二十、雷同
ヴェルナーが愛しているのは私。
これは自信をもって言える。
だって彼こそが、決して間違えるなと私に言ったのだ。
ああヴェルナー、私こそ愛しているわ!!
「違う!!」
とてもはっきりした拒絶の叫びが上がった。
驚くべきことに、ユーフォニアこそ揺るがない視線で私を射抜いている。
「ヴェルナーが愛するのは私よ!!彼は言ったわ。君は可哀想だねって。それは彼だけが私自身を見てくれたからわかっているのよ。彼が愛するのは私。彼の愛は私が貰うはずのものよ。私が貰って、私が公爵夫人になるはずなのよ!!あんな、あんな下賤な女が、私のものじゃないって、そんな嘘を吐くからいけないの。私のせいじゃないわ。私のせいであるわけないわ!!私は選ばれし聖女なのよ!!」
「あなたは聖女なんかじゃない。力のせいで何でも手に入ると思い違いした子供でしかないわ!!」
「いいえ!私は聖女。世界は私の為に無ければいけないのよ!!だって私は主人公なの。この世界の主人公として生まれてきたのよ!!だから、貧民窟の暮らしだって我慢したのに!!」
私は、はっとした。
ユーフォニアこそ転生者だった?
彼女は私に右手の手のひらを向けた。
彼女の手の平で真っ白の光が閃き――。
私はリリーの身に何が起きたのか理解した。
この光で焼かれてしまったのだわ、と。
理解した私は、考える前に動いていた。
右手を大きく振りかぶり、ユーフォニアの頬を平手打していたのである。
「きゃあ!」
ユーフォニアは簡単に床に尻餅をついた。
しかし、彼女は再び私に手の平を向ける。
彼女の顔つきはもはや聖女とは言えないだろう。
憎しみだけしかない瞳で、彼女は私を睨む。
「手に入らないなら、全部壊してしまうだけよ!!ママはいくらでもリセットが出来るって言ったもの!!」
「リセット、ママが?」
「そうよ!!私のママは予言者なの。ママはこの世界の出来事を何だって知っているの。だからもう一度やり直すの。三年前と同じに、全部リセットしてみせる」
三年前?
ユーフォニアの台詞に私は一瞬戸惑い、そのために私は動けなかった。
ユーフォニアの右手は、真っ白に輝く太陽を作り出していた。
避けられない。
私はもうだめだと覚悟した。
逃げ切ることはできないと観念した私は、神に祈るように両手を組んで両目をぎゅっと閉じた。
「攻撃魔法は一般人に向けた時点で大罪だ!!」
「ぐぎゃあ!!」
聞き覚えのある大声に、女性の悲鳴。
私はぱっと瞼を開けた。
なんと、ユーフォニアの体の上に寮のメイド、レニーが乗っていた。
ユーフォニアは完全に伸びて白目を剥いている。
多分、彼女は自分の体の上に乗せ上げられたレニーの体重を、そのままどころか勢いまで付けた状態で受けたのだろう。
そしてレニーこそ完全に意識が無い状態だ。
だけどどうしてあのびくびくしていただけのレニーが、悪人みたいに縄でグルグル巻きに縛られた状態でユーフォニアの上に転がっているのだろう。
パラパラと、上から埃が落ちたと天井を見上げれば、ユーフォニアが私に向けた光が私を直撃する代わりに上に向かったその結果という、焦げ跡が見えた。
レニーの頭の天辺が焼け焦げているのは、ユーフォニアの攻撃を受けたから?
「ええと、本気で何が起きたの?」
「母の愛って偉大だねえ。娘を止めるために身を挺するなんて、ああ、美談だ」
私は聞き覚えがあり過ぎる声の方へと、ゆっくりと振り向いた。
モーゼの海開きのようにして学生達が道を作っており、私の数メートル先となる道の中心に我が兄と死にそうな顔をした生徒会長様がいる。
投げたんだ。
きっと二人で哀れなメイドを投げたんだ。
私はお陰で助かったと感謝するよりも、二人に脅えばかりを抱いてた。
だって、女子供にここまでできる人達なのよ。
すると兄は、私からの視線を絶大なる兄への賞賛と取り違えたのか、それはもう嬉しいという笑顔を作る。
私と似た顔立ちで同じ色合いの瞳と髪のはずなのに、兄が普通以上に美男子に見えるのはなぜだろう。
彼に抱いた恐れは、いつの間にか私の中で鬱憤に変わっていた。
「お兄さま!!何をなさってるの!!人を投げちゃいけないでしょう!!」
「ミンツ嬢。君がお兄さんに言うべきはそれじゃないと思うよ」
「イエルク様。そ、そうですわね。え、ええと。ありがとう。お兄様?」
「それこそ違う!!」
「えええ」
「違くないですよ。この殿下は融通が利かないねえ。いいんだよ。これぞ勧善懲悪。自分の欲望のために子供を操り人形しちゃいけない。そんな事をするから最後は僕達の操り人形になっただけの話でしょ。いやいや、人間魚雷かな」
「自分の欲望のため?」
「それは後で話そう。まずは君の無事を喜ぼうか。僕の大事なお姫様」
兄はニカッと笑うと、当たり前のようにして私に両腕を開いた。
私は二週間ぶりの兄の腕に飛び込む。
「お兄様!!」
「うん。元気そうだ。そして僕は君に怒っているよ」
「どうして?」




