エピローグ~飲めー!
「ここに聖ケルバート国として開国を宣言する」
私の隣に立つ美麗なエルフであるザケルバード国王の宣言した。
すると私達のいる広いバルコニーから、眼下を見渡す会場だけでなく国中から湧きたつ歓声が上がった。
今の宣言はもちろんのこと、少し前に執り行った私達の結婚式も含め、魔法と魔道具を駆使して国中に中継されている。
「両陛下方は、こちらへ」
今日の進行役を担う、我が国の宰相であるゴルが、目立たない位置から私達に声をかけた。
軽く頷いたバードが差し出した手を取り、エスコートされるまま、観衆の目から完全に離れていく。
「フィリ」
「ちょっ、バード!?」
いつものようにバードが私を抱え上げた。
お姫様抱っこではない。十二歳の頃から変わらない、バードの腕にお尻を載せるタイプの抱え上げだ。
「ドレスが皺になっちゃう!」
「いつも通りだ。皺にはなりにくいドレスで良かったな」
軽く私を見上げるバードの言う通り、ウェディングドレスはマーメイドタイプ。確かに皺にはなりにくい。
「バード……まさかこの為にマーメイドタイプのウェディングドレスを推したんじゃ……」
いつも通り抱え上げるのに邪魔にならないようにする為か!?
なんて邪推してしまう。
「よく似合っておる。だが可愛いらしい我のフィリがドレスに合わせて麗しい淑女然としておるのは……どうにも……」
「むぅ……大人っぽいドレスは私に似合わないって言いたいの」
子供扱いが常態化していると感じている私はついむっとし、ぷいっとそっぽを向く。
するとバードが空いた方の手を私の頬に添え、再び私の顔がバードに向くよう優しくリードする。
「違う。似合いすぎなのだ」
言いながら、チュ、と人生で初めて唇への口づけを受けた。
結婚式でも宣誓式でもバードは私に口づけている。けど、おでこと頬だったのだ。
「バ、バード……」
初めての経験にカッと顔が火照り、これ以上言葉が出なくなる。
「初めての接吻は二人きりになったら。そう決めておったのだ」
そう言われて初めて、私達を先導していたゴル、そしてゼルを筆頭とする護衛の騎士達がいなくなっていたことに気づく。
これから国賓達を招いての宴がある。式用の服装を着替える必要もある為、私達が二人きりになれるタイミングは移動の合間の、この僅かな時間しかない。
いつの間にか人払いされていたらしい。
二人きり、かつバードの絶世なる妖艶な微笑みを目の当たりにした私は、恥ずかしさのあまりバードの肩口に無言で顔を埋めた。
「愛い妻だ。はあ……フィリを世の男共に見せたくない」
バードは言いながら、私をぎゅっと抱き締める。
言葉と態度の端々に私への愛を感じて、私もバードの首元に抱きつく。
「特にマルトレ国王族の一人として列席しておるカリエル。チッ。あやつめ、フィリが父君のエスコートで式場へ現れた時、フィリの顔はベールで見えてなかったにもかかわらず釘づけになっておった」
んん? バードが何かボソボソ呟き出した? 舌打ちまでした?
「チッ、諦めの悪いことだ。あれは未だフィリに執着しておるに違いない。いっそリビアがウォルフにしたように蜜月と称してフィリを夫婦の寝室に閉じ込めて……」
あれ、監禁宣言? てか去年結婚した師匠が言ってた蜜月って……閉じ込める事だったの?
「ウォルフがリビアにそうなったように、フィリが我のことしか考えられぬよう、快楽を与え続けて……」
快楽ジャンキー堕ちさせ宣言!? え、師匠!? 一体、旦那さんに何やったのぉ!?
思わずバードの肩に手をついて、顔を覗き込む。
うわ、何ていうか……目がバキバキなんですけど!?
「ちょちょちょちょ、ストップストップ! まさか長期間呪いに侵されて、性格が闇堕ちしたとか!? ハッ、師匠も長期間呪いに侵されてたんだったわ! ここはこの解呪ポーションで……」
いつ如何なる時でも呪いに侵された人と出くわす可能性を考え、解呪ポーションをなるべく持ち歩くようにしている。それなりの衝撃でも割れない強化硝子の中に密封してある。
ちなみに師匠は臭いなど漏れるはずもないのに、私が隠し持っている時は高確率で服のどこにしまっているのか当てにくる。
味音痴、んんっ、味覚センスが独特な師匠は、あわよくば飲もうと虎視眈々と狙っているに違いない。
「ヒッ! 何故、普段は浅いはずの胸の谷間にポーションが!?」
「侍女達の脂肪を集めて寄せて上げる技術の賜物よ! 普段は浅くて悪かったわね!」
瓶の蓋に手をかける。けれどもバードが私の手と蓋を大きな手で覆う。
痛くはないけど動かせない。
と、その時だ。不意にバードが私の後ろへ視線をやり、顔を輝かせた。
「兄君よ! よくぞそやつを連れてきてくれたな!」
「は?」
体を捻って新たに出現した声の方へ体を捻る。
「あー、フィデリカ久しぶりー。うちの大公がどうしてもフィデリカに綺麗だって言いたいらしくてな……つうか何でバードはそんな喜んでんだ?」
最初はどこか気まずそうに、最後は不思議そうに首を捻ったのは、私の実兄であるガルヴァウ。バードの呼びかけで気の抜けた声を漏らしたのは、お兄様に違いない。
継ぐはずだったケルバート領が事実上、聖ケルバード国のものとなることが決定した直後、お兄様はカリエルの側近として歩むと決めた。
「あの……フィー……いや、フィデリカ王妃」
顔を合わせなかった数年の間に、お兄様は背が伸びて体格がガッシリしたせいで姿が見えなかったカリエルが、お兄様の後ろからおずおずと出てきた。
カリエルは一昨年くらいに臣籍降下したと聞いている。
「結婚……おめで、ふぐぅ!?」
お兄様はカリエルの未練を断ち切りたくて、私の親族特権を使ってカリエルをここに連れて来たのだと瞬時に判断し、望むところだとバードを軽く蹴って跳躍。
そのままカリエルを跳び蹴りし、しおらしく何か言いかけたカリエルに馬乗りになる。
「ほら、飲めー! そうそう、全部飲みなさいな!」
「ふぐ、んぐっ、んぐっ」
「飲み終わったら、これで全部終わり! 無かったことになった一度目の人生で私が抱えた感情は、全部終わりよ! 私は今、とっても幸せなの! これからもバードが私を幸せにしてくれるし、私が幸せにしたいと思うのもバードだけ! だからカリエル。貴方ももう、自由になりなさい」
カリエルは一度目の人生で私への仕打ちを悔いて命を投げ打ち、私を回帰させた。
バードからそう聞かされていた。
それもあるからか私自身がカリエルに対し、複雑な気持ちがなかったかと言えば嘘になる。
もちろん私の中にカリエルへの愛は皆無だ。
けれど非業の死を遂げた一度目の自分に向き合う意味でも、カリエルとはあと一度だけ会って、一度目の思いの丈をぶつけようと考えていた。
カリエルが回帰前の出来事を思いだしてたなんて、何年も前にカリエルに解呪ポーションを飲ませた時は知らなかったもの。
「よし、フィデリカ、やれやれ! しっかり恨みは晴らせよ! カリエルも、もうこれで感情の整理つけられんだろ! ほら、全部飲めー!」
「ふぐ、んぐっ、うぇっ、んぐっ」
私を応援するお兄様。
「ふう、これで我は助かった。ご苦労だったな、カリエル大公よ」
「んぐっ、んぐっ……」
カリエルを人身御供したことにご満悦らしきバード。
二人の声援により、瓶の中身が空になった。
「うっぷ……」
「それ、吐いちゃ駄目よ。改良して、呪われてない人には激マズだけど滋養強壮にいい仕様にしてんだから」
嘔吐感がこみ上げているカリエルに忠告してから、バードの方へ向き直る。
「行こう、バード! これから先も、ずっずっと私と歩んでくれるでしょう!」
立ち上がり、バードに片手を差し出す。
「もちろんだ。フィリが死してもなお、離れぬ。次の人生でもフィリを探し出し、必ず共に歩もう」
私の手を取って甲に口づけたバードは、うっとりするような極上の笑みを私に向けて告げる。
そうして再びバードに抱えられた私は、歩き始めたバードの首元にぎゅっと抱きつく。
これから先、私が寿命を迎えたその先も、ずっとずっと二人で寄り添って歩いていこうと思いながら。
いつもより長くなった最終回です!
1章で終わりにするつもりが、2章まで書いてしまいましたヾ(≧∇≦)
途中からゆっくり更新になりましたが、最後までお付き合いいただいてありがとうございます。
最後にまだの方いましたら、☆(評価ポイント)いただけるとモチベーション上がりますm(_ _)m
次の作品は10万文字ほど書き上げてから一気に投稿してみようと思ってます。
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