二十一、ハッピーフィナーレに向かって走れ
私の危機に駆け付けてくれた兄。
しかし兄は聖女とレニーの関係について彼が知っていることを私に教えてくれるどころか、私についてとても怒っていると言うのである。
「どうして?」
「だって、君が悲しい時困った時腹が立った時、とにかく、まず一番に僕に相談する約束でしょ?それなのに、虐められているのに黙っていた?だからヒルトブルクの甘ちゃんに誑かされる結果になったんじゃないか」
「え?」
「そこで、僕は君に試練を与えました。君とあいつはどれだけ想い合って理解し合っているのかなってね」
「何を言っているの?お兄さま?って、きゃあ」
私は兄の腕から引っ張り出され、しかし、ふわっという感じで兄から三歩ぐらい下がった場所に立たされた。
そんな事をしたのは、ブルーブラックの艶やかな髪を持つろくでなし少佐だ。
彼は私の騎士のように私の兄の前に出て、それから私に、流し目、を送った。
「いいから、とりあえず君は学食を出なさいな。聖女の犯罪行為についてどう処理するのか、俺と君のお兄さんが話し合わなきゃだからね」
「お兄様と?」
兄はエリアス・シーザ少佐に対し、腕を組んだ姿で偉そうな目付きを向けている。
そんな兄をシーザ少佐は意に介した様子もなく、学園の職員のようにして大きく手を叩いて生徒達を追い立て始めた。
「ほら、ガキは邪魔なんだよ。ここにいるガキども、全部出ていけ!!」
「シーザ少佐の言う通りにして!!さあ、皆学食から出てくれ」
イエルクもシーザに追従するように生徒に声を上げたが、しかし彼はそのまま生徒の誘導を続けずに、自分の婚約者の方へと真っ直ぐに駆け寄った。
「ありがとう。マルク」
イエルクはベルンハルトの腕の中からべルティーナを引っ張り出し、彼女をそのまま自分の腕に抱きしめる。
「ほんと、感謝してくださいよ。俺が後は片付けますから、会長は今日は姐さんだけを」
「ありがとう。さあベル。リリーについては私が力を尽くすと約束する。君一人で抱え込むんじゃない」
「ああ、イエルク」
「ほら、突っ立ってないで。君は行った」
横から腕を掴まれ引っ張られ、それからどんっと背中を押された。
こんな無造作で適当な扱いを受けたのは初めてだ、と見れば、ユリウス・シュバイツァーがそこにいた。
赤毛にエメラルド色の瞳をした青年は、こうして見るとヴェルナーよりももっと悪そうで海賊風であった。
彼は私に向かって軽く片目を瞑って見せる。
「あの」
「君が十五分以内にヴェルナーを見つけられたら君達の仲を認めるんだってさ。君のお兄さんも粋な所があるよね」
「そう思うのは君だけだよ。ユリウス。見つからなかったら箱の中で窒息だろ?いくら見晴らしが良い場所でも、そんな状態で死ぬのは最悪だ」
「ありがとう!!ベルンハルトさん、シュバイツァーさん」
私は駆け出していた。
だって十五分以内にヴェルナーを見つけなければ窒息死してしまうのだもの。
そして、ベルンハルトとシュバイツァーが与えてくれたヒントと言えば、きっと立ち入り禁止の見張り台の天辺のはず。
学食から十五分以内に辿り着けて、見晴らしがいい場所はそこしかない。
私は駆けて駆けて、そして長い階段を駆け上って、ベルクフリートの天辺に何とか辿り着いていた。
もう足はガクガクで、時間だって十五分を過ぎてたかもしれない。
それでも大丈夫だと思ったのは、棺のような長方形の箱の上に座っていたアロイスが、そこから立ち上がって私に向かって来たからだ。
彼はストップウォッチみたいに使える懐中時計の鎖を持ち、これ見よがしにそれを揺らして見せているのだ。
「僕からのお祝いはマイナス五分だね。おめでとう」
「ありがとう。アロイス」
私は彼に抱きついた。
彼は私を抱き返し、えっと、頬にキスされた?
「もっと早く動けば良かった。きっかけなんか考えずに口説くべきだね。あと、他の女性を持ち出して誘うのは一番ダメだってベルに駄目だしされた。」
「え?」
アロイスは私を手放すと、私の肩をポンと叩いた。
「さあ、行って。そして残念ながら僕は見張り番も仰せつかっている。僕が見ているのを忘れるんじゃないよ」
「ありがとう。アロイス」
「いいから、早く出せよ!!」
私とアロイスは顔を見合わせ笑い声をあげる。
それから私は可哀想な恋人の元へと走った。
私が彼を手に入れるために。
お読みいただきありがとうございます。
せっかくの乙女―ゲー世界なので、ラストはゲームのオープニング風に男性キャラを総出演させてみました。
この後に設定話が続き、最後はこの後のヴェルナーとアディで終話とする予定です。




