episode28〜巧みな罠〜
たくさんの作品から見ていただき、ありがとうございます。
ボーカロイド系の音楽を取り入れた作品になりますが、あまり詳しくないのが現状です。
暖かい心で呼んで頂けると嬉しいです。
部屋の扉が開かれているのに、気が付いた時には遅かった。
その場に駆けつけた者達の耳には、彼の殿下である言葉の重さがしかと刻まれてしまっていたのだ。
驚くのも無理はない。
しかし、それ以上に1番驚きを隠せないでいたのは、リリック本人であった。
「何故… お前がそちら側にいる? どういう事だ?」
それは、目の前にいるはずのナナが、駆けつけた向こう側にいたからだ。
たった今、その言葉を投げた相手が、第三者側にいる。
「ナナッ!? 一体どうなっているんだ!?」
その視線を戻しながら、リリックは思考を回転させた。
(では、俺が今触れている… この者は一体… 誰だ)
すると、目の前にいるその者が声をかけて来た。
声色ひとつ変わらない。
むしろ、歓喜と優越感のある声でリリックの名を呼び始めた。
「リリック殿下? ふふ、如何されました?」
先程までナナかと思われていたその姿は、全くの別人になっていた。
リリックはあろうことか、ナナではなくその女に愛の言葉を伝えてしまったのだ。
それは、公開プロポーズをしてしまったも同然だった。
知らなかったとはいえ、大勢の者がそれを聞いていたのだから。
「ダメですよ? 与えられる物をそう簡単に口にしては」
リリックはその言葉に、残り少なくなったテーブルの上のグラスを見た。
この部屋に来た時に、用意されていた飲み物を口にしてしまっていたのだ。
いつもはしないその行動に、緊張の為「喉が渇いていたのだ。
リリックは、これ以上ない冷たい声を女に発する。
「お前… 誰だ?」
リリックは、その女に見覚えがなかった。
「あら? ご冗談を。何度かお会いした事もありますわよ? わたくしの屋敷にも足を運んで下さったじゃないですか? それに、この間のパーティーでもご挨拶致しましたし」
リリックは、記憶を辿った。
ピンと来ている様子がまるでない彼に対し、ナナはその女に見覚えがあった。
(あの人… 確かリリック様のパーティーにいた… あの時確か、目が合った気が… )
そして、リリックも思い出し始めていた。
顔は覚えていなくとも、公務としてならその人物を覚えていたのだ。
「… ? 屋敷? そうか… お前はもしかしてモルバード卿の娘か?」
「ふふふ… はい。殿下。そして、あなたの婚約者です」
「黙れ! お前に言った言葉じゃないっ!」
リリックは感情を露わにし、強く否定した。
しかし、その場に駆けつけた者達の耳にしかと残った言葉は、既にプロポーズとして受け取られていた。
「あらあら。照れてらっしゃるんですか?」
そう言いながら、モルバード令嬢はリリックの胸元へと大衆に見せつけるかのように、指先で線を書いた。
リリックはその手を振り解き、ナナへと視線を戻した。
「リリック様… えと… 邪魔するつもりはなかったんです。お部屋にいらっしゃらなかったもので… 」
「ち、違うんだ! これはっ… 」
どの言葉よりも重いその言葉は、一度発してしまったら、そうそう消えるものではなかった。
しかし、ナナはその時はまだ特に残念だとも思わなかった。
(あれ? 伝え忘れちゃったのかな? 部屋にいなかったから… まさかこっちの部屋にいたなんて)
ただ、社交辞令的にその言葉を発した。
「誠におめでとうございます」
その言葉が、どんなに心を深く沈めたか。
彼が1番聞きたくない言葉だった。
目の前にいるモルバード令嬢は、してやったりと笑みを溢したままだった。
機嫌の悪さを最大級にして、リリックはその場にいる全員に言い放った。
「全員失せろ」
「… 御意」
今にも、誰かの首を刎ねる勢いであった。
そう言われ、全員がその場から一斉に退いた。
ナナもだ。
しかし、その場を動こうとしない令嬢に、1番の冷たい眼差しを突きつけるリリック。
「お前もだ、失せろ」
「ふふ、あら残念」
そう言いながら、その態度に屈しない表情でゆっくりと立ち去った。
その部屋に1人、うなだれるように腰を下ろすリリック。
怒りと悔しさに、強く拳を握って思考を巡らせていた。
(ナナは何故、俺の部屋に行ったんだ? それに、何故他の者達まで、この部屋に駆けつけた? くそっ! 全てあの女が仕組んだことなのか!?)
リリックの感情は、今にもはち切れそうだたった。
一方、ナナの足は久しぶりにある場所へと向かっていた。
(今日はひとまず、あの狭い部屋に帰るか… 行くとこないし… 久しぶりだな)
そう思いながら、ナナは以前使用人時代に使っていた個室へと戻った。
その心に、ジンワリとした小さな小さな米粒ほどの痛みを感じながら。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
(基本歌は歌っていません)
作者が聞きながら執筆した楽曲をその都度、参考までに載せておきます。もちろんお好きな曲を聴きながら、楽しんで読んで頂けるといいと思います。
あまり、ボーカロイド音楽を聴いた事がないので、何かオススメなのがあれば、メッセージ等下さると嬉しいです。(ピアノの旋律がある物だと尚、嬉しいです)
文章に乱れや疑問がある場合もメッセージ等頂けると嬉しいです。
また、心ばかりの評価なども頂ければ大いに喜びますので、宜しくお願いします。




