三章 変態だけが分かる匂い
「戻って来ないな……」
ラルカが一人で城に行ってから二時間程経とうとしている。
「何か起きたのでしょうか?」
ハンナが心配そうにうろうろしながら、空を見上げた。
「ノクターナルの今の状況が状況だし。私達は敵側の国民な訳でしょ?それに殺されはしないだろうけど、騎士団長が悪事を隠そうとしてラルカを監禁する可能性もあるからね……」
「いや、それはないだろ。だったら俺達もまとめて始末したいはずだ……ラルカを囮にしてでも一度はラルカを俺達の所に寄越す」
「そう言われれば……流石悪知恵だけは働くね!」
そう言いながら、クリスはバルトに抱きついた。
「クリス、いい加減にしてください!あなた女の子ってバレたんですよ!?」
「バレたなら余計に頑張ってアピールしないといけないと思わない?ハンナこそいつまでも処女全開だと周りに遅れをとるよ」
「それはそうですが……だから処女じゃありません!」
ハンナが必死に抗議しながら顔を赤らめている。
まだその設定いきてたのか……バルトはあまりの無理矢理な設定に忘れかけていた。
「そうよ、ハンナ。私みたいにバルトが寝ている内に既成事実を作ればいいのよ」
「そうそう、リリィみた……え?」
クリスが頷きながら、リリィを見て固まる。
「あら?クリスも隠してるだけで、てっきり本当は済ませたのかと思っていたけど……まだだったみたいね」
リリィは意外そうにクリスを見つめた。ハンナとクリスは驚きすぎて呆然としている。
「バルトは、一度寝ると朝まで起きないから実感はないでしょうけど」
淡々と話すリリィの話を、バルトは何も言わずに聞いていた。
そして一言。
「嘘だな」
バルトは当たり前のようにリリィの話を否定した。
「なんでそう言いきれるのかしら?」
リリィも余裕な表情で言い返す。
「金玉の感覚だよ……俺は生まれてから今まで一度も……出したことがない!だから玉の重さは常に把握している」
めちゃくちゃキモい事を、推理小説の犯人を追い詰めるかのようにカッコつけてバルトは語り出した。
「そんなの分かるわけないだろ……と言いたいんだろ?残念、それは素人の感覚だ。 俺は来るべき日に最高の形で発射するために十五年間我慢し続けてるのだ……あまり俺を舐めるなよ?」
バルトから凄まじいオーラが揺らめき始める。
「ちっ……予想以上に童貞を拗らせていたのね……私の負けよ」
リリィは悔しそうに下を向くと、膝から崩れ落ちた。
『嘘つき……本当に悔しがってたくせに』
シトリーがいきなり頭の中で声をかけてきた。
『うるさい、記憶がないのに童貞捨ててるとかどんな罰ゲームだよ!しかもリリィだぞ?あんな最高ボディを知らずに味わってるとか地獄以外に何があるんだ!』
バルトが表情を一切崩さずシトリーに反論する。
当たり前の話だが、金玉の重さなど分かるはずがない。バルトは悔しすぎて虚勢をはっただけだった。
「……の、あの!バルトさん!」
「は、はい!」
ラルカの声がいきなり聞こえ、バルトは驚いた。
横を見ると、ラルカと知らないイケメンが立っている。
「何があったんですか!?ハンナさんとクリスさんは放心状態ですし、リリィさんは膝から崩れ落ちてるじゃないですか!」
「あぁ……ただのくだらない話だ。ちょっと待って……」
バルトはフリーズしてる三人を起こしに行った。
「王女様が行方不明!?」
バルトは思わず大声をあげてしまった。
「はい……しかもこの二,三時間の間に……」
ラルカが暗い顔で答える。
ラルカが言うには、ラルカが騎士団長に事実を話すと、騎士団長が出した指示は王女からの直接の指令だったことが分かった。
王女の真意を確かめるために、直ぐに部屋に向かったが姿がなく城中を探したが、結局見つからなかったらしい。
「なんと言うか……あまりにタイミングがね……僕達が来るのが分かっていたとしか思えない」
クリスがあまりのタイミングの悪さに目を細める。
「まぁ、何かしらの意図は感じるよな。それでそのイケメンは騎士団長ってとこか?」
バルトがラルカの横にいた高身長のイケメンに視線を移した。
爽やかな赤髪の短髪、端正な顔立ち、引き締まった体。
文句のつけようがない立ち姿に、バルトは苛立ちを覚える。イケメンは全員消滅しろ……。
「自己紹介がまだでしたね。私はノクターナル王国騎士団団長、ダン・ダフリル・ネイシスと申します」
そう言うとダンは頭を深く下げた。
「これは、これはご丁寧に」
バルトも深く頭を下げ、そのまま話を続ける。
「それで、俺達を疑ってる感じですか?疑ってる感じですよね?タイミング良すぎますもんね?」
「いえいえ!ただ、有力な情報を頂いたので挨拶をしたかっただけですよ。疑っていたら挨拶せずに斬りかかってます」
ダンも頭を下げたまま会話を続ける。
「そうですか!随分信用してくれてますね!
しかし王女様がいないなら、僕達が出来るのはここまでなので帰らせて頂きますね。別に疑ってないなら大丈夫ですよね?」
「そう急がなくてもいいではありませんか!」
そう言ってダンは頭を下げたまま、バルトの肩に手を置いた。
『バルトさん、ラルカから聞きました。私達の戦争を止めに来たんですよね?手伝ってください』
ダンが念話で話しかけてくる。
『だが断る。絶対にめんどくさい匂いがする。それに止めると言っても王女に話をしに来ただけだ』
バルトもダンの肩に手を置き、念話で応える。
『そう言わずに!御礼はしっかり御用意しますから』
『……ちなみに何だ?いっとくが多少の金程度じゃ……』
『我が国が誇る夜の町の年間フリーパスです。どんなお店だろうが、誰だろうがいつでも自由に使える。非売品です』
『なん……だと……』
バルトの鼻からみるみる鼻血が溢れ出す。
『残念なことに戦争が終わらなければ使えないですけどね。どうします?』
『……一つだけ聞かせてくれ。何故俺の目的が分かった』
『そうですね……強いて言うなら匂いです。貴方からは私と同じ変態の匂いがします』
『そうか……色々失礼な態度をとって悪かったな兄弟。俺はただのイケメンは死ぬほど嫌いなんだ』
『いえいえ、同じ志を持つもの同士……仲良くしましょう兄弟』
二人は同時に顔を上げ、無言で握手を交わした。
バルトに新しく変態紳士の友人が出来た瞬間だった。




