四章 知らない記憶と来客
クリスたちの執拗な追及をやり過ごしているうちに、バルト達は城に着いた。
「おい……まだ依頼を受けるとはいってないぞ?」
城の入口にはダンが既に頭を下げて待っている。
律儀なやつだとは思っていたが、本当に真っ直ぐな人間なんだとバルトは実感した。
「受けても、受けなくても……こうして戻って来てくれた事に感謝を表してるんだと思います。副団長はそういう人ですから」
ラルカは優しい目でダンを見つめると、急いで馬車からおりて駆け寄って行った。
「恋する乙女だねぇ……」
クリスは嬉しそうにラルカを見つめ呟いた。
「ラルカ位可愛ければ、ダンみたいなイケメンでも即OKだろ。早く告白すればいいのに」
「はぁ……バルトってさ、恋した事ある?」
「失礼な、俺だって!……俺だって……」
『バルトは筋が良いな!私を越える日もそう遠くはないだろう』
『本当に?そうしたら僕をお嫁さんにしてよ!』
『はははっ!バルトがお嫁さんか?性別が逆転してるぞ?』
『あれ?そうなの?』
急にバルトの頭に覚えがない記憶が流れた。
そう言えば前も何かの時に……
「ルト……バルト!いきなりどうしたの?」
クリスに肩を叩かれ、バルトは我にかえる。
「いや、なんでもない……と思う」
「本当に?……ならいいんだけど……」
歯切れの悪いセリフにクリスは心配そうにバルトを覗き込む。
「とにかく、今はダンに話を聞いてみよう。降りるぞ」
クリスの頭をくしゃくしゃに撫で、バルトは馬車から降りる。
何か大切な事のような……あれ?なんだっけ?
次の瞬間にはバルトの疑念は何故か綺麗になくなっていた。
バルト達はダンに案内されながら、最初にいた部屋に戻ってくると、いきなりダンは、土下座をした。
「まず戻って頂き感謝します。あれだけの悪条件を説明したにも関わらず……戻って来てくれただけで、私は……」
「待て待て!副団長クラスが簡単に俺等みたいな冒険者に土下座なんてするな。そこまでされるような事を俺達はしてない!」
バルトが急いでダンに駆け寄り、無理やり立たせる。
真っ直ぐなのは良いが、少し甘すぎるとバルトは感じた。
「君ならそう言うと思いました。本当にありがとう御座います」
立ち上がりながら、ダンはバルトを抱きしめる。
「あら!あらあらあらあらあら!あらあらあら!」
声の方を見るとハンナが興奮しながら、鼻血を出している。
こいつそっちもいけるタイプだったのか……
「分かったから離れろ!さっさと今までの経緯を説明しろ」
バルトはダンを引き離すと、ハンナが悲しそうにしていたが見なかったふりをする。
「私も混ぜて欲しいですねぇ」
部屋の中に知らない男の声が響き、全員が一斉に声の方向に攻撃態勢をとる。
「ダン、こいつ知り合いか?」
「いいえ、バルトさん達の仲間でもないみたいですね……」
黒のタキシードに、異常に痩せこけた顔、脂ぎった七三分けの髪型をした不気味な男が部屋の隅に立っていた。
「男性同士の抱擁は美しいですねぇ……もう一度お願いできませんか?」
この人数に敵意を向けられても動じずか……
相当戦闘に自信があるのは間違いない。バルトは念話でシトリーに声をかける。
『シトリー、召喚するぞ?いいか?』
『言われなくても、今強制召喚しようとしてた!バルト、こいつ本当にやばいよ』
シトリーの声の緊張感からかなりのヤバさが伝わる。
バルトは急いで親指をきり、地面に血を垂らした。
しかし、シトリーは召喚されずバルトは急いで床を見る。
垂らしたはずのバルトの血が床にはなく、召喚に失敗したのが分かった。
「もったいないですねぇ。使い魔に分ける位なら私が頂きます」
「嘘……魔力を使った形跡がないのに」
ハンナが驚い様子で、ベルゼを見つめる。
謎の男は、バルトが垂らした血をいつの間にか自分の手の平の上で浮かしていた。
しかも、ハンナが得意とする魔力検知にも反応せずに。
男の余裕そうな表情とは逆に、部屋の中に異常な緊張感がはしる。
バルトは必死に対策を考えるが分からない事が多すぎて思考がまとまらない。
どうする……
「……キャス」
その瞬間、風のようにキャスが男の背後に現れ、血を浮かべた腕ごと、噛みちぎった。




