結成Final:傷つかないように
「え!!!?たったそれだけ?」
布団を逆凪 青依の部屋に運んだ伊賀崎 優汰は青依の荷物の量に驚愕する。
引っ越しならばもっとたくさんの荷物があるものだ。なのに青依の荷物はその小さなリュックサックに収まっている。たったそれだけしかないのだ。もちろん着替えは無い。お金も、食べ物も、飲み物も、携帯も無い。
まあ携帯電話の原点である自動車電話でさえ38年前のものだ。40年前にこの世を去った青依が持っているはずもないが。
「現界して1か月間、ずっとホームレスっていうか、そんな感じだったし。私、食事取る必要も寝る必要もないしから。」
「でも、お風呂は?汗もかかないの?」
「汗はかくけど、水分を取らなければそれも出ない。どうしても体洗いたい場合は人払いの結界を張って公園の噴水で。」
青依は淡々と話すが、思春期の男子にはちょっと刺激が強い内容だ。優汰の顔が赤くなる。
「で、で、でも襲われたりとかしないの?そ、その男の人に、とか?」
「ただの人間が私を襲っても魔術を使うまでもなく一捻り。最悪襲われても私、子供出来ないから大丈夫だし。」
「全然大丈夫じゃないよね!!!?」
優汰が思わず突っ込む。ちょっとどころではなくかなり刺激が強い。
青依はその反応に段々サディスティックな表情になっていく。
「ふふっ、可愛いね。そうゆーの慣れてないんだ?」
「117歳の美少女にそういう話されることに慣れてる奴がこの世界のどこにいるんだよ!!!」
顔が真っ赤になりながら突っ込む優汰。もうものすごいことになっている。
「とにかく、布団は持ってきたから、じゃ!」
そう言って優汰は逃げる。残された青依は、
「美少女・・・」
と嬉しそうに呟く。その顔は少女のものに戻っていた。
姫里 風花は伊賀崎 絵夢と夕食の準備をしながら考え事をしていた。
そう言えば最近たまに優汰の一人称がオレになっている。厨二病っぽいけど、魔術の存在を知った今だと一概にそうと言い切れないし、絵夢さんに教えられた被虐体質、優汰が言ってた挑発の魔眼、魔眼って具体的に何だろう。
「獣魔って何なんだろう。誰がそんなものを?いや、そもそもなんで優汰が獣魔と戦わなきゃいけないんだろう。青依さんのこともテストのことも・・・もう明日学校か。色々ありすぎて1日があっという間だった。あー勉強もしなきゃ。」
「風花ちゃん、ブラックペッパー取って?」
「はい!!!」
風花はびっくりしつつ、絵夢にブラックペッパーを手渡す。
「ありがとう。さっきから考え事、口に出てるよ?」
「え!?」
「いろいろ考えると口に出ちゃう癖治ってないんだね。」
「ごめんなさい・・・」
若干落ち込む風花。それを見て少し微笑む絵夢。
「ふふっ、謝らなくてもいいよ・・・なんで優汰が獣魔と戦うか、なら簡単。優太が周りの人たちに傷ついてほしくないから。私もそうだし、学校の皆もそうだし、何より風花ちゃんに。」
「えっ?」
「別に最初からあんなに覚悟決めてやってたわけじゃないよ。昨日の夜、青依ちゃんが来るまで嫌だ嫌だなんてビビっちゃってたし。でも風花ちゃんが傷つくことが死ぬより怖かったんじゃないかな?」
「優汰・・・」
恋する乙女のような顔をしている。
「・・・よーし、ご飯できたから二人呼んで来・・・」
「はぁはぁはぁ。や、やばかった。なんか危ない扉を開かれるところだった。」
ドタドタと3階から降りてきた優汰の言葉に何が起きたのか気になる風花だが、
「ちょうどよかった、ご飯できたよ。今日はカルボナーラ。優汰、青依ちゃん呼んで。」
と、絵夢に遮られたので、まあいいかと流す。
「あ、うん。 青依ーご飯出来たよー!」
10時になり優汰たちが獣魔を駆除しに向かおうとすると、
「待って優汰。」
「え、何?どうしたの?風花」
風花が優汰を止める。
「優汰、私、あれから考えた。優汰のこと、青依さんのこと、獣魔のこと。考えて・・・決めた!」
風花は真っ直ぐ優汰の目を見る。
「私もいっしょに行く!優汰が私のために危険なことしてるのに、ここで待ってるだけなんて、できないよ!優汰が、みんなが傷つかないように戦うなら、私は優汰が傷つかないように戦う!まだ魔術一切使えないし戦う力なんて無いけど、何かできる事があると思うから。」
「風花・・・言っておくけど遊びじゃないよ?囮である優汰を守りたいなら、自分も死ぬ覚悟じゃないと。それでもいいなら私はいい。」
青依は忠告する。風花は真っ直ぐ青依を見据えてくる。
「僕も青依とだいたい同意見。できれば戦ってほしくないけど風花が心配してくれてるのは、わかるから。」
「うん。」
風花が頷く。青依は認めるように、
「じゃあ行こうか。」
と言い、伊賀崎家の玄関を開けた。
人払いの結界よ
青依の詠唱に応じ、住宅街の交差点に結界が展開する。
「いくよ?」
優汰が眼鏡を外す。
「HAAAAAAAAAAAA!!!」
獣魔の雄たけびが聞こえる。青依は優汰のそばで鎌を構える。
「青依さん!後ろ!」
風花の言う通り青依が背を向けていた道から、
「ガルルルァァァアアアアアアア!!!」
狼型の獣魔が飛び出す。
「はっ!」
青依はナイフを構築、投擲し獣魔の喉を貫通する。
「うわぁ、結構グロテスク。・・・・・次、左!」
青依が鎌を振るい獣魔の体を縦に二等分する。続いて住宅の屋根の上から現れる獣魔の首と胴体を離れ離れにし、横から飛び付いてくる獣魔2体を構築した槍でまとめて貫く。後ろから襲い掛かる獣魔を優汰が魔力弾で射抜き、青依が蹴り飛ばす。
そのすべてに青依や優汰が目視する前に、風花の方向指示が入る。
「右から3匹同時に来る!」
青依は蛇型獣魔三体を弓で貫く。
「うん、もう足音は無いかな。」
その言葉で二人とも構えを解く。
「なんだか、凄いやりやすかった。」
「風花は聴覚が普通の人より優れてるんだ。そのおかげかな?」
青依の言葉に優汰が答える。
「うん、よかった・・・私にもできる事があって。」
「ありがとう風花。じゃ、次の場所に行くよ。」
青依はそういうと指輪を付け替えて詠唱する。
転移
「ここが最後だね。」
転移した場所を見て優汰がそう言うと、
「そう、ここで君たちは終わ・・・・・なんでまた増えてるんだよ!」
と、例のフードの犯人が突っ込みながら現れる。
「ねえ魔法使い、君一般人まで巻き込むとかどういうつもり?神秘の秘匿はどうしたの!!!?」
「君には言われたくないよ。犯人くん?夜とはいえ町にこれだけ獣魔を放って、神秘の秘匿する気ないでしょ?」
「犯人って呼び方はどうなの?人聞き悪いよ?事実だけど。・・・うーん、RKとしておこうか。」
「じゃあRK。ここでオレたちがお前を倒せば万事解決だろ!」
いつの間にか一人称が変わった優汰がRKを名乗る犯人に魔力弾をぶつける。
「ドラゴン!!!」
RKを守るように竜型の巨大な獣魔が現れる。洋風のドラゴンというより和風な竜といった感じだ。目がたくさんあることを除けば。
「ようし、いい子だ。ドラゴン、紫髪の女を潰せ!」
そう言ってRKは転移で消え去る。
大型獣魔が雄叫びをあげて突進してくる。
防御結界!!!
青依が防御結界を展開し、二人を守る。
「風花、下がってて!」
優汰が風花を安全な場所に隠れさせる。
「青依、あの獣魔の血が欲しい!行ける?」
「これ使って自分で何とかしてっ!私、今は結界の維持で、手、離せないからっ!」
青依はナイフを3本構築する。それを受け取る優汰。
「的がデカけりゃ、下手な鉄砲もなんとやらだ!!!」
1本目は外したが、2本目が命中する。強化した脚力で飛び上がり、突き刺さったナイフに魔力弾を命中させ、食い込ませる。
「GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
その痛みに獣魔が叫ぶ。その隙に着地した優汰の肩に鳩が止まる。優汰は獣魔の血が滴って水溜りのようになった場所まで走る。獣魔の血で魔法陣を描き、その中心に鳩を立たせ、詠唱する。
対魂術式・・・照応
「ごめんね・・・」
優汰はそう鳩に謝ると、最後のナイフで鳩の首を刎ねた。
刎ねられたハトの首に照応し、獣魔の首が切断される。
「Ah―――――――――――――――!!!!!」
断末魔と共に獣魔が消滅する。
「ふー、終わった!帰ろう。僕、喉乾いた。」
「あっ、う、うん・・・・・」
自分の知らない優汰の姿に風花は恐怖を覚えていた。
青依と風花と共に帰り道を歩く優汰の後ろ姿を、
「伊賀崎・・・全く、抑止力の魔法使いだけでも厄介なのに・・・それに一般人まで巻き込んでどういうつもりだ?」
民家の屋根の上からRKは見ていた。