表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/29

第25話 光を纏う闇

 ――聖職者省 救済局 


「主事クリス。例の件、癒やし手の手配はどうなっている」


 事務局長が、クリスに尋ねた。


「落馬した、ベネッリ伯爵の次男の治療ですね。それでしたらエリオスを派遣済みです」


 クリスが台帳をめくる。


「足の骨折とのことですが、エリオスなら問題ないでしょう」


 淡々と答えながらも、内心では笑いをこらえきれなかった。

 まさか、救済局に配属される日が来るとは。


 救済局は、癒やし手の差配を一手に引き受ける部署だ。

 有力者向けに、いつ、誰を派遣するか決定できる権限。


 まさに、私にふさわしい舞台だ。


 ――これもすべて、ノアを見つけられたおかげだ。


 修行中は誰も手を出せない。

 だが油断は禁物だ。他の者に取り込まれないように、細心の注意を払わねば。


「最近は、若手の成長が著しいな。これで一層、神の慈悲を広く知らしめられる」


 管理官は、満足そうにうなずいた。


「これも、主の導きの賜物でしょう」


 クリスは静かに応じる。


「確かにそれもあろう。だが、ノアといったか。君の見出した子供の影響も大きいと聞く」


 事務局長はクリスの方へ視線を向ける。


「今も、位階上昇の修行に熱心に打ち込んでいるそうだ。そればかりか、先日は瀕死の聖騎士を助けたとか。――よくぞ見つけ出したな」


「すべては主の御加護のおかげです」


 そう言って、クリスはほくそ笑む。


 ――ノアには、これからも教会のために働いてもらわねばな。


 ◇


 僕は十歳になった。


 あれからずっと、四層のリッチと、三層のデスナイトを周回していた。

 位階目当てなら、数をこなせるリッチが最適だし、武術の鍛錬ならデスナイトに勝る魔物はいなかった。


 五層のヴァンパイアにも挑んでみたが、倒しにくいだけで旨味はなかった。


【名 前】ノア

【位 階】Ⅳ

【魔 力】S+

【スキル】鑑定 生命魔法 魔力制御 魔法付与 高速思考 見取り 杖術 杖の理

【魔 法】ヒール キュア エンハンス ライフスティール リザレクション カーム ライフプロテクション


 ――位階は一つしか上がらなかった。

 

 しかし、位階Ⅳの者は他に見かけたことがない。今はこれで十分かもしれない。


 いつものように、装備を返し、奉納所で魔石を収めた。

 静かに台帳の記載を終えた神官が、ゆっくりとこちらに向き直った。


「ノア、今日で連続五百日の奉納です――よって、光聖の称号を授けます」


 神官の視線が僕の目をじっと捉える。


「そして、位階上昇の修行は今日で終わりです。あなたの献身は、主も御覧になっていることでしょう――よく頑張りました」


 僕を見つめるその視線には、確かな敬意と、温かさが混じっていた。

 

「聖具室で証を受け取ったら、身を清めて迎えを待ちなさい」


 僕は言われたとおり、聖具室へ向かった。


「ノア、今日で終わりだってな。結局お前、一日も休まなかったな」


 バルドは肩をすくめ、ため息交じりに小さく笑った。

 そして、カウンターに布の包みと黒い木箱を置く。


「こっちの法衣はクリス司祭からだ」


 バルドは布の包みを指す。


「それから、こっちが『光聖』の証だ。開けてみろ」


 そう言って、僕に黒い木箱を押しやる。

 銀の留め金を外し、ふたを開けると、ビロードが張られた箱の中に聖帯ストラが収まっていた。


 黒地に金で茨と光芒の刺繍が施されている。


「それを与えられる事は滅多にない。誇っていいぞ」


 バルドはそう言って、笑った。

 しかし次の瞬間、珍しく表情を引き締め、真剣な声で聖句を口にした。


「主の光は、ただの力ではなく、心に届く者にこそ輝く――お前の道も、きっと照らされるだろう」


 僕は無言で頷く。


 ――この五年間、位階を上げ、敬虔な信徒を演じてきた。


 人望も、称号も手に入れた。

 ここまでは、なかなかうまく立ち回れたのではないだろうか。

 そう思うと、少しだけ自分に笑みがこぼれた。


 受け取った包みと木箱を抱え洗盤へ向かう。


 太い石柱の影、壁沿いに長く掘り込まれた石の水槽があった。

 僕は、荷物を壁の窪みに置くと、薄汚れたローブを脱ぎ捨てる。


 備え付けの麻布を冷水に浸し、固く絞って身体を拭う。

 二年間で肌にこびりついた地下の澱みを、徹底的に削ぎ落とす。


 洗盤の冷水に指を浸し、爪の間に潜む地下の残滓を丹念に掻き出す。

 

 指先の一つに至るまで、峻厳な修験者から清らかな癒やし手へと作り替えていく作業だ。


 最後に頭から水を被って髪を洗い、湿り気を丁寧に拭った。

 長く伸びた金髪を、慣れた手つきで緩く三つ編みに編んでいく。


 立ち襟の法衣(カソック)を纏い、ボタンを喉元まで留める。

 腰のポーチには、二枚のメダルと、秘かに持ち出すリッチの魔石を忍ばせた。

 

 仕上げにシルクでできた純白の長衣(アルバ)を被り、荘厳な聖帯ストラを左肩からたすきに掛ける。


 ――完璧だ。


 一点の曇りもない『理想の癒やし手』へと自分を仕立て上げると、僕は地上へと続く階段を昇って行った。


 地下聖堂を出る。

 僕は二年ぶりの日差しに目を細めた。


 回廊の向こうから神官がやってくる。


 ――クリスだ。

 

「ノア、久しぶりだな。さすが、私が見出しただけのことはある」


 クリスは、僕の肩にかかった聖帯ストラを一瞥しながら、笑みを浮かべる。

 

「お前の働きは大聖堂でも噂になっている。おかげで私も、いろいろとやりやすくなった」


 クリスは、にやりと笑った。


「次はもっと大きな舞台で力を発揮してもらう。ついてきなさい」


 僕は、踵を返したクリスの背を追う。

 贅沢に散りばめられた宝石が、陽光に負けないくらい輝いている。


 ――どうやら、クリスもうまくやっていたようだな。

 

 僕は内心で、そっと息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ