episode30〜感情の制御〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
突如現れたリリックに驚きが隠せないナナ。
「えっ!? あ、リ、リリック様!? なっ… 」
その声に反応することもなく、腕に込められる力が強まる。
「ちょっ… リリック様!? 如何されましたっ!? え? 聞いてます!? リリッ… 」
「何なんだ!?」
「へ?」
「あの男はっ… 俺の許可なく、2人で会っていたのか!? いつからだ!? いつからそんな関係に!?」
「え、えと、リリック様? あの方はモルバード家の御子息様で、リリック様もご存知かと… それに、そもそも殿方と2人で会うのに、許可なんて必要ありましたっけ?」
「… っ! … あるっ」
(えぇ!? 初耳ですけどっ!?)
「それは… 申し訳ありませんでした… ?」
「… っふぅ… で? いつからあの男とそんな関係に?」
「え? そんな関係? … とは、どのような関係ですか?」
「そ、それは… 接吻をするような… そんな… 」
「えっ!? 接吻!? だ、誰が!? 誰と!?」
「お前があいつとだ! していただろう!? 今さっき… 」
「私があの方と? しておりませんが?」
「して… ない?」
「はい。してませんよ? そんなの」
「ほ、本当か!?」
「本当ですよ。誰が好きでもない相手… と… 」
(あ… )
ナナはそう思いながら、目の前の相手を思わず見てしまった。
「っはぁぁぁあ… そうか… 良かった。では先程のあれは何だったんだ? あんなに顔を近づけて、一体何をしていた?」
(ん? 良かった?)
大きなため息を吐いたと思えば、今度はナナに詰め寄るように両肩をガシリと掴み、尋問するリリック。
「前髪に絡まった枯葉の屑を取ってくれてたんです。それにあの方とは、私、さっき初めてお会いしました。名は確か… えぇと、何でしたっけ?」
「そうか… いい… 思い出さなくて」
(じゃあ何だったんだ? あの測ったような違和感… タイミングが良過ぎる… 考えすぎか?)
すると、ナナの指に巻かれたテーピングが目に入るリリック。
「その手はどうした?」
「あ、えと… 昼間少し庭仕事で」
「見せてみろ」
その痛々しい手を見て、リリックは少し悲しい顔をした。
(斬首する程の人が、こんな傷口で… そんな顔… しないでよ)
そう思いながら、ナナはその手を引っ込めた。
「え、演奏には支障ありませんので… 」
「無理はするな。今日くらいは弾かなくとも… 」
「いえ! 本当、大丈夫ですから!」
ナナはその複雑な顔を見られまいと、背を向けた。
「そうか… では、今から部屋に来い」
「え? 今からですか!? まだ昼間… 」
「良いからっ! 別に今から弾けと言っているわけじゃない」
(えぇー! じゃあ何!? わがまま!?)
こうして、強引にも手を引かれたナナは、何故か少し嬉しく思いながらその後ろ姿を追った。
いつもとは違う、陽の光が入る部屋。
明るく照らされるピアノは、キラキラと眩しく感じた。
ピアノの前に進むナナ。
(あれ? 結局こうなるのか)
そう思いながら、腰を下ろすと同時にリリックは、側に寄ってきた。
「そうだな… 支障が無いのであれば、聴きたいところだが… 」
(えぇ。弾きますとも。何なりと)
「はい… ん? 何かご希望の曲調がございますか?」
「ああ、俺は今、気持ちが非常に荒んでるんだ」
(何をそんなに荒れる事があるんだろう? せっかく婚約者も見つけたのに)
「はい。わかりました。では… 」
そう言うと、ナナはすぐにその指を走らせた。
感情移入はしてはいけない。
なのに、どうしてもそれを抑えることは難しかった。
落ち着けるような曲を選択したかった。
願っても叶わないのは、わかっている。
しかし、どうしてもその鍵盤は、切なく、そして、愛おしい音に変わってしまうのだ。
珍しく、演奏する側でピアノの音を見つめている。
それも立ったままだ。
初めてのことだった。
いつもは必ず腰を落とし、静かに聴き入っているリリックがだ。
最後の一音が指から離れた。
すると、ナナの背中にある衝撃と温もりが一斉に走った。
リリックがその背中を、後ろから抱きしめたのだ。
伝わる。
全てが伝わってしまうような気さえする。
今だけだとしても、自分の為に、自分に向けられた愛おしい音が、耳へ、脳へと伝わって離れない。
「え? え? リリッ… 」
(な、な、何コレ! 非常にまずいんじゃ… )
そう思いながら、扉の側に立っている側近をチラリと見た。
(止めないのか? 何で?)
「… 言ったろう? 心が荒んでいる。だから、何をしでかすのかわからない。俺は今… 」
「え、えと、この曲じゃダメ… でした?」
「ダメだ」
「そ、それなら他の曲も… 」
「全然ダメだ。これじゃ足りない」
「足りない? それじゃあどうすれば… 」
その瞬間、身体が浮いたきがした。
いや、実際に浮いていた。
両手で抱えるように、ナナを持ち上げていたのだ。
「えっ!? ちょっちょっ… リリック様!? な、何をっ… 」
「足りない… 足りないっ… 」
(なにが足りないノォー!?)
そして、ベッドへと運ばれたかと思えば、頭から掛け物で覆われたナナ。
視界が見えない分、その声と静かに鳴り響く自分の鼓動がより感じられた。
「少しだけ… 少しだけこうしていたい」
「え… ね、寝るにはまだ昼… あ、お昼寝ですか?」
(お疲れなのかな? それにしてもこれは… 本当にまずいんじゃ… )
そのまま後ろから抱きしめられたが、何故がその手を振り解く事はできなかった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回、昼間の演奏にてナナがリリックの望みに応える為に選んだ曲は、
ロクデナシさんの【愛が灯る】です。
(基本歌は歌っていません)
今後、作者が聞きながら執筆した楽曲をその都度、参考までに載せておきます。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




