攻略Two:偽・神を喰らう魔狼
「伊賀崎 正嗣、優汰と絵夢の実の父で、私が現世にいた頃の伊賀崎家当主の息子。彼なら優汰が魔術師で、風花が一般人だと知ってるでしょ?」
「流石に違うでしょ!その・・・口調が全然違う。父さんはもっと頼もしい威厳のある感じでしゃべるし。」
逆凪 青依の意見、『RKが優汰の父、正嗣じゃないか』に優汰は異を唱える。
「口調なんて意識一つでいくらでも変えられるでしょ?否定の材料にならない。体格みたいな変えられないものは?身長とか。」
「父さん何センチなんだろう?僕の身長も伸びてるから昔の記憶じゃ当てにならないし・・・正確な数値を持ってこないとわからない。」
優汰は苦い顔をしている。父親を疑いたくないのだろう。
「まあいいよ・・・変形の魔術を持ってこられたら身長も当てにならないし。」
「変形の魔術って物の形を変える魔術でしょ?生物に使うと悪影響を及ぼすって、他人ならともかく自分自身に使うかな?」
「目的の為なら、どんな命だって使えるのが黒魔術師でしょ?そもそも魔術師が、それも黒魔術の魔術師が自殺なんて怪しいにもほどが・・・」
何も言い返せない優汰は少し涙目になっていた。
「ま、まあ私の根拠のない推測だからさ、そんな泣きそうな顔しないで、ね?」
「泣きそうな顔なんてしてないよっ!!!」
そう言って優汰は部屋から出て行った。
「父親を疑いたく無いよね・・・いやそもそも伊賀崎正嗣が、優汰のお父さんが生きてるってとこからifなんだし、そんなに本気にならなくてもよかったんだけどなぁ。」
姫里 風花は青依に質問する。
「青依さん、『被虐体質』と『挑発の魔眼』ってどう違うんですか?」
「え、そうだね、被虐体質は『特異体質』、挑発の魔眼は『魔眼』に分類される。」
風花に青依が説明する。
「魔眼って言うのは単体で魔術を行使できる眼球のことね。それ自体が魔力を作り出し、それぞれの固有の術式で魔術を使う目。挑発魔術を使うなら挑発の魔眼、石化の魔術を使うなら石化の魔眼、魅了魔術なら魅了の魔眼って感じ。良くも悪くも眼球で完結してるの。だから眼球を摘出して他人に移植すれば能力の譲渡ができる。」
「『魔眼師』って言う魔眼の摘出と移植専門の魔術師もいるよくらいだしね。姉さんの眼帯の下にも拘束の魔眼がある。父さんが作った人工的な物だけど。」
青依の説明に優汰が補足する。
「それで特異体質なんだけど、これを説明するには『魂源』を説明しないとだからそれから先に。魂源って言うのは魔術師に限らず全ての人が『魂』に内包する存在の方針。『死』だったり、『被虐』だったり。自分の魂源に人生を縛られるわけじゃないけど、その人の考え方や趣味嗜好にある程度無意識の強制力が働いたりする。」
「趣味嗜好に働く・・・もしかして優汰、Mなの?」
「違うわ!!!」
風花の素直な感想を優汰は否定する。
「まあ被虐ってのは、もっと深刻にいじめや虐待を受けやすいとか、そう言うレベルの話だけど、優汰がMなのは・・・否定しないかな。」
「おい!!!」
優汰が女子二人にM疑惑をかけられる。
「まあ、被虐の魂源を持ってる人はMになりやすいってのはそうだけど、だからって誰もかれもMよばわりするのはダメだよ?」
「はーい。」
風花の返事を聞いて青依は説明を続ける。
「で、その魂源が体にも影響を及ぼしたのが『特異体質』。本来魂源の影響を受けるのは『魂』と、魂と『精神』から作られる『人格』だけだったのに対して、『肉体』まで魂源に染まったもの。先天的なものだからその人なりの苦労があったりするんだよね。」
「たまにいる記憶力がすごい人も魔術的には『記憶体質』とか『記録体質』とか言われたりする。」
優汰の補足で風花も多少は理解したようだ。
「人は『肉体』、『精神』、『魂』の三要素で構成される。それだけわかれば、まあ、いいかな?」
「んー、結局、優汰が持ってるのはどっちなの?」
風花のその質問に優汰は迷わず、
「被虐体質だよ。」
と答えた。
夜の住宅街、対面する三人とRK。
「今日は獣魔共は放ってない。お前たちを潰しに来た・・・だが、その前にそこの一般人は隠れてろ。これは魔術師同士の戦いだ。一般人を巻き込むわけにはいかない、それに目の前で死なれると目覚めが悪い。」
「その良識があるならこんなこと止めればいいのに。」
RKに対して正論を言いながら隠れる風花。
「うるさい!いいんだよ!こっちだって色々事情があるんだよ!!!」
「どんな事情か知らないけど魔術連合が介入しないうちに止めたら?」
逆ギレするRKに青依は一応説得する。
「ほっとけ!取って置きの奴を持ってきたんだ。来い、フェンリル!!!」
普段のものよりも一回り大きい狼型獣魔が現れる。フェンリルとはたいそうな名前だ。
「『偽物にも微々たるものながら同質の力が宿る』。魔術理論、偽劣。ただの魔法使いならともかく神の理の進化を果たしたお前には神性があるはず。北欧神話の『神を喰らう魔狼フェンリル』は主神オーディンを殺したその逸話から現存する全ての神話の中でもトップクラスの神性特攻を持つ。その偽物の特攻も相応に高くなる。加えて他にも俺が使える神性特攻のすべてを注ぎ込んだ。それがこの偽・神を喰らう魔狼だ。」
ご丁寧に、且つ自慢げに説明するRK。
「割とガチだこいつ!!!」
「当然だ!!!言っただろ!お前たちを潰しに来た、ってな!」
堂々と言い切るRKを前に優汰は眼鏡を外す。
「あのさ、それ青依対策だろ?なら、オレが倒せば問題ない!」
「うっ!!!」
優汰の威圧感に気圧されRKは転移で姿を消す。
「逃げ足ナンバーワンだな、あいつ。青依、下がってて。できればナイフを作ってくれ。」
「うん。」
「それとこれ借りる。」
「え?あっ、ちょっと!」
優汰は青依が構築したナイフ受け取り、青依の指輪を勝手には取る。
「お前の相手はオレだ!」
我が魔眼よ
魔眼によってフェンリルの攻撃対象が優汰に移る。
「グルルルアアアアア!!!」
フェンリルは優汰の肩に噛み付き、住宅の壁に投げ、叩きつける。
「あっ、あああああ、だあぁぁぁ!」
飛びかかるフェンリルを躱し、フェンリルの皮膚を抉り取りながら強化した蹴りをお見舞いする。その隙にナイフで自分の指を切り出血させる。
「ほらこっちだ!」
フェンリルを飛び越え、血で魔法陣を描き、その中心に抉り取ったフェンリルの皮膚を置く。
「ガルルル!!!」
だが、その隙に優汰はフェンリルの突進を受ける。
「ぐっっっ!・・・はあ、はあ」
フェンリルは再度優汰の肩に噛み付き、腹に爪を立てる。
「ぐあああああああああああああああああああああああ!」
優汰はなんとかフェンリルを押し飛ばし、詠唱する。
対魂術式はあ、はあ、呪撃!!!
厚さ1㎝の皮膚は呪撃の触媒としてはまずまずであり単発でも十分なダメージだ。優汰に飛び掛かろうとしたフェンリルはそのダメージに一瞬動きが止まる。
「ガアアアァァァァァ!!!」
それを見て優汰は指輪に魔力を込める。
眠れ
指輪の魔術に応じてフェンリルは眠る。
「フェンリルの偽物なら死の逸話が弱点だろ?フェンリルは口を上下に裂かれて死んだ!」
血まみれで満身創痍の優汰はフェンリルの下顎を踏みつけ上顎を持ち上げ、
「はあああああああああああああああああああああ!!!」
フェンリルを口から引き裂く。断末魔さえ上げずフェンリルは消滅する。
「はあ、っはあ・・・・・あっ」
身体中の噛まれた跡から血が出ている。腹部の爪痕も傷が深い。
優汰は魔力切れを起こし、気を失い倒れた。
青依が優汰を背負い、青依と風花は帰り道を歩く。
「全く無茶して、何も一人でやることないんじゃない!!!?」
「聞こえてないよ。」
怒る風花に青依が返す。
「なんでこんなに無理するの?怖くないの?って言うか覚悟決まり過ぎじゃない?優汰が傷つかないようにってついて来たのに・・・結局私何にもできてない。」
風花は少し落ち込んでいる。
「風花、優汰のこと大好きだね。」
「はあああ!!!?」
思わぬ青依の発言に風花は顔を赤らめる
「そ、そ、そ、そんなわけないでしょ!単なる腐れ縁だから!!!恋愛感情なんて三日月藻ほども無いから!!!」
「普通そこミジンコじゃない?・・・まあ、優汰の覚悟が決まりすぎてるのは、魔術に触れるのが遅かったからじゃないかな?」
「どう言うこと?」
風花の疑問に青依は答える。
「普通、魔術師は少なくとも3歳までには子供に魔術を触れさせる。『三つ子の魂百まで』。魔術師の価値観を植え付けやすい年齢だからね。」
青依は優汰に憐憫の目を向ける。
「でも、優汰は二桁過ぎてから魔術に触れた。それも命や死を身近にする黒魔術。普通の小学生にはきついと思う。そうするとね、
色々歪むんだよ。周りの死に敏感になる。
『みんなが傷付かないように』って言うのは多分そう言うこと。」
「優汰・・・」
風花の顔が暗くなる。
「いや、いいや。この話忘れて。昼間も勝手な推測で優汰に暗い顔させちゃったし。」