その11
龍は、淡々と話し始めた。
「私と翼、聖人、大地、充、恭介。“命”を離脱した西園寺関連派閥の5人は、これまで様々な形で検討を続けてきた。西園寺、四辻、久我、花巻、有川の未来、そして清流旅館と一条の未来をだ」
「一条の未来…」メイの脳裏には鈴露の姿が浮かんだ。
「我々が抜けた後、“命”制度を担うのは一条とみなされるだろうが、凛くんはああいう状態だし、凛くん自身も鈴露くんを西園寺に戻したいと考えている」
「え? 鈴露を西園寺に戻したら、一条の力はかなり落ちるのでは?」
「戻すのって、メイさんが言い出したことだよね?」ミコトが笑う。
「そうだけど…鈴露の今の父親と弟は、一条を支えられるほどの力があるんですか?」
「一条を、他の京都勢と一つの“集”にするよう、伊勢には進言してある」
「昔の形に戻すんだ…史緒おばあさまの家が反対しないかなあ」心配そうなミコト。
「史緒ちゃんが、九条の今の宮さま、つまり史緒ちゃんの姉で、咲耶ちゃんの母である清子さんを説得することになっている」
「え!? だって、史緒おばさま、一条がお嫌いなのでは?」
「一条が原因で苦労したのは事実だろう。だが、紗由が書で度々降りてきて、話をするうちに考えが変わったらしい」
「ばあちゃん、あの世から、おばあさまを説得したんだ…すげえ!」
「まあ、あの華織おばあさまですら、紗由には勝てなかったからなあ」笑う龍。
「紗由さんは、そんなに弁が立つ方だったんですか?」
「いや、むしろ非論理的だったな」
「うん。話は飛ぶし、頑固だし」思い出し笑いのミコト。
「でも紗由はね、“命”という制度のために頑なになっていた華織おばあさまの心をほどいた人間なんだ」
「華織さんに何かあったんですか?」
「西園寺華織は、ある意味、あらゆる力を手にしていたとも言える。超常的な能力、美貌、財力。
だが、我々が“命”の力と呼ぶものを巡り苦悩した息子は、その挙句、交通事故で亡くなった。それが私の実の父・天馬だ。
残された私は、華織の弟・保の息子、涼一夫婦の子供として引き取られ、紗由と兄妹となった」
「大変だったんですね、龍おじさまも…」
「大変というか…実の祖母にとって一番大事だったのは“命”の仕事のように見えて、寂しい思いをしたことはあった。でも、それに物申したのは、私ではなく紗由だったよ」
「ばあちゃんが?」
「紗由にとっては、“命”のルールなんて関係なかった。皆が幸せになるにはどうしたらいいのか、それしか考えていなかったよ。幼稚園の頃からね」
「すごい幼稚園児ですね」目を丸くするメイ。
「そんな紗由を一番理解していたのは翔太だった。一般人は、翔太が紗由を選んだことを、きれいな顔と家柄、そんなふうに考えているのかもしれない。でも、違うんだよ」
「じいちゃんは、何で選んだの?」
「胸のピカピカが誰よりもキレイだから。翔太は私にそう告げた。紗由のピカピカがキレイなのは、いつも皆のことを考えているからだ。そう言ってたよ」
「さっすが、じいちゃん」腕組みして大きくうなずくミコト。
「史緒ちゃんも、幼い頃から周囲の大人たちに振り回されながら育ち、頑なな部分も持ち合わせていた。それを解いたのが大地と紗由だったと私は思っている」
「おじいさまもすごいや!」
「大地はねえ、子供の頃は皆が心配するくらいアホっぽく見えて」くくくと笑う龍。「でも史緒ちゃんは、あの上品な顔で一緒に、くねくね踊りとやらを踊ってたよ」
メイとミコトが一緒に上を向いて考える。
どうやら、史緒が変な踊りを踊る場面を想像できないらしい。
「癒しの力というのは、必要とする人間にはわかるってことだよ」
三人はしばし黙っていた。
「さて、肝心の話はここからだ」
龍の言葉に、姿勢をただすミコトとメイ。
「青龍さまは、それはそれは翔太を可愛がっていた。物心つくかつかないからの頃から、神、人、物を大切に思う心が宿っていた翔太。彼が跡取りとなることを、それは喜んでいたようだ…3歳までは」
「何かあったんですか?」
メイの言葉にミコトがハッとする。
「まさか、池に落ちた時…」
「そうだ。翔太はある意味、凛くん同様に、摂理に反する形で、青龍さまの意思で命を長らえた。だが、それは長く続かせてはいけない。自分の命の在り方を知った翔太は、そこで終わりにする道を選んだ」
「じいちゃんは、いつそのことを知ったんですか?」
「数か月前かな。呼び出されて、紗由と一緒に聞かされた」
「なぜ、青龍さまはそれを教えたんですか?」
「翔太を生かす力、真大祭にて流し去る力。その二つを執行するのは、古の青龍さまと若青龍さま、お二人の力の力を併せても難しい。そう判断なさったのだろう。黄龍さまにお力を借りようにも、凛くんの手当てで手一杯だ」
「じゃあ、じいちゃんは、自分の命を放棄したということ?」
「紗由を説得するのに時間がかかったよ」
「そりゃあ、そうだよ。ばあちゃんは、じいちゃんのことが大好きで…」
ミコトがぼろぼろと泣き始める。
「そして、ここからが盲点だったんだ…」
龍は深くため息をつき、ミコトとメイを見つめた。
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