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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第78話 仕込み

 朝食を済ませ、僕たちは宿を出た。

 吐いた息は白く、早朝の冷えた空気にゆっくりと溶けていく。

 夜の冷気を溜め込んだ石畳に、乾いた足音が響く。

 人影もまばらな広場を抜け、僕たちは天逆塔へと向った。


「うー、寒い」


 ライルがマントをかき合わせる。


「そういえば、もうすぐ新年ね。寒いわけよ」


 エレナは指先に息を吹きかける。赤くなった指先がかすかに震えていた。


「ダンジョンに来てよかったな。中は寒さなんか関係ないし」


 ライルが前を歩きながら振り返る。その声はどこか弾んでいた。


 やがて、巨大な天使像に挟まれた天逆塔の大扉が姿を現す。

 開け放たれたままの扉をくぐった瞬間、外とは異なる、ひんやりとした静寂が全身を包み込んだ。


 広間は高い天井に支えられ、わずかな足音さえも反響する。

 中央では淡く光を放つ幾何学模様が、鼓動のように脈打っていた。


「じゃあ、まずは十層に行くぞ」

 

 ライルが迷いなく陣へと足を踏み入れ、そのまま光に包まれて姿を消す。


 続いて僕らも陣に足を踏み入れる。

 足元から立ち上る光が視界を満たし、世界が白に塗りつぶされた。


 一〇層の広間を抜け階段を降りてゆく。やがて十一層の踊り場が見えてきた。

 だが、十一層が近づくにつれ異様な光景が広がっていた。


 階段の隅という隅に、野営する冒険者たち。

 広いとはいえ階段の片隅でマントにくるまって横になる者、無言で携帯食料をかじる者――まるで簡易の宿場のようだった。


 そして、彼らの装備には共通点があった。

 どこかしらに、鎖が巻きついた剣のエンブレムが刻まれている。


「あれが連環の剣の連中か。……なんでこんなところで野営してるんだ?」


 ライルが声を潜めて言う。


「十層を突破していないからでしょう。転移を使えなければ、往復だけで一日仕事ですから」


 僕は周囲を見渡しながら答えた。


「だったら、先に十層に挑めばいいのに」


 リサが不思議そうに首を傾げる。


「十層以下じゃ旨味がないのかも知れません。十一層からは魔道具も出ますしね」


 僕の言葉に、エレナが小さく鼻を鳴らした。


「どっちにしても数にものを言わせて、二十層の挑戦権を独占するつもりってわけね」


 その視線は、野営する一団を鋭く射抜いていた。


「まずは一当てしてみようぜ」


 ライルは気負った様子もなく、十一層に踏み入った。

 カイも黙って後に続く。


 僕は魔力走査を維持したまま、慎重に通路を進んだ。


「……次の角、右から一匹きます」


 僕の警告に、カイが即座に前へ出て、盾を構える。


 ゴブリンとは比べ物にならない巨体がのっそりと角から姿を現した。

 同時に、カイが床を蹴る。


 鋼の突起を備えた大盾が、鈍い音を立ててオークに叩き込まれる。

 よろめいた巨体へ、間髪入れずライルが踏み込み、バスタードソードを振り抜いた。


 一閃。


 刃は深々と食い込み、オークはそのまま崩れ落ちる。


「一匹ななら余裕だな」


 ライルが動かなくなったオークを見下ろして言った。


「魔石と……お肉はどうする?」


 リサが駆け寄り、手際よく解体の準備を始める。


「魔石だけにしましょう。肉ならいくらでも買えますから」


「わかった」


 リサはうなずいて、素早く魔石を取り出し、背負子に収める。

 それから名残惜しそうな視線を残しつつ、立ち上がった。


「どうする?もっと階層上げるか?」


 ライルが周囲を見渡しながら言った。


「せっかくですから、魔道具を探してみましょう」


 僕は魔力走査の範囲を広げた。

 魔力に触れたものの輪郭が、頭の中に描き出されていく。


 三匹のオークが詰めた小部屋。


 その奥に箱らしき物が置いてある。


「それらしいものがありました。こっちです」 


 通路の先、行き止まりに小部屋がぽっかりと口を開けていた。


「ここです」


 小部屋の前で立ち止まる。


「まずは私が」


 エレナの魔力が、静かに部屋に流れ込む。

 気配に気づいたオークたちが、一斉にこちらを振り返った。


「——アイスバインド」


 魔力が凍てつく冷気へと変わり床を走る。

 足元から一気に凍りつき、オークたちの動きを奪った。


 オーク達が足元に気を取られた隙に、二体のオークの頭に投斧が深々と突き立った。


 残りの一体は、ライルの鋭い突きに胸を貫かれた。


「やっぱり、先手取れるだけで違うな」


 剣を鞘に収めながらライルがつぶやく。


「それより宝箱だよ!開けていい?」


 リサはすでに部屋の奥へ駆け、置かれた箱に手をかけていた。


「待ってください」


 思わず声をかけると、リサはむっとした顔で手を止めた。


「なに?罠とか?」


「可能性はあります。確認しますね」


 僕は箱に視線を向け、魔力走査で探る。

 仕掛けはなさそうだ。


「大丈夫です。罠はないでしょう」


「ほんと?じゃあ開けるよ!」


 リサは勢いよく蓋を持ち上げた。


「じゃーん!……って、なにこれ?」


 中に収まっていたのは、小さな魔導具だった。


『鑑定』


【名 称】 着火器

【等 級】 一般

【効 能】小さな火が出る。


「着火の魔道具ですね。貸してください」


 手渡された魔道具に魔力を流すと、先端に小さな火が灯った。


「おお!便利だね」


「着火の魔道具か。あんまり夢がねぇな」


 ライルが、石壁にもたれながらこぼす。


 ——なるほど。夢がない、か。


 ならば夢を見させてやればいい。

 僕は即座に考えを組み立てる。


「リサ、オークの魔石を一つください」


「いいけど。どうしたの急に?」


 リサは首をかしげつつ、背負子から魔石を取り出した。


「ライルのお陰で、連環の剣に一泡吹かせられるかもしれません」


 僕はそれを受け取り、指先に魔力を集中させた。

 そのまま、魔石に『ヒール』を付与する。


 淡い光が、魔石の内側からゆっくりと滲み出す。

 まるで小さな灯火を閉じ込めたように、脈打ちながら明滅した。


「それは?」


 エレナの視線が魔石に吸い寄せられて止まった。


「これに魔力を流せば一度だけ『ヒール』が発動します」


「ちょっと、それ……貴重品じゃない。上位冒険者だって欲しがるわよ」


 声を潜めるエレナ。

 この階層の空気とは別の緊張が、その場に張り詰める。


「ええ。低層の宝箱からこんなのが出れば、上位連中が押し寄せますよね」


 僕は着火の魔道具が入っていた宝箱に歩み寄る。

 そこに淡く光る魔石を中に収め、蓋を閉じた。


「上位冒険者がオークを狩り尽くせば、初心者集団の連環の剣に勝ち目はありません」


 ライルが目を丸くしたあと、すぐに口角を吊り上げる。


「すげぇ!さすがノア」


 まだ戦闘の熱が残った顔に、別の興奮が混ざっていく。


「でも、私たちの魔石が増えるわけじゃないのよ?そこはどうするの?」


 エレナは腕を組んだまま、視線だけこちらに寄越す。


「上位クランに売りつけます。オークの魔石と引き換えに」


 一瞬の沈黙。

 遠くで、別のパーティが戦っているのか、鈍い衝撃音がかすかに響いた。


「はぁ、呆れた。それじゃ寝てても魔石が転がり込むじゃない」


 エレナが小さく息を吐く。

 けれど、その口元はわずかに緩んでいた。


「ええ。でも位階を上げるためにも、狩りは続けますよ」


 僕が言い終えるより早く、ライルが石壁を蹴って立ち上がった。

 

「よし、じゃあ他の階層にも仕込みに行こうぜ」


 その勢いのまま、暗闇へと駆け出していく背中には、さっきまでの「夢がない」という言葉はもう残っていなかった。


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