第4話 生命魔法の深淵
三歳になった。
訓練はずっと続けているので、ステータスはなかなかに育っている。
【名 前】ノア
【位 階】Ⅰ
【魔 力】B
【スキル】鑑定 生命魔法 魔力制御
【魔 法】ヒール キュア エンハンス
魔力は順調に増え、さらに『魔力制御』という新しいスキルも習得した。
それから、これまで感覚的に使っていた魔法にも名前がついた。
ヒールは怪我を癒やす魔法。
キュアは病を取り除く魔法。
エンハンスは身体を活性化させ、能力を引き上げる強化魔法だ。
名前が定義されたことで、いちいち細かく魔力を操作する必要がなくなった。
魔法の発動は、以前よりずっと楽になっている。
最近は一人で家の外に出られるようになったので、生命魔法の研究をはじめた。
草むらでバッタを捕まえる。
足を一本、もぐ。
すぐに『ヒール』をかけると、失ったはずの足が、あっさりと再生した。
もう一度、もぐ。
また『ヒール』。
やはり、新しい足が生えてくる。
何度試しても、結果は同じだった。
——なるほど。
特に再生回数に制限はなさそうだ。
今度は、頭を取ってみる。
頭を失っても、胴体はしばらく脚をばたつかせていた。
そこに『ヒール』を使う。
すると――
頭が生えてきた。
「おお……」
思わず声が漏れる。
「凄いな」
次は頭を取ったあと、体が動かなくなるまで待ってみる。
脚の痙攣が止まり、完全に静かになったのを確認してから、『ヒール』をかける。
頭は生えてきた。
「……」
だが、さっきのように動き出すことはなかった。
「完全に死んでたら、ダメそうだね」
どうやら『ヒール』は、死んだものを蘇らせる力はないらしい。
じゃあ、死とはなんだ?心臓が止まったら?それとも脳死?
そのまま検証を続けようとした時——
「ノア!遊ぼう!」
背後から元気な声が飛んできた。
振り返ると、リサが立っていた。
リサは隣に住む、同い年の女の子だ。
赤髪を揺らしてにっこり笑っている。
【名 前】リサ
【位 階】Ⅰ
【魔 力】D
【スキル】怪力 身体強化
リサには、赤ん坊のころから実験で『エンハンス』をかけ続けている。
最初は単なる興味本位だった。
他人の体に魔法をかけたら、どうなるのか。
副作用はあるのか。
適性は変わるのか。
リサが泣いている時、僕が頭を撫でる。
その時、そっと魔力を流す。
それだけだ。
誰も気づかない。
リサ本人も、リサの両親も。
その結果、『怪力』『身体強化』のスキルが芽生えた。
どうやら、身体能力を高める方向の適性があったようだ
ちなみに、自分にも『エンハンス』は使い続けている。
だが、同じようなスキルはまだ生えていない。やはり、向き不向きというものはあるのだろう。
「何してたの?」
リサが草むらをのぞき込む。
「研究」
「けんきゅー?」
よく分かっていない顔だ。
まあ、三歳児に説明しても仕方ない。
「魔法の練習みたいなもの」
「ふーん」
リサはそう言うと、足元の石を拾い上げた。
そして――
軽く放り投げた。
石はきれいな放物線を描き、ずっと先の木に当たって跳ね返る。
——三歳児の投げる距離じゃない。
「ノアもやろう!」
リサがにこにこと笑う。
研究も大事だが、被験者との関係維持も重要だ。
「わかった」
ひとまず、遊ぶことにした。
「あの木にとまってる鳥が見える?」
枝先を指さす。白い鳥が一羽、のんびり羽を休めていた。
「うん!とりさん白いね!」
リサは目を細めて空を見上げる。
「あれに石を当てられる?」
「え、とりさんに当てるの?」
少しだけ眉を寄せて、リサがこちらを見る。
「あの鳥、すごく美味しんだよ」
「え?おいしいの!じゃあやってみる!」
リサは素直にうなずき、石を握り直した。
「えい!」
振り抜いた腕から、石が弾丸のように飛ぶ。
次の瞬間、木の上の鳥に命中した。
「やった!当たった!」
リサがぴょんと跳ねて喜ぶ。
「凄いぞ、あっちのも当てられるか?」
少し離れた枝に、もう一羽とまっている。
「うん!やってみる!」
再び石が飛び、今度も正確に鳥を打ち落とした。
リサが期待するようにこちらを見上げる。
「よくできたね」
頭をなでてやると、リサはにぱっと笑った。
落とした鳥を拾いに行く。
羽を傷めて飛べなくなっているが、まだ生きている。
ちょうどいい。
僕は鳥を抱えて魔力で探りながら、その首を捻った。
鳥が暴れるのをやめる。
その少し後に、何かがすっと抜けていく感触がした。
――今のが命か?
このまま、少し確かめてみるか。
リサを振り返る。
「これはリサの分だよ。お母さんに料理してもらいな」
そう言って、手の中の鳥を渡す。
「ありがとう!」
リサはそのまま、家へと駆けて行った。
僕は、もう一羽の鳥を拾いに行く。
こちらもまだ生きている。
先ほど抜けていったものを、魔力で探る。
——あった。
それをそっと魔力で包みながら、鳥の首を捻る。
鳥がぐったりと動かなくなる。
命らしきものは、魔力で捕まえたままだ。
――もしこれが本当に命なら。
そのまま、折れた首を治しながら命を馴染ませるように魔力を流す。
手の中の鳥が、突然暴れだす。
「ははっ」
成功だ。
さらにもう一度、命を魔力で捕まえて、すっと引き抜く。
鳥は、再び動きを止めた。
実験は成功だ。
——ステータスはどうなった?
【名 前】ノア
【位 階】Ⅰ
【魔 力】B
【スキル】鑑定 生命魔法 魔力制御
【魔 法】ヒール キュア エンハンス ライフスティール リザレクション
魔法が、増えている。
生命魔法でできるのは、回復だけじゃないらしい。
僕は鳥を抱えて、家に歩き出した。
農村では貴重なタンパク質だ。
しっかり食べて、この身体の成長に役立てよう。




