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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第70話 背負子

 軒先に色とりどりの服が吊るされた店を見つけるやいなや、エレナとリサがほとんど同時に駆け込んだ。


 店の中からはすぐに、弾んだ声が聞こえてきた。


「これとかどう?あ、こっちもいいわね」


 エレナが次々と服を手に取り、リサの体に当てては角度を変えて眺めている。

 その手つきには迷いがなく、服を選ぶこと自体を楽しんでいるのがありありと伝わってくる。


「言っとくけど、冒険の時に着る服だからな」


 入口のところからライルが釘を刺す。


 だが――


「これ動きやすそう!」「でもこっちも可愛い!」


 返事はない。

 というより、聞こえていない。


「……ダメだこりゃ」


 ライルは肩をすくめ、あっさりと諦めた。


 最初こそ口を出していたものの、今ではカイと並んで店の外のベンチに腰掛けている空を見上げている。


 傾き始めた日差しが、じわりと石畳を橙色に染めていく。

 さっきまでの喧騒も、少しずつ落ち着き始めていた。


「長くなりそうだな」


 ライルがぼやく。


「……ああ」


 カイは短く返す。


 ――しばらくして。


「決まったわよ」


 店の奥から自信に満ちた声が響いた。


 布をかき分けるようにしてリサが飛び出してくる。


 ピカピカのショートブーツ。

 動きやすそうで、どこか愛嬌のあるダボッとしたシルエットのオーバーオール。

 擦り切れたチュニックとは比べものにならない、しっかりとした作りだ。


 赤い髪もひとつにまとめられ、さっきよりもずっとすっきりして見える。


 リサはその場でくるりと一回転した。

 まとめた赤い髪が円を描いて元の位置へ収まる。


「どう、可愛いでしょ?」


 少しだけ胸を張って、こちらを見上げてくる。


「似合ってますよ。流石エレナの見立てです」


 そう言うと、リサの顔がぱっと明るくなり、

 同時にエレナも満足げに腕を組んだ。


「でしょ?」


 誇らしげだ。


 ――まあ、悪くない。


 リサを褒めつつ、さりげなくエレナを立てる。

 それだけで場の空気は丸く収まる。


 この程度の気遣いで関係が円滑に回るなら、魔石の運搬効率の向上を考えれば安いものだ。


「だいぶ時間食ったから、急いで次行くぞ」


 ライルが露骨にうんざりした顔で言った。

 さっきまでベンチに沈んでいたせいか、余計に気怠そうだ。


「待たせたわね。でもいい買い物だったでしょ?」


 エレナがどこか満足げに返す。


「まあな。……長かったけど」


 ぼやきつつも否定はしないあたり、機嫌は悪くないらしい。


 僕たちは再び広場へと足を踏み出す。

 傾きかけた日差しの中、屋台の影が長く伸びていた。


 服屋が並ぶ一角を抜けると、今度は実用品を扱う店が目に入ってくる。

 革袋、ロープ、携行食、簡易工具――冒険者向けの雑貨が、狭い店先にこれでもかと詰め込まれていた。


 雑然としているが、その分だけ使えるものが揃っていそうな空気がある。


「お、ここなんてどうだ。ポーター向けの装備、ありそうだろ」


 ライルが顎で店先を示す。


 確かに、見える範囲だけでも運搬用の背嚢や、荷崩れ防止のベルトが並んでいる。


「いいですね。ここにしましょう」


 店内に足を踏み入れると、乾いた革の独特の香りが鼻をくすぐった。

 天井から吊るされたランタンが、積み上げられた木箱や棚の影を揺らしている。


「いらっしゃい。……何を探してるんだい」


 奥から顔を出した店主が、値踏みするような目でこちらを見る。


「ポーター向けの装備だ。一度にできるだけ多く運べるやつがいい」


 ライルの言葉に、店主は鼻を鳴らし、店の隅の大棚を顎で示した。


「そこの背嚢だな。丈夫で容量もある。……普通の人間なら、二つ背負えば十分すぎる」


 言外に「それ以上は無理だ」と滲ませている。


 だが――


 リサは並んだ背嚢をひと通り眺めたあと、小さく首を傾げた。


「もう少し……いっぱい持てるのはないかな?」


 その視線が店内をさまよい、やがて一点で止まる。


 鉄製のフレームで組まれた、無骨な背負子だった。


「あ、これならいっぱい載りそう」


「お嬢ちゃん、そいつはやめとけ」


 店主が即座に口を挟む。


「荷馬車が入れねえ場所で、屈強な連中が担ぐもんだ。見た目ほど甘くねえぞ」


 だがリサはすでに手をかけていた。


 ――ひょい。


 気負いもなく、片手で持ち上げる。


 鉄の軋む音が、やけに軽く響いた。


「ちょっと背負ってみてもいい?」


「あ、ああ……構わんが……」


 店主の戸惑いをよそに、リサは背負子を背に回し、慣れた手つきでベルトを締めていく。


「おお、いい感じ。カイくん、その木箱のっけてみて」


 言われたカイが、足元の木箱を持ち上げる。

 中身が詰まっているのか、持ち上げるだけでもわずかに力がこもる。


 それを、リサの背に載せる。


 さらにもう一つ。


 ……もう一つ。


 積み上がっていく木箱に対して、リサの体はぴたりと止まったままだった。


 重さに揺れる気配すらない。


「……おいおい」


 店主が思わず声を漏らす。


「あんた、その細い腕で大したもんだ」


 呆れと感心が入り混じった視線が、リサへと注がれていた。


 ……悪くない。


 いや、想定以上だ。


 あれだけの重量を難なく扱えるなら、運搬効率は単純計算でも倍以上になる。

 往復回数が減る分、探索の密度も上げられる。


 ――十分すぎる戦力だ。


 僕は木箱の積まれた背負子を眺めながら、結論を出した。


「それ、ください。背負子と――空の木箱もいくつか。それとロープも」


 店主が目を丸くする。


「まとめてか?」


「ええ。すぐ使うので」


 一拍置いて、店主はにやりと口の端を吊り上げた。


「……いいだろう。背負子に木箱三つ、上質な麻ロープをつけて――金貨一枚だ」


 妥当な線だ。


 僕は迷わず金貨を一枚取り出し、カウンターに置いた。

 硬貨の乾いた音が、静かな店内に響く。


「毎度あり」


 店主は満足げにそれを懐へしまう。


 リサは背に荷を載せたまま、きょとんとこちらを見ていた。


「いいの?」


「もちろんです。明日からそれで活躍してください」


 そう言うと、リサは少しだけ驚いた顔をしたあと、すぐに笑った。


「うん、任せて!」


 軽い返事とは裏腹に、その背にはすでに十分すぎる荷が乗っている。


「よし、あとは武器だな」


 ライルが当然のように言った。


「え?ポーターだから武器はべつにいいよ?」


 背負子を背負ったまま、リサが首を傾げる。


「ダンジョンで、丸腰って訳にはいかないだろ。行くぞ」


 ライルは取り合わず、さっさと歩き出した。


 ポーターとはいえ最低限の自衛手段は必要だ。


「軽く振れるものでいいです。扱いやすさ優先で選びましょう」


 僕がそう言うと、リサは少しだけ考えてから頷いた。


「わかった!」


 リサは素直にうなずき、背負子を揺らしながらライルの後を追った。


「あそこなんてどうだ、この広場で一番立派だぞ」


 ライルが指差す。


 白亜の壁に、鎖が絡みついた剣のエンブレム。

 入口には同じ意匠の鎧をまとった門兵が立ち、出入りしている客も余裕のある身なりばかりだ。


 いかにも格の違う店。


 ライルが足を向けかけたところで、僕はその肩を掴んだ。


「あの店はやめておきましょう」


「えっ、なんでだよ?見るからに最高級の品が揃ってそうじゃないか」


 僕は店先に視線を向ける。

 出入りする客全員が、どこかに鎖が絡みついた剣のエンブレムを付けている。


「おそらく大手クランの系列店ですね」


「だから何だよ」


「客を選びます」


 ちょうどその時だった。


 入口で、ひとりの若い冒険者が店員に何かを訴えている。

 エンブレムはない。


 店員は一瞬だけ笑みを浮かべ――すぐに、あからさまに見下した表情に変わった。


 軽く手を振る仕草。

 それだけで、会話は終わりだった。


 追い払われた冒険者が、悔しそうに唇を噛みながら踵を返す。


「……ああいうことです」


 僕が言うと、ライルはそれを見て舌打ちした。


「感じ悪ぃな」


「時間の無駄です。別を当たりましょう」


 わざわざ門前払いされに行く必要はない。

 僕はそのまま視線を切り、別の店を探し始めた。


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