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ぶち切れ聖女は激マズポーションを置き土産に逃亡する  作者: 嵐華子@【傾国悪女】3/5発売予定
2章~魔国での生活

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46.向き合う時間~ザケルバードside

「バード、タミョルが何か言ってたの? バード? ねえ、バードってば!」


 コロロンの背に跨がったフィリに呼びかけられ、我に返る。


 どうやら回帰前の出来事に思いを馳せすぎていたらしい。


「ああ、すまない。少し考え事をな。侍女殿は、自分の胸はいつでも空いておると言うてっておったぞ」


 いつもよりずっと目線が高くなったフィリを見上げ、侍女殿の伝言を改めて伝えつつ、手を差し出す。


 するとフィリは小さく息をのみ、手綱を握る拳をぎゅっと硬くする。


 我はフィリの様子を観察し、回帰前の我慢強かったフィリを思い出す。


 回帰前のフィリは、カリエルの呪いを自分に移したせいで体が虚弱になった。


 当然、回帰後の今の方が健康的だ。


 というより比べ物にならないくらい、騒がし、いや、とにかく元気さが漲り、ほとばしりまくっている。


 だから見落としていたが、侍女殿の言葉でふと、フィリの本心が気になった。


 フィリも我と同じく、そして我よりずっと早くに回帰前の記憶を思い出しているはず。


 回帰前のフィリは、望んでカリエルの妻になったわけではなかったであろう。しかし妻として夫であるカリエルを支え、尽くしていた。


 結婚して幾年かの歳月が流れる間に、フィリの中でカリエルへの恋心が生まれ、やがて愛情に変わっていく様を、ケモックとしての我は側で見ておった。


 故にこそ、カリエルが王太子となるべく王都へ向かう際、フィリは虚弱な体でありながら、家族からも住み慣れた領地からも離れたのだ。


 回帰前のカミュリッチ夫人は既に亡くなっておったが、フィリの父兄は反対したのだ。


 それでもカリエルはフィリを連れて行きたいと父兄らだけでなくフィリにも懇願し、フィリが父兄を説得した。『カリエルの妻だから』と言って。


 その後、王都へと移り住んだカリエルは、妻であるフィリを裏切る。


 いや、回帰した今だからこそわかる。回帰前のカリエルは、恐らく黒魔術師であるピンク女によって操られたが故に、フィリを裏切ったように見えたのだ。


 たがフィリからすれば、そんな事は関係ない。


 フィリも回帰前のカリエルが操られていた事は既に承知しておるだろうが、裏切られた事実は変わらぬ。


 故にフィリは回帰後、カリエルを拒絶したのであろう。


 だが……。


「フィリ」


 我の手を、手綱を握る小さな手にそっと重ねて力を弛めてやる。


 そのまま華奢な手を引き、回帰前より小さくて幼くなった体を抱き留める。左腕にフィリを乗せ、我の肩口に顔を埋めたフィリの頭を空いた方の手で撫でる。


「すまぬ。気づいてやれなんだ。フィリは、もうずっと泣けずにおったのだな」


 なんとも情けない。回帰前、我はフィリの側に常に侍り、誰よりも近くでフィリを見ておったというのに。


 回帰前も回帰後も、フィリの我慢強い性格は変わっておらぬ。


 そしてフィリは回帰したからこそ、カリエルを責められなくなったのであろう。


 まあ……カリエルに【激マズ青汁苦甘辛特製栄養ゲロ風味】という劇薬、いや、呪いの解呪ポーションを飲ませて腹パンはしたが……うん、あれはカリエルが無理矢理フィリに婚約を迫った事への腹いせ、いやいや、治療だ。そう、治療の為のポーションと腹パンだ。


 治療に乗じて若干の腹いせはしただろうが、カリエルは回帰前に行ったフィリへの所業を謝罪したわけではない。


 カリエルからすれば謝罪する暇もなかったのであろうが、そもそもカリエルが初めにすべき事は全てを思い出した時点で、フィリへ真摯に謝罪する事だったのだ。


 もしフィリが回帰前の出来事を覚えてなくとも、カリエルは思い出した時点で謝罪すべきであった。少なくとも婚約だけは、強要すべきでなかったのだ。


 回帰前、フィリを守る為であっても王都の邸に閉じこめ、フィリの父兄を処刑した挙げ句、フィリの死を防げなかったカリエル。そんな人間がすべき事ではない。


 それでもフィリはカリエルだけでなく王族達と神官長を解呪し、ピンク女をあの不穏な首飾りごと蹴散らす事でマルセル国を救った。


 更に間髪入れず、魔族と呼ばれし我や我の同胞達を救う為に奔走する事で、きっと気を紛らわしておったのであろう。


 回帰前のカリエルを責められぬが故に、裏切られて傷ついた心を癒す手段を見つけられずにいたのだ。


「あのね、バード……私、今が二度目の人生なの。私、一度目で……ぐすっ、ふぅっ……」

「ああ。話してくれ。泣くのを我慢せぬでも良い。我の時間はフィリの為にあるのだ」


 まずはフィリの心に溜まった感情を消化してもらおう。


 全て終わったら、我の事を話そう。


 そう思いながら小さく震える体を抱き締め、フィリに向き合いながら過ごした。

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