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その12

 龍は天を仰いだ。

「紗由は翔太の跡継ぎとして自分を届け出たんだ。亭主の特権、“命魂”の願いの内容と共に」

「あれ? じゃあ、九代目は…」

「そう。八代目が紗由、九代目は駆、ミコトは十代目になる」

「龍おじさんも知らなかったの?」涙を拭うミコト。

「面目ない」ため息をつく龍。「紗由は誰にも言わなかったし、伊勢からも連絡はなかった」

「清流旅館はおじさまの主宿なのに?」メイがこぶしを握る。

「亭主側から連絡が行っていると思ったんだろう。まあ無理もない」

 ため息をつくメイとミコト。


 龍は、しばらくの沈黙の後、再び話し出した。

「そして、翔太が亡くなった後、ベッドの傍らの紗由は、おそらく自分で自分の心臓を止めた」

「ばあちゃん…」

 また泣き出すミコトの肩を抱くメイ。


「あの…それで紗由さんは…」メイも涙を拭う。「“命魂”を何に使ったんですか?」

「それは、」

“待て、龍”

「若青龍さま…」龍が祭壇を見つめる。

“それはメイとミコトで解くがよい”


「出し惜しみなさらないでください!」

“謎を解けるかどうかは、清流旅館の未来を託していい者どもかどうかへの答えでもある”

「謎を解けなくても、ミコトさんでいいじゃないですか! こんなに皆のことを考えてるんですよ…あ…神箒の件はお気に障ったかもしれませんけど、そんな肝っ玉の小さい神様じゃありませんよね?

 そんな神様、こちらから願い下げです!」

“気が短いのお。華音に似たか…”ため息声の若青龍。


「失礼いたしました」祭壇に頭を下げる龍。

“よく聞け、メイ。神箒を凛のために使わせるなら、その手当てをしなくてはならぬということじゃ”

「手当のために謎解きが必要なんですか?」

“然り”

「そんなの、若青龍さまのご一存で何とでもなるのでは?」


“おまえらが謎を解けば、伊勢の大神様から、新たなる力を賜ることができる”

「メイちゃん。獣神さま方には、それぞれにお役割があるのだよ。日本の総理大臣にアメリカの政策を決められないのと同じだ」

「では…これは伊勢の大神様と、ミコトさんと私のチームの戦いということなんですね」

“…大雑把に言えば、そういうことになる”

「わかりました。解いて見せます。で、今までに考えていたことをお話してもよろしいでしょうか?」

“話してみろ”


「“赤の子は龍の子を開き、龍の子は赤の子を閉じる。これぞ二つの命の理。悪しきもの清らに流れ、真の祭は己が役目を終える”

 この宣託。私が今ここにいる、その元となった解釈はこうです。

 赤の子とは、赤で象徴される朱雀の宿の関係者の子供、つまり私。龍の子とは、清流旅館の継承者。力の強いものは龍の子と称されていました。だからミコトさん。

 私がミコトさんの力を開いて、その後どういう成り行きかはわかりませんが、結果、ミコトさんが私を閉じる」


「うん。そう聞いてる」頷くミコト。

「でも、このご宣託、考えてみたら、いろいろな解釈が可能です。まずは“赤の子”。朱雀さまの関係者とするなら…」


  *  *  *


 その頃、京都の一条家では人の出入りが慌ただしくなっていた。

 当主の一条凛の容態が悪くなったからだ。


「おじいさま! しっかりなさってください!」

「……鈴露。今まですまなかった…不条理に付き合わせてしまった…」

「そんなことはありません。どうか…まだとどまって下さい…」


 そこに駆け込んできたのは祭だった。

 大きな箱を抱えている。

「失礼いたします!」

「祭!」

 驚く鈴露をよそに、凛の枕元にひざまずく祭。

 箱を置くと、丁寧に開く。

 そして、微笑みながら凛に告げた。


「清流旅館の神箒でございます。お使いくださいませ、一条の先の宮さま」


  *  *  *


 メイは、若青龍、龍、ミコトに対して自分の解釈を述べていた。

「赤の子とおぼしき朱雀さまの関係者は、私より、まずは祖母の華音なのでは。あるいはその息子たち、私の父か走馬叔父さま。まあ、父は除外かしら…力的にも生活範囲的にも圏外の人だし」


「あ…!」龍が祭壇を見つめる。

「どうかしたの、龍おじさん」

「…いや、何でもない。続けてくれ」


「はい…。もうひとつの解釈は、赤の子=赤子=赤ん坊。赤ちゃんの時に問題が起きた人。凛おじさまと翔太さん

 そして、“龍の子”。これがまた範囲が広いですね。

 龍おじさまの子供。青龍さまの関係者として、龍おじさま自身、翔太さん、駆おじさま、ミコトさん。そして黄龍さまの関係者として、凛おじさま、出雲おじさま、鈴露、麗おばさま」

「順列組み合わせ的にかけて行くのも大変そうだなあ」笑うミコト。


 傍らの龍は、そっと拳を握り、時折祭壇を見つめる。

 だが、ミコトもメイもそれには気づいていなかった。


  *  *  *



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