第1話「自殺者N・その1」
警察署。
奥の奥にある扉。
そのの上には『樹海探索課』のプレートが設置されている。
忙しそうに歩き回る警官、刑事を横目にドアを開ける。
こじんまりとした部屋。
書類の棚のほかには五人分の机と椅子、ロッカー。
そして一つのホワイトボード。
机の上にはいくつかの資料。
ここは手続きのために資料を書く場所だ。
俺は荷物を一つの机に置き、その隣の机の引き出しからペンと報告書を取り出す。
『本日の事件々数』、『本日の事故件数』に『0』と記述する。
そしてペンを引き出しにしまう。
部屋を出て、刑事部の警部がいる部署に向かう。
その報告書を手渡し、こう伝える。
「本日もお疲れ様でした。お先に失礼します」
そして周りが忙しい中、夕方に帰路に就く。
そんな仕事が『樹海探索課』の仕事だ。
次の日。
車を走らせる。
山梨県、富士河口湖町と鳴沢村に広がる青木ヶ原樹海。
日本有数の原生林であるこの森では、年間で百体ほどの遺体が見つかる。
静かな森で、静かに無くなり、遺族が静かに帰りを待つ。
それが百件。
樹海探索課の仕事は、この遺体が白骨化する前に見つけ出し、遺族に亡くなったことを伝える仕事。
私がこの課に配属されたのは五・六年ほど前になる。
この課は嫌われている。
毎日何も起きないが何か起きるとすれば死体が見つかる。
この課は何も解決しない。
すでに事が起き、終わった後の対応をする。
この課はストレスがかかる。
遺族の対応に、死体の処理。
一応手当はあるが、雀の涙だ。
離職率はとんでもない。
自分は五年いるがこの間で五人やってきて三人やめている。
左遷先。
それがこの課の周りからの評価だ。
路肩に車を止め、巡回ルートの一つを行く。
持っていくものは調査に必要なものが入ったバッグ、枝切りばさみ、カメラだ。
木々の間を光が差し込む。
風の音と足音以外は何も聞こえない。
ただザッ、ザッ、と地面に落ちた落ち葉と靴が衝突する音が聞こえる。
木々が揺れ、咆哮のような音が森全体を鳴らす。
周りを見渡しても誰もいない、孤独な仕事だ。
一時間ほど歩いたところだった。
一筋のひかりが差す先に、首を吊った死体がある。
男性、高校生なのだろうか、制服を着ている。
そして、制服が赤く染まっている。
私は写真を撮った後、枝切りばさみで縄を切る。
ドサッ、と地面に落ちる。
素早く検視を行う。
白い手袋をはめる。
写真を撮りながら確認していく。
息、脈はない。
まずは首だ。
首の前側にあざがある、絞首による死だ。
いや、待てよ。
私は首を括っていた縄をあざに合わせる。
だが合わない。
体を見る。
制服のボタンを開け、肌を見る。
刺し傷が数か所ある。
間違いない、自殺に見せかけた他殺だ。




