5.ダン・ファーシードの決断。
ダンの心は、決壊寸前だった。
あの日クレオに手を挙げてから、歯止めが利かなくなってしまったのだ。そのため彼の成績を執拗に咎め、公爵家としての面子を異常なまでに押し付ける。
こんなことをしたいのではない。
もちろん、公爵家の子息として立派に育ってほしいのは本心だ。
「違う、違うぅ……! 儂は、あ、あああぁ……!!」
されども、それ以上にクレオには自由に生きてほしい。
自分がそれを許されなかったから、せめて息子には大きな世界に羽ばたいてほしかった。その願いを込めて育てよう、そう思っていたはずなのに。
どうしてこうなった。
どうして、自分はクレオに辛く当たってしまうのか。
もし、このまま解決策を見出せないまま共に時間を過ごしたとしたら。自分とクレオは確実に破滅へと向かってしまうだろう。
そんな直感が、よりいっそうにダンを焦らせた。
だが、その時ふと『ある考え』が彼の中に浮かぶのだ。
「そう、だ。共に過ごすから、駄目、なのだ……!」
このままでは、いけない。
このまま一緒にいてはいけない。
もしかしたら自分は、最愛の息子に最悪の行為をしてしまうかもしれない。
「だったら……!」
だから、ダン・ファーシードは決断した。
ここから先にあるクレオの自由、歓喜、そして未来を守るために……。
「そのためなら、儂はいくらでも……道化を演じてみせる……!!」
◆
「お父様、どうして……!」
いまにも泣き出しそうな息子の顔が瞼の裏に焼き付いている。
しかし、いまのダンにはこれしかなかった。
ダンは、クレオを遠ざける決断をした。そう――。
「クレオ、本日をもってお前をファーシード家より勘当とする」
クレオを勘当する、という手段を使って。
自分なんかよりも才に秀でた息子を。
誰よりも可愛い、大切な息子を。
ダン・ファーシードはこの日、自らそれを手放したのだった。
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