二章 信じるものは足元をすくわれる
『バルト!フランの口を塞いで!』
『はぁ?いきなりなんだよ!?』
シトリーが慌てた様子でバルトにフランを捕まえるように指示してきた。
『良いから早く!』
「フランちゃん、それってどういう意味ですか?」
ハンナが不思議そうにフランに尋ねる。
「あれ?ご存知なかったです?シト……」
「フ、フランちゃん!ちょっと私とお話しようか!」
シトリーが無理やり強制召還を使い現れると、フランの口を塞いでそのまま連れていってしまった。
強制召還はかなりの魔力消費をするから緊急事態以外には使わないと言っていたはずだったのだが……余程の緊急事態だったのか?
バルトが首を傾げていると、フランが上機嫌で部屋に戻って来た。
「バルトさん、これからは今までみたいにはいきませんからね!」
「ん?どういう……」
「バルト、ごめん……」
バルトがフランに質問しようとすると、シトリーが申し訳なさそうに謝ってくる。
「だから、一体何が何なんだ?」
「後で説明するから……とりあえず一旦魔力回復に戻る……」
シトリーはかなり疲れているのか、すぐさま魔界に帰ってしまった。
「一体何なんだよ……」
バルトは腑に落ちない様子でフランを見つめると、満面の笑みでバルトを見つめ返してくる。
「フランちゃん、それでさっきの続きなんですがあれは……」
「その件なのですが、詳しくは言えませんが大丈夫です!とにかく安心してください!」
「そ、そうなのですか?何かシトリーって言いかけま……」
「言ってません!とにかく大丈夫だから気にしないでください!これ以上の質問は……分かりますよね?」
「は、はい!」
フランはハンナに詰め寄ると威圧感満載の笑顔で答え、ハンナは何も言えなくなってしまった。
『おい、俺には後でちゃんと説明しろよ。何だか嫌な予感がする』
『わ、分かってるよ……』
シトリーはかなりバツが悪そうに返事をする。
「とにかく、ラルカが起きて準備ができ次第出発するからな。忘れ物はするなよー」
バルトはスープを飲み干すと、荷物の確認をするために部屋に戻った。
一時間程で各自準備が終わり、バルト達は騎士団本部に向けて出発した。
「家にも当分帰ってこれないと思うと少し寂しいね」
「クリスにしては珍しいな。あまり場所や物に執着しないタイプかと思ったんだが」
「そんな事はないよ。僕だって大切な物や場所があるから頑張れるのさ」
クリスが少し不満そうな顔をしながらバルトに反論する。
冷静に物事を判断する事からクールなイメージがあったが、意外に感情的な部分があるらしい。
「ふーん……意外に女子っぽいところあるんだな」
「バルトさん、女の子に向かってそれは失礼ですよ。いくらバルトさんが素敵でも、それは駄目です!」
フランがバルトの前に回り込み、真面目な顔で注意する。
「フラン、クリスは可愛いが男の子なんだ。そういや性別の自己紹介なんてしないから、分からないよな」
バルトはフランの頭を撫でながら、諭すように答えた。
「バルトさん……その冗談は笑えないですよ……?」
フランの瞳孔が一気に開き、バルトに緊張がはしる。
「ク、クリス!フランの誤解を解いてくれ!」
「フ、フランちゃん?僕は男で……」
「クリスさん、バルトさんが好きだからって合わせて我慢しないで下さい」
フランがクリスにも真面目なテンションで注意をする。
「いやいやいやいや!フラン!本当にクリスは男なんだって!信じられないかも知れないけど本当に……」
「バルトさん……いい加減にしてください……」
バルトが弁明すればする程、フランの怒りの火に油を注いでしまっている。
「フランちゃん、本当にクリスは男の子ですわよ。バルトさんを弁護するわけではなく、本当にそうなんです」
「ハンナさんまで……と言いたいところですが、何だか話がおかしくなってますね……」
フランが少し冷静になり、考え始めた。
「クリスが自己紹介で性別を偽ったからこんなことになるのよ、そもそもこんな可愛い男がいるはずないのだから……信じるバルトとハンナもバカだけど」
「「え……?」」
バルトとハンナの目が同時に漫画のような点になり、クリスは吹けない口笛を必死に吹きながら空を仰いでいた。




