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灯の断章 外伝 〜赤い髪のフレア〜  作者: ショパン


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黒い思惑

本作は『灯の断章 〜ココと記録の塔〜』の外伝ですが、単体でも読める作品にしています。


ただし、もし少しでも「灯とは?」「記録官とは?」

と気になる部分がありましたら、本編でより深く描いています。


興味を持っていただければ、ぜひこちらからどうぞ。

→https://ncode.syosetu.com/n5378ky/

「おらぁッ!!」


スカルの髑髏スカル・ファングが、弾けるように振り下ろされる。


「よっ……!」


フレアは一歩、半身にずらす。

刃が頬をかすめ、赤い髪がふわりと舞った。


ギィンッ!!


地面に叩きつけられた刃が砂を撒く。


「はっ……!」


その反動のまま、フレアは身体を横へ流す。

次の一撃が、すぐ背後を裂いた。


ガキィッ!!


振り抜きざま、スカルが刃を返す。


「……ほいっ!」


フレアはぐっと腰を落とす。

刃が頭上を通り過ぎ、首筋に冷たい風が走った。


「おい!!どうしたよォ!!

 避けるだけか!?」


スカルの口元が歪む。

唇の端が吊り上がり、獲物を追い詰める獣のように笑う。二本の牙が、間を置かずフレアへ喰らいつく。


フレアは口元をわずかに引き締め、身体をしなやかに捻る。


上から――ギィンッ!

横から――ガキィッ!

下から――キィンッ!!


息を吐く暇もない。


「フレアーッ!押されてるぞ!」


「反撃しろーッ!」


周囲がざわめく。


だが、顎のような二本の刃が、軌道を変えながらフレアの逃げ道を“喰い潰す”。


キィンッ!!


下から跳ね上がる一撃。


フレアは反射的に跳ぶ。

砂が足元で弾けた。


だが、その着地に合わせて――


スカルの脚が滑り込む。

地面に手をついたまま、低く、振り抜かれる。


ブンッ!!


「っ……!」


フレアは咄嗟に空中で無理やり身体を捻り、

着地の位置をほんのわずかにずらした。


ザッ――!


靴の先端に仕込まれた刃が、ブーツの縁を裂いた。

着地と同時に、フレアの顔がわずかに歪む。


「あっぶ……!」


革が裂け、細く走る切り傷がぱくりと開く。

中の布が覗き、じわりと赤が滲む。


スカルは止まらない。

そのまま再度、脚を振り抜く。


ガキィンッ!!


フレアは流れるようにナイフを差し出す。

火花が目の前で弾けた。


「ちっ……!」


次の瞬間、髑髏スカル・ファングが迫る。


「しつこい……!」


フレアは一歩踏み込み、

二本の刃の隙間へ左手のピッケルをねじ込んだ。


ギィィンッ!!


刃が、噛み合う。


腕に、重みがのしかかる。

肘が沈み、肩が軋む。


フレアは歯を食いしばった。


「……なら――!」


差し込んだピッケルを、内側からこじ開けるように手首を返した。


筋が浮き上がり、指が白くなる。


「いける……この……!」


奥歯を噛み締め、さらに力を込める。


「折れろ……!!」


その瞬間、スカルの腕がわずかに締まる。


「俺の罪を終わらせる?

 同じ村人のお前が、偉そうな口を吐くな!」


メキッ――!!


ピッケルの先端が、逆にひしゃげる。


「……っ!?」


フレアの目が、見開かれる。


次の瞬間、


バキィッ!!


完全に、へし折れた。


折れたピックが、弾かれるようにくるくると宙を舞う。


「え……マジで……!?」


フレアの手の中に残るのは、柄だけ。

息が、止まった。


スカルの口元が、さらに深く歪む。


「見たか?」


髑髏スカル・ファングが、金属の欠片を溢しながらゆっくりと持ち上がる。


「これが肉なら――」


スカルの目が、ぎらりと光る。


「どうなるか、分かるよなあ?」


フレアは喉の奥で、短く息を吐く。


「……は」


かすかな笑いが漏れる。

視線が、下からすくい上げるようにスカルを捉えた。


一歩下がり、わずかに腰を落とす。


後ろ手で折れたピッケルの柄を手放し、砂を掴むと静かに間合いを取り直した。


「……武器に自分の名前つけるなんて、

 あんた、くっそださい」


右手のナイフを軽く返し、握りを深くする。


「当たらなきゃ、いいだけ」


視線はぶれない。


スカルの口角が、ゆっくりと吊り上がる。


「言うじゃあねぇか」


――ドンッ!!


砂が爆ぜる。


その瞬間。


フレアの右手が、迷いなく振り抜かれた。


シュッ――!!


ナイフが一直線に飛ぶ。


狙いは、スカルの頭。


「……!」


スカルの視線がわずかに上がる。

反射的に、髑髏スカル・ファングが閃く。


ガキィンッ!!


ナイフは、二本の牙に噛まれ、火花を散らして弾き飛ばされた。

その衝撃のまま、スカルは手首を返し、振り抜く。


だが――


視線を戻した時にはもう、フレアは背を向けていた。

砂を蹴り、一直線に駆け出す。


「……あ?」


眉がひそまり、すぐに歪む。


「おい、逃げんのかよ!!」


スカルの頬がぴくりと引きつる。

踏み出しかけた足がわずかに止まり、

その目が、フレアの背中を舐めるように追った。


揺れる赤い髪。

その下で、背にかけた弓が小さく揺れる。


「……っ」


息を噛む。


「まずい……」


喉の奥で、低く声が漏れる。


「あいつ――弓を使う気か……!」


目が細まり、次の瞬間、脳裏に走る。


――最初のあの一射。


反応するより先に、刃を弾き飛ばされた記憶。


視界の端で、火花が散る。


「ちっ……!」


スカルは髑髏スカル・ファングを腰へ押し込み、そのまま納めていたナイフを乱暴に引き抜く。


刃を一度、指で弾き、軌道を測るように、肩がわずかに沈む。


「やらせるかァッ!!」


踏み込みと同時に、腕が振り抜かれる。


シュッ――!!


一直線。


フレアの頭へ。


その瞬間。


キィィンッ!!


空中で金属が激突し、火花が弾ける。


「な――!?」


スカルの目が見開かれる。


ザッ!


弾き飛んだ刃が、目の前の砂に突き刺さる。


見覚えのある自分のナイフ。


砂に突き刺さっていたはずの、最初の一本。


目が、わずかに揺れる。


次の瞬間。


ビュンッ!!


乾いた音が、空気を裂いた。


「……っ!?」


ザシュッ!!


矢が、スカルの右足の裾を撃ち抜く。

布を貫き、地面へと深く突き刺さる。


「ぐっ……!」


踏み出しかけた足が、一瞬止まる。

引き抜こうとするが、動かない。

矢は杭を打つように、スカルを地面に固定した。


ザシュッ!!


今度は反対の足。


「なっ……!」


両足が地面に固定され、スカルの体勢が崩れる。


ドサッ――!


膝が、砂に叩きつけられた。


「くそっ……!!」


ギッ、と力を込める。


ビリッ――!


布が裂ける。それでもすぐには抜けない。


視線が、跳ね上がる。

その先でフレアは、すでに次を構えていた。


弓は引き絞られたまま、微動だにしない。

弦を張る指間には、まだ三本の矢。


赤い髪がふわりと揺れ、

その瞳は、ただまっすぐにスカルを射抜いていた。


「――これで終わり」


低く、静かな声。


「やらせねぇ!!」


スカルの顔が歪む。

血走った目で、フレアを睨みつける。


「俺たちを……踏み躙りやがって……!」


腰から髑髏スカル・ファングを引き抜き、震える手で、頭の前に叩き込むように構えた。


「お前も……!!」


息が乱れる。


「……全部……。全部だ……!」


目が、ぎらりと見開かれる。


「許さねぇ!!!」


フレアの背の矢筒は、空だった。


ここを凌いで――


「何もかも――」


喉が鳴る。


「ぶっ殺してやるよォォォォォォ!!!」


ビュンッ!!


ビュビュンッ!!


ビュンッ――!!


矢が、それぞれわずかに軌道をずらしながら迫る。


「うおおおおおおッ!!」


スカルが叫ぶ。


髑髏スカル・ファングが、唸りを上げて振り抜かれる。


ガキィンッ!!


一本。


刃に弾かれ、火花を散らして軌道を逸れる。


「――はっ!!」


息を吐く。


ザシュッ!!


二本目は腕に突き刺さる。

筋肉を裂き、骨に届く手前で止まる。


「ぐっ……!」


ザシュッ!!


三本目は反対の腕。

貫かれた衝撃に、肘が跳ね上がる。


「がっ……!」


血が、散る。

スカルの身体が、わずかにのけぞる。


だが――


身体をねじ戻し、歯を剥き出しにして笑った。


「は……はは……!」


肩で息をしながら顔を上げ、フレアを睨む。


「終わりだ。

 もうお前に武器はねぇ……」


腕から血が滴る。

それでも、髑髏スカル・ファングを握り直す。


「俺の――」


足の矢を、無理やり引き抜こうとする。


ビリッ――!


「勝ちだァァァァ……!!!」


血まみれの腕に力を込めた、その時。


ヒュン――


音が、落ちてくる。


「……?」


スカルの目が、わずかに上を向く。


ヒュンヒュンヒュン――


落ちてくる影。


くるり、と回る刃。


ガンッ!!


柄が当たる衝撃に、スカルの頭が揺れる。


視界が、ぶれる。


「な……に……」


遅れて、理解が追いつく。


――自分の、手放したナイフ。


フレアは最後の矢で、

転がっていたそれを弾き上げていた。


膝が崩れ、そのまま、仰向けに倒れ込む。


ドサッ――!


握っていた髑髏スカル・ファングが、

指の隙間から地面に転がった。


砂が舞う。


フレアは弓を下ろし、静かに息を吐く。

視線だけが、倒れたスカルを見ている。


「……それ、返しとく」


ヘルモーズがそそくさと前へ出る。

変わらぬ笑みのまま、倒れたスカルの顔を覗き込む。


「おい……!」


スカルが、口の端から血を滲ませながら顔を歪める。


だが、ヘルモーズは目を細めるだけだった。

転がる髑髏スカル・ファングを、無造作に蹴り飛ばすと、低く呟いた。


「だから、言いましたでしょう?」


スカルの目が、ぎらりと見開かれる。


「……まだ……だ……!」


血を吐くように叫ぶ。


「俺はまだ戦える……!!」


その声が、場に響く。


それでも遮るように――

ヘルモーズは顔色一つ変えず告げた。


「――勝負あり!」


声はよく通る。

冷たく、均一に。


スカルの叫びなど、初めから存在しなかったかのように。


「相手の死角を突いたことにより、

 勝者――フレア!」


一拍遅れて、地鳴りのような歓声が上がる。


「うおおおおおお!!」


「やったぞ赤髪!!」


「フレア!!」


志願者たちが、足を踏み鳴らす。


フォルドは呆然と口を開けたまま、何も言えない。

ネレクは黙したまま、ただフレアを見据える。


シンは腕を組み、わずかに息を吐く。

ジェミルは楽しげに目を細め、にこりと笑った。


ヘルモーズは、その歓声を背に受けながら、静かに壇上を振り向く。


壇上では、ユリウスが顎髭を撫でていた。

指先がゆっくりと動き、視線は赤い髪の少女へ。


口元に、わずかな笑み。


グレイブは腕を組み、鼻を鳴らす。

その肩は、ほんの僅かに緩んでいた。


その隣で、ヴァルターは、ヘルモーズの合図に小さく頷くと、椅子から音もなく立ち上がった。


黒いマントが、ばさりと大きく翻る。

揺れが収まるより早く、杖の先はスカルを指した。


「その者を捕えよ!

 連続記録官失踪事件の容疑者として、

 地下の監獄に連行する!!」


歓声が、すっと引く。

その場の全員の視線が、一斉に壇上へ集まった。


ユリウスの手が、顎髭の上で止まった。


「……ヴァルター君。まさか――」


グレイブの眉が寄る。


「お前……最初からか?」


ヴァルターは振り向かない。

ただ、下を見ている。


「ある村の近辺で、記録官が立て続けに失踪する事件を追っていた……」


低い声。

感情は、ない。


「私は、その村出身の男が志願者に紛れ込んでいるのを発見し、面接試験でふるいにかけ、星を付けたのだ」


ユリウスの目が、細まる。


ヴァルターは、淡々と続ける。


「だが、確証がなければ捕縛はできん。

 “藪蚊”は、叩かねば出てこない」


その言葉と同時に、視線がほんのわずかに動く。


フレアへ。


「あの娘は――実に有効な駒だった」


グレイブの喉が、小さく鳴る。

ユリウスは、顎髭から手を離す。


ごくり、と。


誰ともなく、唾を飲み込んだ。


ヴァルターの声が落ちた直後。


間を置かず、記録官たちが試合場へ踏み出す。

足音が、乾いた砂を踏む。


「来るな……!」


スカルが顔を上げる。


「来るんじゃねぇ……!」


腕を動かそうとする。

だが、刺さった矢が微かに震えるだけで、持ち上がらない。

足も、地面に縫い付けられたままだ。


「触んじゃねぇ!!」


押さえつけられ、地面に顔が叩きつけられる。


ドンッ。


砂が跳ね、頬が擦れる。


「やめろ……! 離せ……!!」


冷たい手つきで、縄がかけられる。

腕を後ろへ引き上げられ、きつく縛られる。


「やめろォォォォ!!」


喉を裂くような叫び。


その前に――


フレアが、歩み出る。


わずかに息を整え、まっすぐに見下ろす。


「……ごめん」


唇が、ほんのわずかに強ばる。


「でも、私が記録官になって――

 あんたの村も、必ず助けるから」


視線は逸らさない。


「約束する」


スカルの動きが、止まる。

その目が、フレアを捉える。


――一瞬。


血走った瞳の奥で、何かが揺れる。

怒りでも、憎しみでもない。


もっと、別の何か。


「……は」


乾いた笑いが、喉の奥で漏れる。


次の瞬間――


「うるせぇぇぇぇぇぇッ!!!

 テメェは、何も知らねぇくせに……!!!」


吐き出すように叫ぶ。

その目が、フレアを射抜く。


記録官に腕を掴まれ、

スカルはそのまま強引に引きずられていった。


フレアは静かに、その姿を見つめる。


遠ざかっていく背中。

砂に残る、引きずられた跡。


やがて、声は途切れる。


――それでも。


「……」


何処か寂しげで

まるで、何かを訴えるような。


スカルのあの目だけが――

フレアの胸の奥に、焼き付いて離れなかった。

『灯の断章 外伝 〜赤い髪のフレア〜』を読んでいただき、ありがとうございます。


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