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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第91話 剛と柔

  戦闘音が響く広間を避けながら、人気のない区画を覗き込む。


 天井は高く、暗闇の奥に溶けていた。

 崩れた柱が無残に転がり、床には巨大な亀裂が幾筋も走っている。


 その広間の奥で、灰色の巨体が横一列に並んでいた。


「……十体か。多いな」


 ライルがつぶやく。


「ボスに挑むなら、この程度は突破できないと」


 そう言いながら、僕は仲間たちに『エンハンス』の魔法をかける。


「それもそうだな。行くぞ」


 ライルが先頭を切って広間へ踏み込んだ瞬間、ゴーレムたちが一斉に起動した。

 重い足音を鳴らしながら、横隊を崩さず迫ってくる。その様子は、まるで石の壁そのものだった。


「任せて」


 エレナが右手を掲げる。


「――アイスウォール」


 広間へ氷壁が突き上がった。

 さらに一枚、二枚と連続して立ち上がり、広間を分断していく。


 進路を遮られたゴーレムたちは隊列を乱し、それぞれ別方向へ散った。


 氷の壁を迂回して現れたゴーレムに向かって、カイが駆け出す。


 石の拳と大盾が激突した瞬間、鈍い衝撃が広間を揺らした。

 足元の石畳が砕け散る。


 それでもカイは一歩も引かず、逆に押し返す。


 生まれた間合いへ踏み込み、大盾を叩きつけた。

 重い一撃で石の胸部が陥没し、亀裂が蜘蛛の巣のように広がる。


 一方、ライルはカイとは逆側へ駆け抜けていた。


「よっと!」


 振るわれた剛剣が鋭く閃く。

 狙いは膝関節だった。


 石の継ぎ目へ刃が食い込み、脚部を鮮やかに切断する。

 支えを失った巨体が傾き、そのまま轟音と共に崩れ落ちた。


 ライルは止まらない。返す刃で二体目の足首を薙ぎ払う。


 転倒した巨体が後続を巻き込み、進行が一瞬止まった。


「ライル、賢い!」


 リサが笑いながら投斧を放つ。


 高速で回転した刃が、倒れたゴーレムの頭部へ深々と突き刺さった。

 岩塊が砕け散る。


 だが、その直後。


 氷壁の向こうから、重い衝撃音が響く。


 ドゴン!!


 分厚い氷壁が大きく震えた。


「っ……!」


 エレナの表情が険しくなる。


 さらに二発、三発。轟音が連続し、砕けた氷片が宙を舞った。


「ちっ、突破された!」


 ライルが舌打ちしながら振り返る。


 氷壁を破壊した六体が、一斉にこちらへ雪崩れ込んできた。


「下がれ!」


 カイが前へ出る。


 一体目の拳を盾で逸らし、続けざまに放たれた別の一撃も受け流す。

 二体を相手取りながら、反撃の隙を探っていた。


 だが、その間に残る四体がライルへ殺到する。


 正面から振り下ろされた拳を紙一重で避けた直後、さらに二体が背後と側面へ回り込んだ。


 挟み込むように石の拳が迫る。


「っ、やべ!」


 逃げ場がない。


 その瞬間。


「――アイスウォール!」


 ライルの背後に氷壁が出現する。


 振り下ろされた拳が激突し、氷壁が大きく軋んだ。


「助かった!」


 ライルは横から飛んできた拳を転がって回避する。

 しかし、体勢を立て直す前に、今度は別方向から拳が迫っていた。


「ノア……任せた!」


 叫ぶと同時に、ライルが正面のゴーレムへ大上段から剣を振り下ろす。


「――はぁぁぁぁぁっ!!」


 渾身の一閃。


 胴体が、斜めに断ち割られ、内部から砕けるように崩壊した。


 巨体は轟音を響かせながら地面へ沈む。


 同時に、横合いから放たれた拳がライルを捉えた。


 吹き飛ばされた身体が床を跳ね、勢いのまま壁へ叩きつけられる。


「ヒール」


 僕は即座に回復魔法を飛ばし、そのままライルとゴーレムの間へ滑り込んだ。


 巨腕が唸りを上げながら振り下ろされた。


 ――遅い。


 半歩。


 わずかに身体を開き、石の拳を紙一重で外す。風圧が頬を掠めた。


 さらに踏み込んできた二体目の懐へ潜り込み、杖の石突きを肘関節へ軽く添える。


 押したわけじゃない。


 ほんの少し、軸をずらしただけ。


 だが巨体は自ら均衡を崩し、隣のゴーレムへ倒れ込む。


 巻き込まれた一体がよろめいた瞬間、僕はその間をすり抜けた。


 背後から拳が迫る。


 振り返りもしない。


 足運びだけで軌道を外し、空を切った拳を別のゴーレムへ誘導する。


 轟音。


 石の拳同士が激突し、砕けた破片が飛び散った。


「なっ……」


 起き上がりかけていたライルが目を見開く。


 僕は振り返らず、前へ出る。


 一体が両腕を振り上げながら突進してきた。

 その重心が前へ傾く瞬間を見極め、杖で肩口を軽く押さえる。


 たったそれだけで巨体の軸が流れた。


 制御を失ったゴーレムは止まりきれず、正面の仲間へ激突する。

 二体まとめて倒れ込んだ。


 床が揺れる。


 そこへ別方向から石拳が迫った。

 僕は円を描くように半身を捌き、杖で手首を払う。


 受け流された拳が軌道を変え、横にいたゴーレムの頭部へ直撃した。


 鈍い破砕音。


 頭部が砕け、巨体が崩れ落ちる。

 残ったゴーレムたちが一瞬動きを止めた。


 続けざまに飛来した投斧が、体勢を崩したゴーレムたちの頭部へ次々と突き刺さる。


 石肌に亀裂が走り、鈍い破砕音と共に頭部が砕け散った。


「ふふん、いい的だったよ!」


 リサは次の投斧を指先でくるりと回しながら笑う。


 静まり返った広間に、砕けた石片が転がる音だけが残った。


 ライルが剣を肩に担ぎながら、崩れたゴーレムを見下ろす。


「いやぁ……ゴーレム相手でもそれやれるの、やっぱおかしいだろ」


「重い相手のほうが崩しやすいですよ」


「意味わかんねぇよ」


 ライルは呆れ半分に笑った。

 だが、その視線は転がるゴーレムの残骸を冷静に見回している。


「……でもまぁ、この数でも戦えるな。ギリギリだけど」


 床に転がる石片を蹴飛ばし、広間の奥へ視線を向ける。


「課題は攻撃力か。囲まれる前にどれだけ速く仕留められるか」


 ライルは剣を肩へ担ぎ直した。


「ボスに挑むならそこを詰めるしかねぇな」


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