結成Three:戦う理由
「よし,じゃ次の場所に行こうか。」
そう言いて結界を解き、歩き出す逆凪 青依に伊賀崎 優汰は異を唱える。
「え?いや、獣魔の死骸を片付けないと・・・え!?」
ついさっきまであたり一面に転がっていた狼型獣魔の死体は血のいってきさえ残らず跡形もなく消え去っていた。
「獣魔の体は魔力でできてるから、殺せば魔力に戻って消えるよ。だから後片付けの必要もない。」
そもそも魔力で物質を作るという行為は、地球の意志である『世界の抑止力』がそれを許さない。その物質を排除するために世界そのものが物質を魔力に戻そうとしてくる。
"構築の魔術"は構築に必要な魔力とは別に、魔力で作った物質を維持するために魔力を消費し続ける必要がある。構築の魔術が不便なのはそこだ。
それは獣魔の肉体も同じはずだ。なのに獣魔は平然と現界し続け、人的被害まで出した。抑止力が動くのも納得できる。
二人は次の場所に向かった。被虐体質を使って獣魔をおびき出す作戦だが、優汰の気配が獣魔に届かなければ意味がない。
「獣魔だけを遮断する結界を張ってるから、夜見川市全体に気配を届けなくても、結界内に優汰の気配をいきわたらせればいい。結界は大体、三平方キロメートル。四つのポイントに分けて、これを繰り返せば大丈夫。」
ということらしい。
結界術は第一権能を源流とする第一系統の魔術だ。第五魔法の魔法使いにしては随分系統が違う魔術を使うものだ。優汰はそんなことを考えていた。
「次でラストだね。」
側には獣魔たちの死骸があたり一面に広がり、そして跡形もなく消滅する。
青依が転移の指輪に付け替える。
「ちょっと待って。まだ青依さんに聞きたいことあるから、最後の場所まで歩いていかない?」
優汰の提案によって徒歩で最後のポイントに向かう。
「逆凪家ってどんな家なの?」
優汰の質問に答える。
「逆凪家は結界術をメインに研究してて、構築の魔術も教えられてた。指輪の魔術は家の魔術じゃなくて私の独学だから、慣れてない魔術を素早く発動するために装飾魔術に頼ってる。」
装飾魔術は、術式を埋めこんだ装飾物を身に着けることで、一小節の詠唱で魔術を行使できる魔術形体だ。
その都度術式を組み立てる必要のある普通魔術や黒魔術に比べて、初心者向けと言える。
「逆凪家が第五魔法に至ったのはお父さんの代で、お父さんは『権能接続者』って言う生まれつき魔法が使える人だったの。」
「え!?なにそれ!」
権能接続者のあまりのチートさに優汰は驚きを隠せない。
三千年、魔術を研究し続ける家系でも『魔法』に至れないのに、生まれつき魔法が使えるなんて、下手すれば世界中の魔術師を敵に回す。
解剖、ホルマリン漬け、標本化、幽閉、魔術の家系の庇護が無ければそれぐらいのことをされてもおかしくない。
そうゆう存在がいることすら知らなかったのは、それだけ希少だからだろうか?
まあそんな存在がポンポン生まれたら「魔術師いらないじゃん」ってなりかねない。
「お父さんは、自分が生まれつき使ってる死者蘇生の原理を解明して、それを私に受け継がせた。」
「解明?」
優汰は青依の言葉に引っかかる。
「権能接続者は生まれつき魔法が使えるけど、別にその術式を理解してるわけじゃない。ファンタジーでよくある本人にもよくわからない不思議な力とあまり変わらない・・・まあ、術式を解明できるのは、お父さんが『天才』と持てはやされるだけのことはあるってことね。」
「逆凪家ってすごいんだね。あんまり聞いたことなかったけど。」
「まあとっくに魔術の家系としては終わってるからね。私がこんなんだし。」
自虐的な笑みを浮かべて青依はそう言った。『こんなんだし』とはどうゆう意味だろう?などと優汰が考えながら歩いていると、
「優汰、着いたよ。」
と青依が目的地到着を知らせる。
「うん・・・なんか急に呼び捨てになったね?」
「今朝は初対面だったけど、今は協力関係なんだし、あまんまり距離感あると息詰まるから。優汰も呼び捨てでいいよ?」
確かにそれもそうかと考え、優汰は笑顔で
「じゃ、青依!」
と呼んだが、青依は
「何?」
と返す。
「いや、呼んだだけ。」
その優汰の答えに青依が引いたような目で答える。
「何もないのに呼ばないで。」
「いや距離感ーー!!!息が詰まるんじゃなっかったの!!!?」
優汰は思わず突っ込んでしまった。
「何もないのに呼んで微笑みが返ってくるとでも思ったの?恋人じゃないんだから。」
引いた目で青依が続ける。確かに何もないのに呼ばれて微笑みあうのはそれは恋人のそれだ。優汰は冷静になり周りを見渡すと、
「結構、僕の家から近いね。」
「終わったらここで解散できるでしょ?だからここが最後なの。さっさと始めるよ。」
青依が結界を張り、優汰は眼鏡を外した。その瞬間、
「きゃあああああああああああああ!」
と聞き覚えのある声で、悲鳴が上がる。
二人が急いで向かうと、そこにはピンクのインナーカラーをした風花と、民家の二階と高さが変わらないほど巨大な獣魔がいた。
人払いの結界よ
青依が詠唱し、構築魔術で作った鎌を手にに獣魔に立ち向かう。優汰は風花に駆け寄る。
「大丈夫!?」
風花の太ももには大きいガラス片が突き刺さっていた。
「優、汰?どうして、ここ、に?」
「いいから、これ抜くよ!・・・痛っ!」
ガラス片を抜こうとそれを掴んだ手を切ってしまった。だが、優汰より風花の出血のほうがひどい。
「気にしないで、これぐらい慣れてる。・・・行くよ。3、2!」
「あっっっ、!」
1を待たずに優汰はガラス片を抜いた。
「ごめん、力んだほうが痛いと思って。背負うよ?」
「うん・・・」
風花を背負い、優汰は曲がり角を曲がる。そして、Tシャツの丈を破り、風花の足を縛り、止血を試みる。完全に止血できてはいないが、応急処置としてはこれが限界だ。
「ここで待ってて。」
「どこに行くの!?どうする気!?」
優汰の言葉に心配そうな声で返す。その声に笑顔を一瞬向け、大型獣魔の下に戻る。
そして青依に、獣魔に、そして何より自分に言い聞かせるように優汰は戦う理由を言い放つ。
「なんでオレが戦うのか解ったよ、青依・・・オレがやらなきゃ、大事な誰かが傷つくんだ!青依がオレを助けてくれた時、たまたま風花と別れた後だったからオレだけが死んだんだ。・・・あの時、風花も死ぬ可能性があったんだ。獣魔に大切な人達が傷つけられるのはもう見たくない!だから、殺るんだ!」
「そう・・・で、どうするの?」
獣魔と戦ってた青依が優汰のもとに来る。青依は傷一つ負っていない。無傷で戦ったのか、それとも戦闘しながら治癒魔術で怪我を治したのか、優汰は一瞬だけ考えたが、今はどうでもいいことだ。
考えるのをやめ、獣魔を見る。
大きな口に小さな牙、噛むより丸呑みすることのほうが得意そうなその獣魔は、まるで洞窟のようだった。
獣魔の足元には風花の脚ほどの大きさの爪が細い指から生えている。
「青依!一瞬こっちに注意を寄せる!その隙にあの爪を切断して持ってきてくれ!」
「わかった。」
その返事を聞いて、優太は自分の両目に魔力を込める。
挑発の魔眼よ!
優太と目を合わせた獣魔は標的を優汰に変え、興奮したように襲い掛かる。
その隙に青依が、構築魔術で作った大鎌で大型獣魔の指を切断し、切断した指ごとその爪を優汰のもとに投げ飛ばす。
「ありがとう!」
受け取った獣魔の爪を地面に置き、さっき手を切って血まみれになった指で空中に線を描く。指の軌跡に血が留まり魔法陣が出来上がる。その魔法陣に獣魔の爪を置き詠唱する。
対 魂術式、三連呪撃!!!
「ぎいやあああぁぁぁぁぁぁ!」
獣魔が断末魔と共に消滅する。
呪撃の魔術。黒魔術特有の魔術で、相手の体の一部を触媒に相手の魂に直接的なダメージを与える魔術だ。霊体は魂としても扱うため、獣魔もこの魔術の効果を受けてしまう。
眠れ
戦闘終了し、青依が風花を眠らせる。
しばらく二人で話し合った後、優汰は眠った風花を背負い、青依と一緒に家に帰るのだった。
「帰ったら風花をどこに寝かせよう。僕のベットでいいかな?僕はソファーで寝ればいいし。」
姫里 風花は夢を見ている。家出して、でかくてキモイ化け物に襲われ、幼馴染と知らない女に助けられるフィクションのような夢だ。少なくとも風花は夢だと思ってる。