」
小学生相手にはと考えたのだが。
われながら実にうざい――と言うかいたいお兄さんになってしまった。
「迷子じゃないっ! て言うか何? そのしゃべり方。いたいよ?」
やっぱりね……。
でも分かっててもいざ言われてみると、結構心にくるんだね、これ……。
「まあ迷子じゃないとしても、なんでここにいるの?」
どう見たって小学生だ。そんなこと、できるわけがない。
ああでも、玄関の扉は開いてたよな……。
まさかピッキング?
とりあえず訊いてみるか。
「ピッキング暦何年?」
「殴られたいの?」
強気な女の子だ……。
高校生になったら、ただの人間には興味ありません、とか言っちゃいそうなタイプ。
「あたしは虚無音ほにか」
「きょむね? その割には……」
「っ! これから育つの!」
平地を隠しながらかほほを赤らめる少女。
なんて言うか、普通にかわいい。
ツンデレ美少女と言うわけか。
まあまだデレてないけど。
この先デレる予定あるかすら分からないけど。
「あなた、名前は?」
「自己紹介か? 儚烏亜」
「今すぐ消えちゃいそうな名前ね」
「ほっとけ!」
いじり返してくるなんて……このロリっ子、できるっ!
「で、何のようだっけ? 何でもするからここに住ませて! お願い、烏亜おにぃちゃんっ! だっけ?」
「妹キャラになったるもりはないっ!」
「おにいちゃんでもなく、おにーちゃんでもない、おにぃちゃんだから萌えるのだ。このちっちゃい『い』が、僕を楽園へといざなう」
「妹論を語らないで。いたいわよ? のび太くん」
「のび太!?」
早速あだ名(?)をつけられるなんて。
それとも僕の名前、もう忘却された?
メガネはかけている。黒いフレームの、丸と言うよりは四角に近いメガネ。
でもそれだけでのび太くんはないんじゃないか?
「それはさておき――」
「さておくな!」
このやろう。
ちょっと苦悩しちゃったじゃないか。
「のび太くん。あなたには地球防衛軍に入ってもらうから」
「また苦悩させるつもりか!?」
しかし、こいつやけに大人びたしゃべり方をするな。それともこんなもんなのか? 今の小学生女子って。
「お前、どこの小学生?」
「は?」
その瑠璃色の瞳で、僕をにらんでくる。
話の途中にまったく関係のない質問をされたのが気に入らなかったのか、それとも何か他のことが気に入らなかったのか、腕を組んでしばらく僕をにらむ。
「あなた、何か勘違いしてない?」
「え? 何を?」
あきれたと言うか、ああやっぱりなと言うか、そんな風に見て取れる肩の落とし方をした。
はあ~っ、と言うため息とともに。
このため息も、失恋したとか、漠然とした何かに絶望したとか、そんなのとは違ったため息。
少女は僕をまっすぐに見つめる。
なぜか、少し恥ずかしそう?
「あたし、中3なんだけど……」
「…………はあっ!?」
いやいやいや。世間にはロリ顔の中学生はたくさんいるけど、さすがにこれには無理があるだろう。
どう見ても、ツンデレで(何度も言うがデレてないけど)、ちょっと大人っぽい――自分を大人っぽく見せるようなしゃべり方、幼い体に良く似合う真っ白なワンピース。
そして。
平地。
このどれもが、この少女(虚無音ほにか……だっけ?)を小学生だと言うことを証明している。
「まあ驚くのも無理ないんだけどね。ここじゃこのサイズが限界だから。あたし、宇宙人だし――」
へぇ~っ。
…………って。
え? 今さらっとこいつ、すごいことを言ったぞ?
「宇宙人……?」
「そ。あなたを地球防衛軍に入れるために、今日ここに来たの」
「…………」
そうか……。
そういうことだったのか。
いや、うすうすそうかな~なんて思ってたりしてる自分がどこか隅のほうに…………いや、訂正しよう。これっぽっちも思ってませんでした。
「もちろん入ってくれるわよね?」
少女は僕を見下ろすように(まあ、実際は僕が見下ろしてるんだけど)、僕にこう言った。
「ヴァイン星人の、儚烏亜くん」




