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episode50〜古びたピアノ〜

たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。

ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。

暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。


大掛かりに見えたそれは、何故だか都の人々には知られる事なく計画が進んでいるように感じた。


「何だろう? この違和感… 」


セダリアも感じていたその言葉を先に発したのは、ナナの方であった。


その存在を知るはずもないナナが、何かを感じ取っているのは、セダリアにもわかった。


(あれは…  ’普通の者’ には使用する事が出来ないはずだ… しかし何故ここに?)


セダリアが探していた物。


それは古びたピアノだった。


最近になり、薄らとした目撃情報があった。

その為、この国へと赴いていたのだ。


それを現に今、目の当たりにしていた。


そのピアノは遠目からでも分かる程に、古びていた。

とても調律がなされているようには、見えないと感じる物だった。


(何処に持って行く気だ?)


息を顰めながら、後をつけるようにナナは足を進めていた。


しかし、それを危険と察したセダリアは、ナナへと静かに耳打ちをした。


「ナナ… 君は帰った方が良い」


「え? 何故です? …っ!? もしかしてあのピアノの事を知っ… セダさんが探していた物って… あのピアノなんじゃ… 」


(鋭いな… さてどうするか… )


セダはそう思いながら、少しの嘘を混じえながら、言葉を選んだ。


「そうだね… でも僕は知り合いに頼まれて、ちょっと探していただけなんだ。とても大切な思い出が詰まった物らしくてね」


「そうですか… それなら尚更、あの人達に声を掛けた方が良いんじゃ… 」


その先走りしそうになった身体を引き止めるように、ナナの腕を掴んだセダリア。


そう言うセダリアの表情は、とてもじゃないが容易な依頼ではなく感じられた。


その額に湿った汗がゆっくりと流れ始めるのが、見て分かる。


「セダ… さん? 大丈夫ですか?」


さすがのナナも少しばかり、躊躇した。


「あ、うん… そうだね。ここからは僕が… 」


しかしその瞬間、首の後ろに強い痛みが走った。

それと共に、目の前が真っ暗になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


横にいたはずのナナの気配を感じない。

気が付いた時には、その場所は冷たいれんが造りの壁の部屋に囲まれていた。


「はっ… !? … っつぅ」


その状況にいち早く勘付いたセダリアは、勢いよくその身を起こそうとした。


しかし、その重い痛みが首の後ろに残って、うまく立ち上がる事ができない。


「一体何なんだ… ナナ!? ナナ! 何処だ!?」


しかし、辺りを見渡してもその部屋には、ナナどころか誰1人その場にはいなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方、ナナもある場所へと連れ去られていた。


そこはセダリアと同じような造りの部屋だった。


しかし、壁のある両脇の面だけは何故か鏡張りになっていた。


そしてまた、ナナにはセダリアのような痛みはなかった。


ハッキリしない視界と少しの頭痛がナナの意識をぼやけさせる。


(何? ここは… 一体何処なの? はっ… !)


「セダさんっ!? セダさん! 何処ですか!?」


その見えないセダリアの姿を探しながら、ナナはその部屋をゆっくりと歩き始めた。


やはりその部屋には、ナナ1人しかいないようだった。

その代わりに、目の前には先程まで後を追いかけていた古びたピアノがあったのだ。


「ピアノ? さっきの… よね? ここに運ばれてきたの? この楽譜、見覚えがあるもの… ん? 楽… 譜?」


(あの違和感の正体はきっとこれだ!)


そう思いながら、古びたピアノに寄りかかっている楽譜に手を伸ばした。


(運ぶ時って普通、楽譜外すわよね? … あれ?)


そして、触れると共に更なる違和感に襲われた。


「動かない… っ!?」


そう、その楽譜はある所で開かれたままだったのだ。

ページを開こうにも開けない。

不思議で奇妙な楽譜だった。

いくら動かそうにも動かない。

その楽譜もまた、ピアノと同じように古めかしく見えたのだ。


これ以上無理矢理にでも触れると破れるのではないかと、そう懸念したナナは、一度頭を整理しようと試みた。


(うーん… 私、攫われたのよね? 何故? 金… そうかっ! 身代金か! 高貴なセダさんと一緒にいたから!)


それ以前に、自身が次期国王の婚約者だということが頭になかった。


そして、その推理は見事外れていた。

犯人の目的は別にあったのだから。


殿下の婚約者を誘拐し、その身代金を要求したところで、叶う見込みは少なかった。

それ程までに、王族が絡みの誘拐はリスクが大きい事なのだ。

殺害以外に、その目的を持つ者などほとんどいない。

そして、ナナは今、その身に拘束がないことにやっと気が付いた。


(あれ? そういえば身体は縛られてなかったわね? 何で? これなら脱出でき…… ないか)


ナナは再度辺りを見渡して、諦めるような表情をした。


拘束されていないという事は、到底脱出出来るような簡単な造りになっているはずがない。


セダリアがいない不安はあるが、その場の状況を汲み取り、意外と冷静でいる事ができた。


(リリック様のおかげかな?)


ふっと、何かを思い出すような笑みを浮かべるナナ。


彼との身を切られるような生活を経験してきたせいか、それ程恐怖を覚えていなかった。


「うーん」


それならと、ナナはピアノの方へと目を向けた。

その前へと足を踏み出し、椅子へと腰をかける。


(ん? なんか視線を感じる?)


そう思うと、辺りを一瞬キョロリと見渡した。


「気のせいか… 」


そして、ピアノへと身体を向き直す。


ダメとはわかっていながらも、そのピアノと呼べる程の原型を成していない鍵盤に手をかけた。


指先を2、3回弾いてみる。


「酷い音… まぁそりゃそうか」


そう思いながらも、特にやる事がないナナは、大好きなメロディーをたどたどしくも自身の音として奏で始めた。




「うぅん… 」


曲を弾きながら頭に浮かぶその音と、指先が中々合わずにいる。

ナナは唸りながらも、何故かこの状況を楽しんでいた。


徐々にその音が知っている物へと変わっていく。


その手探りの音を見つけていく喜びに、暫しの間自身の置かれている状況を忘れていた。


すると扉の向こう側から、ガタンという音の気配がした。


その方へと顔を向けると、ナナの部屋の扉が開かれたのだと気が付く。


そこには見知らぬ男が、深く帽子を被り、焦ったように言葉を出した。


「何故だ!?」


「えっ!? えっ!?」


「何故何も起こらないっ!?」


そう言いながら、男はナナの方へと近づいて行った。

いや、厳密にはそのピアノに近付いて行き、何かを確かめるような仕草をした。


「だっ、誰です!? あなたですか? 私を誘拐したのは!? 目的は何!? 私は貧乏でお金なんかっ… 」


「金などいらん」


「え? じゃあ何? 何が欲し… 」


「お前だっ!」


「えっ!? わた、私!? 私には、こ、婚約者がっ… 」


「勘違いするな」


「か… かか勘違いなんてぇ? してませんけどぉ?」


ナナは少し恥ずかしそうに、口を尖らせた。


「お前、このピアノを弾いて何も感じなかったのか?」


「え? あ、はい… 」


「… ということは、やはり、正確な音程で弾く必要があるのか? 絶対的な音感さえあれば、調律がなされていなくとも弾けるはず… そうか、まだ時間が必要か。慣れるまでもう少し弾かせるか… 」


男は、何やらぶつぶつと考えに耽っていた。


その様子を見て、ナナは嫌な予感がした。


「… っは! セダさん! セダさんは一体どうしたんですか?」


その言葉に、鏡張りの片方の一面にチラリと目をやった。


「?」


ナナはその目線に男の意図が分からずに、首を傾げた。




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

ナナが、閉じ込められた部屋にて、古めかしいピアノで弾いた曲は、


可不さんの【死にたいわけじゃなくて】です。


(基本歌は歌っていません)

あくまでも、作者が聞きながら想像し、執筆した楽曲を参考までに載せております。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。


文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。

また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。


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