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学校一の美少女はすでに俺が攻略済み!  作者: 宵月しらせ


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第5話 焼きそば

 その日の放課後は、俺が先に203号室に着いた。

 お湯を沸かしながら、冷蔵庫に入れて置いたチョコレートを取り出し、一口かじる。

 室内放置でチョコが溶ける季節ではないが、ガチガチに固まっている方が好きなのだ。


 お湯が沸いたらティーバッグをカップに入れてお湯を注ぎ、テーブルに持っていく。ソファーに座り、さて小野から渡された昔のラノベを読むか。

 さすがに一ページも読んでいないと、明日なにか聞かれた時に言い訳しにくいからな。


「…………へぇ」


 古い作品なのでどうかと思ったが、かなりおもしろいな。

 いや、古い作品にもおもしろいものはたくさんある。だがそういうものは、昔からずっと途切れずに人気があるのだ。


 しかしこの作品は、当時から人気がなかった。そんな作品がこんなにおもしろいとは……編集長の子どもがちゃんと働いていればなぁ。


 いも♡メイを三分の一ほど夢中で読んだあたりで、玄関のドアが開いた。


「ただいま~」


 と言って入って来たのは、もちろん彩紗。


「おかえり、今日は遅かったな」


「委員会があったの。なんか長引いちゃってさ」


 靴を脱ぎ、部屋にあがる彩紗の手には通学カバンの他にビニール袋がある。

 ずいぶんと重そうに膨らんでいて、飲み物やお菓子を補充したってだけには見えない。


「今日ってここで食べる日だっけ?」


 夕食をここで作ってふたりで食べることもないわけではないが、基本的には自宅に帰ってそれぞれ家族と食べる。

 平日に料理や片付けをするのは面倒だからだ。その代わり、休日は昼、夜とここで食べることが多い。


「うちの親が今日は仕事で遅くなるって、ついさっき連絡が来た。家に帰ってもご飯がないからここで食べようかなって。理希くんも食べてくよね?」


「もちろん」


 うちの親は普通に家にいるだろうから、帰ってもいいのだが……彩紗に一人で食べさせるのは気が引ける。

 というか、できる限り彩紗と一緒に食事をしたい。

 なのでちょちょいと母にメッセージを送っておく。すぐに「わかった」と簡単な返事が来た。


 ちなみに、うちの親も彩紗の親も、俺たちがここで半同棲みたいな生活をするのを認めてくれている。

 ここでなにをしているのかと訊いてくることもないし、よほど遅くならない限りは、さっさと帰って来いと言われることもない。

 つまりは、両家公認の生活なわけだ。


「なにを作るつもり?」


「なんだと思う?」


 彩紗はキッチンの台の上に買って来た食材を並べる。

 豚肉、キャベツ、もやし、焼きそばの麵。

 ……クイズになってるか、これ?


 いや、クイズにするってことは、見たままではないのだろう。

 そう言えば、冷蔵庫に玉子が残っていたな。比較的長期保存できる玉子は、毎日料理をするわけではないこの生活において非常に重宝する。


「……オムレツ」


「なぜこの材料からそんな答えが? 普通に焼きそばなんだけど。まぁ玉子はあるから、オムレツがほしいならそれも作ろうか?」


 そのままだったか……考えを捻り過ぎたな。


「オムレツがあると嬉しいです」


 彩紗のオムレツはやけにうまいのだ。

 この生活を始めてそれなりになるし、彩紗のオムレツを食べたことも何度もあるが、いまだに細かい作り方はわからない。中華料理の調味料を中心にいろいろ入れているのはわかるが、彩紗は計量せず目分量で作るから、マネするのが難しいのだ。


「オッケー」


 彩紗は笑顔で、指で丸を作り、食材を冷蔵庫に突っ込んだ。

 それからリビングに移動する。


「理希くんはなにしてたの?」


「小田に借りたラノベ読んでた」


「ああ、今朝なんか受け取ってたみたいだけど、それか。……小田くん、怒ってなかった?」


「怒ってはいなかったな。一軍様なんてあんなもんだろ、って呆れてはいたけど」


「ああ、ねぇ……そういう言い方されるのもアレだけど、うちのクラスは特に内部の断絶がひどいよね」


 彩紗はお湯を沸かしなおし、急須に緑茶の葉を入れる。

 俺にも飲むかと訊いてきたが、紅茶がまだ残っているので断る。


「なんか縄張り意識みたいな感じ? が、お互いにあって、意味わかんなくて怖いんだけど」


「なんであんなのあるんだろうな?」


「さぁ。いつの間にかできあがってたし、なんなら私が理希くんと違う階層に属してるのもわかんない」


 彩紗が属するのは、一軍側でも最上位に位置するグループだ。

 男女数人ずつで構成され、どれもクラスの中心的人物。なので、一軍というよりはオールスターと言うべきかもしれない。


 そのグループはもともと、去年、一年生の時に生まれたものだ。二年生になる時にクラス替えがあったが、半分以上が同じクラスになり、新メンバーを加えつつ継続している。


 そのグループは入学当初に結成されたが、もともと彩紗は、好んでそのグループに入ったわけではない。

 グループの中心的な女子に気に入られ、そのグループに組み込まれてしまったのだ。


 その時彩紗には、そのまま流されてそのグループに入る道と、学校でも俺と一緒にいる道の二つがあった。

 彩紗は中学の後半を引きこもりとして過ごしたため、コミュ力に少し心配があった。

 俺とばかり一緒にいたら、さらにコミュ力が退化してしまうかもしれないので、そのグループに入ることを勧めたのだが……。


 まさかここまで上下の断絶が激しいとは、その頃の俺たちは思っていなかった。


「分断された一軍と二軍はそれぞれ安定してるけど、クラス全体で見た場合って雰囲気最悪だよね。体育祭でも、運動能力じゃなくてどっちの階層にいるかで競技決めてたし」


「運動部のレギュラーの陰キャより帰宅部の陽キャが良いポジションもらえる、って意味わかんなかったな。案の定負けたし。負けてへらへらしてたし」


「せめてクラス替えでもあれば、少しはマシになるのかもしれないけど。でも、二年から三年ってクラス替えないんだよねぇ。あーあ、早く卒業したい。そしたら、今のみたいな半同棲じゃなくて、理希くんと本当に一緒に暮らせるのに」


 彩紗はお茶を一口飲んで茶碗をテーブルに置く。

 それから俺の肩に頭を乗せて来た。


「家に帰ったら毎日理希くんがいる生活……ああ、最高!」


「今も半分くらいそれだけどな」


「半分だけだもん。おはようからおやすみまで言える同じ家に住むのがいいの」


 たしかにそれは魅力的な話だ。

 俺も彩紗と同じ家で暮らす生活を早く送りたい。


「ところで、小野くんから借りたラノベってこれ? ………………え? なにこの絵」


 名作を爆死させたヘタな表紙の絵に、彩紗もドン引きしている。

 ちなみに、彩紗は結構漫画やラノベを読む。

 もともとは俺の趣味で、彩紗はあまり興味を持っていなかった。だが、この生活を続けるうちに、すっかり染まってしまったのだ。

 今やこの部屋の本棚の大半は、漫画やラノベで埋め尽くされている。


「そんなんでも中はおもしろいぞ」


「この表紙で? ……まぁ理希くんが言うなら読んでみるか」


 彩紗は表紙をめくり、本文を読み始めた。

 そしてそのまま没頭し、夢中で読みふけった。

 ちなみに、彩紗は本を読むのがあまり速くない。二時間以上かかっても、まだ半分も進んでいない。


「あの、彩紗さん? そろそろ夕食の準備をしませんか?」


「……………………」


 ダメだ、全然聞こえていない。

 この集中力があって、どうしてこんなに読むのが遅いのか。


★★★


 夜の九時半過ぎになり、ようやく読み終わった彩紗が顔をあげた。


「は~……おもしろかった。最後は手に汗握る熱いバトルだった。まさか主人公も妹も死んで、どっちもゾンビになって魔王を倒す旅に出るとは」


 一冊一気に読み終えたからか、達成感に満ちたいい顔をしている。

 いや、そんなことより、盛大なネタバレをくらったんだが?


「バトルになるの、これ。しかもゾンビになって魔王を倒すって? どっちかというと、ゾンビは魔王側じゃないのか?」


「あれ、まだ読み終わってなかったの? すごくおもしろいから絶対に読んだ方がいいよ」


 ほら、と本を渡される。

 しかし、今日は遅いので、また明日以降で良いだろう。もう腹がかなり減っているので、早く焼きそばを食べたい。


「九時半か……この時間になってから食べるのもなぁ」


「え~、ずっと待ってたのに」


「そんなに食べたい?」


「食べたい! 空腹じゃ寝られない」


「しょーがないなぁ、はいはい、わかりましたよ。じゃあ作るね。あ~、それにしても、いも♡メイについて誰かと語りたい! 理希くんが早く読んでくれたらいいのにぃ。……っていうか、もし理希くんが読んでも、理希くんとしか話し合えないんだよね。理希くんは私とだけじゃなく、小野くんたちとも話し合えるのにずるくない?」


「ずるいって言われてもなぁ」


 彩紗のグループには、こんな古いラノベに興味を持っている層はいないだろう。

 というか、ラノベに興味持ってる人が他に全然いなさそうだ。


「私も理希くんたちのグループに混ざって話せたらいいのに」


「それができるクラスならいいんだけどな」


 そんなことをすれば、彩紗の教室での立場がなくなる。

 うちのクラスでは、真っ二つになっている階層を跨いで行動することは許されない。

 うかつなことをすれば、昔の噂に火がつかないとも限らない。実際、小野の耳にさえ入っているようだったし。


 ……彩紗は噂が水面下で広がっていることを知っているのだろうか?

 訊きたいが、もし知らなかったら、不安にさせるだけだよなぁ。

 知ってて話をしないなら、特に問題にしていないってことだろうし。

 ま、今日はその話はやめておくか。


「ところで、もう夜だから炭水化物は減らしたいってことで、麺は二人で一玉ね。その分キャベツをたくさん入れる。それでいい?」


「……う~ん、まぁしかたないな。でも、その分ソースはたくさん入れて」


「そうすると次に作る時に薄味になるけど?」


「ソースは単品でも売ってるから大丈夫。だから今日はソースたくさん入れて味濃くして」


「ふふっ、はいはい。それじゃすぐに作るから、あと少し待っててね」


 そう言って、彩紗はとびっきり濃い味の焼きそば(麺が入った野菜炒めと言った方がいいかもしれない)を作ってくれた。

 それを食べて、後片付けして、十時半くらいに俺たちはそれぞれの家に帰った。


 特に何の事件もない平凡な一日だった……と言っていいだろう。

 これが俺たちの幸せな日常だ。

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