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生命魔法使いに転生したので、聖者の皮を被って気ままに生きようと思います  作者: aramakid
冒険者編

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第109話 コールドスリープ

 転移陣の光が弾け、視界が白く染まる。

 光が引いたとき、ダンジョンはすでに漆黒に近い闇に沈んでいた。


 光源は足元で脈打つ転移陣の残光と、遥か先に浮かぶ出口の光だけ。


「間に合って!」


 ヴェラの悲痛な叫び。


 僕らは出口へ向かって一斉に駆け出す。

 だが、巨大な扉はすでに閉じ始めていた。


 腹の底に響く重低音とともに、石の扉がゆっくりと、しかし容赦なく動いていく。


 出口から差し込む光が一歩ごとに細くなる。


 一本の線となり、


 一本の糸となり、 


 最後にきらりと揺れた。

 それは夜空の星が瞬くような、ほんの一瞬の輝きだった。


 そして。


 光は音もなく消える。


 ゴォン――。


 扉が完全に閉ざされた。


 僕らの目の前には、ただ果てのない闇だけが残っていた。


「……嘘、間に合わなかった」


 暗闇の中で、エレナのかすれた声が響く。


「どうしよう……。満月の夜に閉じ込められて、無事に出てきた人っていないんだよね?」


 リサの声は今にも泣き出しそうだった。


「この階層はまだ、何の変化もありませんね」


 僕が全力で広げた『魔力走査』では、地上階に異変は見られない。

 だが階下からは、膨大な魔力のうねりが伝わってくる。


 まるでダンジョンそのものが作り変えられているかのように。


 その様子を窺っていると、徐々に周囲が明るくなり始めた。


「あれ?ノア?」


 リサの声がいつもより高い位置から聞こえる。


「……背が伸びている?」


 リサの体が、目に見えて成長していた。

 服の余裕がなくなり、顔立ちもわずかに大人びている。


「まさか……」


 嫌な予感が胸をよぎる。


「時間の流れが加速しているのか?」


 ダンジョンは一夜で姿を変える。

 もし内部で時間を極端に加速させているのだとしたら――。


 満月の夜に閉じ込められた者が誰一人戻らなかった理由も説明がつく。

 朝を迎えるまでに、人の寿命を使い切ってしまうのだ。


 だとすると、『不老』のスキルを持つ僕以外、生き残れない。


「え?どういうことだ?」


 ライルが戸惑った声を上げる。


「じゃあ私たち……朝までに歳を取って死んじゃうってこと?」


 リサの声が震える。


「……そんな」


 エレナが力を失ったように膝をついた。


「……」


 カイだけは何も言わず、じっと僕を見つめていた。


「時間がありませんね。……また僕に命を預けてくれますか?」


 僕は皆を見回した。


「何か手があるのか?なら任せるぞ」


 ライルの言葉に三人もうなずいた。


「ちょっと何する気?」


 ヴェラが身構える。


「では、魔法に身を委ねてください。——『ライフスティール』」


 四人の身体から力が抜け、その場に崩れ落ちた。

 僕は同時に『ライフプロテクション』を展開し、四人の命が霧散しないように固定する。


 ヴェラだけは抵抗が激しく、命を奪えなかった。


「ヴェラさん、魔法を受け入れください」


「……ひっ!『ライフスティール』って何よ!まさか……殺したの!?」


 ヴェラが後ずさる。


「ば、化け物!私は……私は帰るのよ!」


 つんのめる様に閉じた扉に向かって駆け出す。

 そのままヴェラの姿は闇に溶けて見えなくなった。

 

 僕は冷めたため息を漏らすと、四人の安らかな顔を見下ろす。


 ――死んでいれば、老いはしない。


 朝になって『リザレクション』で蘇生すればいい。

 理屈の上では、それで時間加速をやり過ごせるはずだ。


 だが。


 通常三日は持つはずの『ライフプロテクション』が、みるみる削られていく。


「……っ」


 想定より早い。

 時間そのものが、ここでは命の維持コストを釣り上げている。


 ――朝まで、持たせる。


 今はそれ以外にない。

 

 僕はすぐさま全員に魔法を掛け直した。


 ヴェラが扉をたたく音が徐々に弱くなっていく。


 時間が、崩れていく。


 やがて、何も聞こえなくなった。


 それがどれだけ続いていたのか、もはや感覚はなかった。

 ただ、ひたすら魔法を重ね続けた。


 やがて。


 闇の奥にわずかな揺らぎが生まれる。


 それは光というにはあまりに弱く、しかし確かな変化だった。


 空気が、戻る。

 時間が、戻る。


 ――朝だ。


 低い音が響いた。

 閉ざされていた巨大な扉が、ゆっくりと動き出す。


 長い夜を押し潰すように、石と石が擦れ合い、わずかな隙間が生まれる。


 そこから差し込んだのは、白い光だった。


 夜明けの光。


 ただそれだけのはずなのに、異様に眩しい。

 細く、細く、扉の隙間が広がっていく。


 封じられていた世界が、音を立ててほどけていく。


 僕は最後の魔力を振り絞って『リザレクション』を発動した。

 光が満ちる。


 『リザレクション』の術式が完成した瞬間、四つの存在が確かな輪郭を取り戻していく。


 まず、呼吸。


 次に、鼓動。


 失われていた生が、逆流するように身体へ満ちていく。


「……っ」


 ライルが大きく空気を吸い込んだ。


 続いてリサが目を開く。


「えっ?あれ……?」


 エレナは弾かれたように上体を起こし、周囲を見回した。


 最後にカイが、何も言わずいつものように立ち上がる。


「乗り切ったのか?」


 ライルが僕を見る。


「ええ……なんとか」


 僕はそう言って杖に寄りかかった。


「今回は少し疲れました」


 完全に開いた扉から、ギルド職員を先頭に冒険者たちがなだれ込んだ。

 中にいた僕たちに気づくと、ギルド職員は一瞬だけ目を見開いた。


「……満月の夜を生き延びたのですか?」


「ええ、なんとか……」


「あなた達は……『誓いの天秤』ですね。後ほど情報提供をお願いします」


 それだけ言うと、職員はすぐに転移していった。


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