56.スパダリヒロイン的美女と野獣チュー
「ウォルフがエルフになった……」
ベッドに寝かせた男性を見て呟く。
少し前まで蛇男だった男性は、どことなくバードに似た面影があるエルフになっていた。
髪は金髪。瞳はバードと同じ色味の金眼だ。
「フィリ……ありがとう。ウォルフも蛇男からエルフ男にチェンジしたから、そろそろ目覚めると思うわ」
私にそう言ったのは、ちょっぴり取り繕った感じを醸し出す師匠だ。
師匠は解呪ポーションを飲ませて倒れたウォルフに、ずっと付き添っていた。
きっと途中から飽きた、いや、暇になったに違いない。
私が部屋に入った直後、ウォルフの両瞼をこれでもかと指で見開かせて遊んでいたのを目撃してしまった。
師匠の言葉からウォルフが美丈夫なエルフにメタモルフォーゼしたのは、ついさっきだろうと推測する。
バードがコロロンに乗った私を助けてから、既に数日が経過した。
「師匠のスパダリヒロイン的な美女と野獣チュー……見たかったのに……」
「もうっ、フィリったら!」
――バチン!
「うっ」
「あれは緊急措置的な口移しよ」
師匠が照れて頬に手を添える。
途中、照れ隠しなのか師匠がウォルフの肩をまあまあな勢いでしばき、ウォルフが反射的に呻いた気がしなくもないけれど、きっと気のせいに違いない。
師匠の言った口移しの現場を聞いた時を、ふと思い出す――。
※※※※
バードと師匠が二人して結界の外へ出かける前。バードからは事前にその旨を説明され、私は了承した。
二人は長年連れ添った同士のような関係だから、本来なら私の許可は必要ない。それでもハードがそうしたのは、私への気遣いだ。
バード達が出かける前に、私は回帰について話している。
その際、夫だったカリエルに浮気されていた事を伝えたから、バードはあえて私に了承を取ったに違いない。
けれど二人が並ぶと、画に描いたようにお似合いの美男美女エルフ。
対してバードの妃となった私は、チマチマした十二歳のお子ちゃま。
並んで去っていくバードと師匠の後ろ姿を見送っていると、なんとなく胸がモヤモヤしてきた。
そこで気晴らしにと、ストックが切れていた呪いの解呪ポーションを作り始めたのだけれど……何故か師匠がもう一度飲みたがっていたバージョンでポーションが仕上がってしまったのだ。
更にその後、気晴らしにと私の愛馬であるコロロンと共にゼルと競争し、何故かウォルフをお姫様抱っこした師匠が途中参戦して事故りかけた。
そんな師匠は聖女なのだけれど、どうしてもウォルフの呪いが解除できず、更にウォルフが衰弱して死にかけていたせいで焦っていたらしい。
ウォルフは長年に渡り黒魔法に干渉され続けた挙げ句、間近で更に黒魔法を上乗せしてかけられたせいだろう、とはバードとゴルの見解だ。
皆で邸に戻り、私はできたばかりの解呪ポーションを持ってきてウォルフに飲ませようとした。
けれど邸の玄関ホールで横えられた蛇男のウォルフが、カッと目を見開いたかと思うと私に「シャーッ」と噛みつこうとしたのだ。
「「「「フィリ(様)!」」」」
すぐさま背後にいたバードが私の体を引き寄せ、ウォルフを挟んで正面にいたゴルとゼルそれぞれが、各両側からウォルフの肩と腕を掴んで動かないように押さえこむ。
ウォルフの頭側にいた師匠は、私を遮るように背に庇った。
「は・な・せぇ!」
蛇特有の威嚇音と共に暴れるウォルフ。
「くっ、すげえ力っす!」
「聖騎士な中でも最強クラスでしたからね!」
なんとか地面に膝をつかせているものの、この興奮状態ではポーションを飲ませるのは難しい。
「フィリ。ポーションをちょうだい」
師匠に言われるがまま、後ろ手に差し出された師匠の手にポーションを載せる。
すると師匠はポーションの蓋を開けながら、ウォルフの前につかつかと歩を進めた。
かと思えば、ポーションをあおるように口に含み、空いている方の手で暴れるウォルフの顎を掴んだ!? 更にそのまま――。
「ちょっ、バード!? いいところなのに!」
私の瞼に手の平を置き、視界を遮ったバードゆ不満を訴える。
「フィリには早い」
けれどバードは憮然とした声音で私の不満を一蹴した。
「んむぅ、うぐっ、んんっ」
「ほら、ウォルフ。駄々をこねないで。そう、いい子ね。ほら、もうひと口」
「んんっ、んぅ~……はあ、はあ……ふぅ、ぐっ」
「ああ、この激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロドリンク味……私が飲み干したいわぁ……けれど我慢ね。ほら、あと少しよ、ウォルフ」
「ひぅぅっっ、んぅ~……はあ、はあ……ふぅ、ぐっ」
その間にもウォルフの喘ぎ声、いや、苦悶に満ちた声と師匠の嬉々とした、いや、意気揚々とした、いや、子供に言い聞かせるような、艶のある囁き声が耳を刺激する。
「うっわ……俺、惚れた女相手でも、あのゲロドリンクバージョンの解呪ポーションを口移しとか、無理……つうか、この絵面ってどうなんすか……」
「ゼル、フィリ様の前ですよ。控えなさい。美女と野獣……これはこれで刺激的な光景でそそられますねえ」
ドン引き声のゴルと、弟を嗜めるゼルの声も合間に聞こえる。
それよりもゼルが最後に放った愉悦を含んだ言葉! くっ、私も見たい!
「バード! きっと最近、一部の劇場で流行ってた男女逆転スパダリヒロイン的な光景よ! しかも美女と野獣バース! 見たい!」
「ならん! 外の世界ではどのような破廉恥な観劇が流行っておるのだ!?」
「ケチー!」
というひと幕の後、ポーションを口移しで飲み干したウォルフに私が腹パン。
ウォルフがオロロロと呪いを吐き出し、バードがかつてない程のメタルメタルしく光を反射するメタルスライム風の呪いを焼いて、現在に至る。
※※※※
「……リビア?」
スパダリヒロイン的美女と野獣チューにまつわるエピソードを思い出していると、掠れた声が聞こえた。
「あ……ウォルフ……ウォルフ!」
その声に振り向いた師匠は、ぶわりと涙を浮かべ、ウォルフに縋りつくように泣き崩れた。
この後、目覚めたウォルフの証言等々によってテレヌ=テレスを含むテレス公爵家が罰せられ、テレヌとテレス元公爵が処刑される事になる。
刑が執行された日。私はバードに抱き締められながら、ただただ涙を流し続けた。
全てが終わった安堵感もあったけれど、この時は何故か回帰前に感じた孤独と絶望を思い出して涙が止まらなかった。
もしかすると、全てを失った回帰前の哀れな自分を洗い流していたのかもしれない。
更新が遅れました(^_^;)
身内が大々往生したり、そんな身内の初盆に備えてたり、子供達が大型連休で生活ペースを乱しにかかったりしてバタバタしておりますm(_ _)m
8月いっぱいは更新ペースが落ちます……多分(;・∀・)
でもこのお話は次かその次で完結しますヾ(≧∇≦)




