26.気をつけて行ってこい~ガルヴァウside
「ほら、カリエル……カリエル? そろそろ起きなさいよ! このクソヘタレ!」
妹の死刑宣告のような声かけに応えるように、カリエルの体がピクリと動く。
健気だな、カリエル。完全に意識消失させてたのに……。
「私が魔国から出てくるまでに、首を洗って待ってなさい! さあ、行くわよ、ケモック二世!」
捨て台詞を吐くだけ吐いた妹は、スッキリしたんだろう。ケモック二世を小脇に抱えて踵を返そうとするが……。
「ヒッ」
「ソイツ、普通に悲鳴上げてるぞ。完全にビビり上がってんじゃねえか。動物虐待はどうかと思うぞ?」
「ケモック二世! お兄様にウルウルお目々を披露しないで! 行くわよ!」
妹がドスドスと足音を鳴らし、壁外に乗りつけて? 待機させて? あったらしきガーゴイルに乗る。
「ま、待って、フィー!」
おおう!? カリエルが突然の瞬発力を発揮した!
カリエルはガバッと起き上がり、瞬く間に立ち上がる。
と思ったら、足をもつれさせて床に膝をつく。
ちゃんと正常に生きてたようで良かったよ! ホント、色々な意味で良かった! とりあえず謀反の疑惑は晴らせるはずだ!
「何よ、もう動けるようになったわけ?」
対して動きを止めた妹は、頭だけ捻って軽くカリエルを一瞥する。顔がもの凄く嫌そうな感じだ。
「せ、説明を……」
「してあげる義理なんてないわ! アンタだって、いっつもいっつもいーっつも! 今回だって、やっぱりなんっにも説明しなかったじゃない! 自分の父親から事の成り行きでも聞きなさいよ!」
嫌そうだった妹の顔が、傷ついたようにクシャリと歪む。
妹はどうしてあんな顔してんだ? いっつもとか、今回とか、何でそんな言い方してんだよ?
ケモック二世も妹の腕の中で慌てて……。
「おい、泣くなよ!?」
普通に人語を話してんなあ!? ソイツ、やっぱ魔国の住人だよな!? まさかまさかの、魔国の王でした、なんてオチはつかねえよな!?
「わかってるわよ!」
「ウギャッ! 我の腹毛で液体を拭うな! 鼻水も混ざっておるだろう! ばっちい!」
「ケモック二世、うるさい! いたいけ可愛い少女の純粋な涙じゃない!」
「純然たるばっちい体液であろうー!」
ケモック二世の腹を、顔の上半分に押し当てた妹よ。確かに顔は可愛い仕様だが、発言が残念すぎだ。
「じゃあね、お兄様!」
「はあ……わかってんな? 気をつけて行ってこい」
いつでも帰って来いという意味をこめて、見送りの言葉をかける。
「……行ってきます」
一瞬、言葉に詰まった妹は、小さな声で言い直すとガーゴイルの背に乗る。
「行こう」
ケモック二世が普通にガーゴイルに声をかけると、ガーゴイルは翼を何度かはためかせ、ビュンと音を立てて瞬く間にいなくなった。
「我が妹ながら……はあ……」
思わずため息を溢す。
やるだけやって、言うだけ言って行っちまいやがった。この後の事を考えたら、どうなるか想像もつかねえ。
もし妹が本当に国王と神官長に手をだしてたら、下手すると謀反の疑いをかけられる。
まあカリエルが無事だから、どうにか手を打ってくれるとは思うが……。
けどまあ、妹が怒りに任せて動いたのも事実だ。
俺もカリエルも、もっと妹にちゃんと説明してれば、もっと妹の言葉に耳を傾けてれば、妹もここまでの強行……凶行か? 凶行に及ばなかった……多分。
「カリエル、体調はどうだ?」
「……体は……軽くなったよ。フィーが言ってた呪いの芽ってやつ。本当みたいだ。口の中は未だに得体の知れない何かが狂乱してるけど、吐き出したあたりから体が軽くなった。意識もクリアになった気がする。ただ……フィーを想うと胸が痛むんだ。もちろん実際に胸が痛いわけじゃないよ。フィーに殴られた鳩尾は痛いけれど……全部、自業自得だね」
「泣きそうなツラすんな。俺も妹の信用失くして、胸が痛えわ。とりあえずフィデリカを本気で落胆させて、ガチギレさせた俺達が悪かったんだ」
「そう、だね……はは、まいったな……」
膝をついたままのカリエルは、床にゴロンと転がって仰向けになる。片腕で目元を覆った。
「で? お前とフィデリカは、何を隠してたんだ? お前らの間で意志の疎通は出来てねえっぽかったが、共通した何かを隠してんじゃねえのか?」
「ガルヴァウ……相変わらず勘だけは良すぎるよ」
「勘だけって言うな」
カリエルはそう言うと暫く無言になり、涙が引っ込んだだろう頃合いで、顔の腕を床に下ろして語り始めた。




