episode43〜潜在的な特技〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
翌朝。
ナナ達は朝食後、ある部屋へとお呼びがかかった。
それは花のような嫌味のない、女性らしい香りのする部屋だった。
「ご機嫌ようリリック殿下。ナナ嬢」
その凛とした声に、思わず背筋が伸びるナナ。
(綺麗な人だなぁ)
「昨晩は良く眠れたかしら?」
「ご覧の通りです。フィラン王女」
(王女!? てことは、レクア様のお姉さんか妹? ていうか、リリック様、返事適当過ぎない?)
そう思いながらもナナは、王女の顔をチラリと見て、微笑んだ。
「そう。それは良かった。それにしても相変わらずね、リリックは」
「… 王女もお変わりないようで… 」
「今日は彼女… ナナさんとお呼びしても良いかしら?少しお話しがしたくて、お呼び立てしたの」
ナナは頷き、そして首を傾げた。
忙しい首だ。
「わ、私にですか?」
「えぇ。そんなに緊張しなくても大丈夫よ、うふふふ」
しかし、身構えたのはナナだけではなかった。
リリックの表情にもそれが現れる。
「な、何でございましょう?」
「ふふ… これをね、弾いて欲しいの」
そう言って、フィランはナナ達の前にある楽譜を差し出した。
「え? 楽譜!?」
それは、見たこともないような厚さの楽譜だった。
それを差し出された事によって、驚きを隠せないでいた。
ナナは焦った。
非常に焦った。
「こ、これを? 私が弾くんですか?」
「えぇ。もちろん初見でとは言わないわ。あなたはとてもピアノが堪能だと聞いたわ。それも他国の者達を虜にする程のね」
(持ち上げすぎじゃないか?)
「そんなあなたなら、きっとすぐに弾けるようになるわ。女性の繊細な音が聴きたいの。私にとって特別な曲だから… それにね、別に皆の前で弾いて欲しいって言っているわけではないのよ? 私の前でだけでいい。1週間あるわ。どう? やってくれない?」
(無理っ! あ… でも)
「あ、あのこの曲を弾ける方は、近くにおられますでしょうか?」
「ん? えぇ、何人かはいるわよ。この宮廷楽団にも確か… それがどうかしたの?」
「あ、えぇと、一度その方達の曲を聴かせて頂けないでしょうか?」
「もちろん良いけど… 」
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そして、暫くするとフィランの命令によって、1人の中年男性が部屋へと呼び付けられた。
(ベテラン感がすごい)
ナナはそう思いながら、その者がピアノの方へと移動するのを目で追っていた。
すれ違い様に、嫌な視線を感じた。
(ん?)
ナナは、その視線が自分へと向けられている事に気が付いた。
そして、その宮廷楽団員の男性によって、フィランの言われた通りの演奏が始まる。
それが王女の望むべきものなのか。
楽譜通りなのかは、ここにいる誰にもわからない。
ただひとつわかるのは、その音は初見で弾けるような、簡単なものではなかった。
とてもじゃないが練習無しでは弾けない。
ましてや、こんなにも分厚い楽譜をナナが弾くには到底無理があった。
いや、ナナにとっては、それが例えたった1枚の楽譜だったとしてもこの1週間では成し得ない事であったのだから。
何故なら、ナナには教養がない。
音楽に対しての教養がないのだ。
ナナは独学でその旋律を奏でている。
そう、楽譜が読めないのだ。
もちろん、基本的な事は義務教育の音楽の授業では習ってはいた。
しかし、その程度だ。
さて、どうやってナナがここまで複雑なボーカロイド音楽をピアノの旋律として、自分の音にしてきたかだ。
ナナは非常に耳が良かった。
長い長いその旋律を、いち音も漏らさずにその音を耳で、そして目で聴き入っていた。
そう、とんでもなく間近で。
彼はやりにくそうにも、そのプライドをかざす様に、そして、見せつけるかのように手を止めずにいてくれた。
それによってナナは、その繋ぎまでも完璧に取り入れることができた。
そう、自分の旋律として。
それはとてもじゃないが、難易なことであった。
しかし、ナナにはそれが出来た。
演奏が終わると、一礼をして、端の方に捌ける。
ナナが空いた椅子に座ると、目を瞑り、その手を奇妙にも動かし続けていた。
これは演奏中にも行っていた行為だ。
周りから見れば、それはとても奇怪な動きにも感じられただろう。
しかし、これによってナナはイメージを膨らましていたのだ。
この場にいる誰しもが首を傾げた。
リリックにとっても、初めて見る行為だったからだ。
彼らは既に出来上がっていたその音色しか聞いたことがない。
だからこそ、誰しもがこれから起こる事に驚きを隠せなかった。
ナナは瞳をゆっくりと開けると、その指を動かし始める。
そう、それはまるで先程と同じ旋律を聴いているかのように。
「っ… !? 信じられないわ」
フィランがその演奏に驚くように、目を見開いて言った。
その視線の先にいち早く気が付いたのは、宮廷楽団員である彼であった。
鍵盤を見つめるばかりで、一切楽譜を見ていないナナを見て、声を漏らす。
「そんな… 馬鹿な」
ナナはその楽譜を見る事なく、耳と目の記憶だけでその曲を弾き始めたのだ。
途中途中の鍵盤を走らせる速さには、まちまちの箇所が所々あった。
しかし、その音と繋ぎを一音も外す事なく奏でていく。
先程までの馬鹿にしたような表情は、彼から既に消えていた。
「本物に会うのは、初めてだ」
「何だ? どういうことだ?」
楽団員の言葉に、リリックは疑問を投げかける。
「聞いた事があります… この世には、その音を一度聴いただけで、その音を正確に認識出来る者がいると」
「一度聴いただけでか?」
「左様でございます。絶対的な音感の持ち主。おそらく彼女は、それを生まれながらにお持ちなのではないでしょうか?」
「絶対的な音感… ナナがか… ?」
(確かに今まで聴いた曲は、楽譜を共にしていなかった… しかし、それは、何度も弾いて頭に入っているものとばかり… )
「ひょっとして、彼女なら… 」
「?」
「いえ… 」
そう、ナナは生まれながらにしての絶対音感の持ち主であったのだ。
しかし、ナナ本人もその事実を知らない。
あくまでも、独学でやっってきた事だったからだ。
あの孤独だった日々をこの才能と音楽が救ってくれていたのだ。
よって、ひた隠しにしてきたこともあり、本当の家族すら知らない事実だった。
全ての音を難なく弾き終わり、ナナはその緊張を解いた。
ふと、顔を上げると、その視線達が自分へと全集中していることに気が付く。
ナナは、勝手に弾いてしまった事の気まずさに苛まれる。
「あ、あのっすいま… 」
「素晴らしいわっ! こんなにも才能があったなんて! あなた、楽譜を見ることもなく、まさか一度聴いただけで奏でる事が出来るなんて!」
そう言いながら、賞賛の目を大いに振るうのは、今回の依頼者であるフィラン王女だった。
「あ、えぇと、とんでもございません… 」
ナナは事の凄さに、気が付いていようだった。
何故なら、楽譜を読む事ができない上に、わざわざ古参である宮廷楽団員を呼び付け、自身の演奏の為に弾かせたという事実の方が、場違いだったのではないかと感じていたからだ。
「はぁ… 演奏会が待ちきれないわ! 早くあなたの演奏が聴きたい! そうだわ! 滞在中毎日弾きに来てくれない?」
その言葉に、リリックはすかさず言葉を返した。
「お言葉ですが… それは私の特権にございます。本来のお約束は、演奏会のみであったはず。今回のこの件も… 」
「あぁわかったわかったわ! 全く! 昔から頭が硬いんだから! そういうところよ? 今まで女性が近寄ってこなかったのも! 本当こんな素敵な子と出会えて奇跡としか… 」
「わかって頂けたのなら良かったです」
被せるようにそう言いながら、リリックはとても冷たい円満な笑みをお見舞いした。
2人のやり取りを見ながら、ナナは思った。
(リリック様ってモテないんだ? … ん? その顔で? まぁ顔だけではないけど… と言うよりかは、近づくなオーラが強すぎて、ただ単に近寄り難いだけなんじゃ?)
そう言い残すと、リリックはナナの手を引き、足早にその部屋を後にした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




