その10
翌日、一同はいったん解散ということになった。
今回、急な招集だったこともあり、一度はそれぞれ予定の調整をはかる必要があったからだ。
「では、皆さん。真大祭の前日に、またここ清流旅館でお会いしましょう」
龍の言葉に、メイ以外の全員が頷いた。
「ま、待ってください!」
「何だい、メイちゃん」
「あの…私がミコトさんを開くのを、皆さんお手伝いして下さるのでは…」
メイの切実な問いに対して答えたのは、なぜかミコトだった。
「必要に応じて、お願いしに行けばいいよ」
「出来ることがあったら、いつでも来てね」
真里菜が言うと、皆は口々に「そうだね」「そうね」と言いながら、裏山に停まっているヘリコプターへと向かって行く。
メイは夕べとは別の意味で泣きたくなってきた。
“それって、振出しに戻っただけ…?”
「メイさんも家に戻って」ミコトが言う。
「な、何で?」
「龍おじさんに、明日、ドラゴンブルに来るように言われてるんだ」
「そうなの?」
「だから、今日は家に帰って大丈夫だよ」
「私もドラゴンブルに行っていいのかしら」
「もちろん」
「で…何をしに行くの?」
「清流旅館と同じように、巫女寄せ宿に使ってるらしいんだ、あそこを。それで、その部屋を見せるからって」
メイはなぜだかわからないが、背筋がゾクッとするのを感じた。
* * *
東京神田の高層ビルのホテル、ドラゴンブルは、清流旅館の系列で、高層階からはスカイツリーが見える。
空にのぼったかのような景色の中で、メイは思った。
“そもそも“開く”というのは何を指すのだろう…”
考えを巡らせている間に、メイは最上階のエレベーターホールに到着した。
そこに待っていたのは、龍とミコトだった。
「いらっしゃい」
ミコトの笑顔にほっとする反面、どこかで緊張を拭えないメイ。
「大丈夫だよ、メイちゃん」龍が微笑む。「ただの祭壇がある部屋だから」
「は、はい」
メイはミコトに尋ねた。
「ミコトさんも、その部屋初めてなの?」
「じいちゃんとばあちゃんからは、入ったらダメだって言われてたんだけど…」
えへへと笑うミコト。
「入ったことあるのね」
「龍おじさんが言う通り、ただの祭壇がある部屋だったよ。何に使ってたのか知らなかったから、ポンポンとお参りして、ちょっと遊んで、それだけだった」
「何をして遊んだんだい?」
「あの部屋…場所によって重力が違うっていうか、空気がぐにゃぐにゃするっていうか…部屋のあちこちで確認してた」
「なるほどね」
龍はふっと笑い、部屋の前で足を止めた。
* * *
その部屋は、龍が言った通り、祭壇があり、というか、それ以外のもののない、だだっ広い部屋だった。
「片付けている途中なんですか?」
メイが聞くとミコトが笑う。
「言ったでしょ。ただの祭壇がある部屋だって」
「そうだけど…これだと何をする部屋かわからないわ。何するんですか、具体的に」
「神様とのおしゃべりかな」龍が答える。
「えーと、神様と交渉して、大きい難を小さい難に変えたりとか?」
「ああ。それが弐の“命”の仕事」
「壱の“命”は?」
「基本的に、神様から聞かされるのは、悪くないこと。世界全体のバランスを見た時に、もう少し、ここがこうなりませんかとか、その手の交渉だね」
「立ったままやるんですか?」
「いやいや。この絨毯を剥がすんだよ。下が畳。そこに座る」
「へえ…」辺りをキョロキョロ見回すメイ。「そう言えば、壁紙とか、柱とか、和風なニュアンスですね、他の部屋と違って」
「青龍さまは和風モダンがお好みでね」
「なるほど…うるさそうですものね、いろいろ」
“うるさいとは何だ”
「え?」
「メイちゃん。ここは筒抜けな場所だから」くっくと笑う龍。
「怒られちゃったね」ミコトも笑う。
「ミコトさん!…青龍さまの声、聞こえたの?」
「あ…聞こえた」
「…何かもうわからないわ」眉間にしわを寄せるメイ。「ミコトさんが聞こえなくなったんじゃなくて、青龍さまが席を外していただけなんじゃないのかしら」
「ご明察」
「そうなんですか!? ミコトさんの力がどこかへ行ってしまったんじゃ…」
「無くなってしまったとは誰も言っていない」
「でも、そう思ったから鈴露は八方ふさがりになって、あの告白をしたんですよね。皆さんに協力を求めるために」
「そうだよ」
「…って、まさか、それが目的のミスリード!?」
「龍おじさん、人が悪いよ」ミコトが物申す。
「もめごとの種は消しておく。それだけだよ」微笑む龍。
「でも、鈴露も鈴露だわ。日本で一二を争う“命”の割には、周囲の考えが読めないっていうか…」
「鈴露くんの場合、儀式になると段違いだ。そういう発動の仕方なんだよ」
「それも、凛おじさんの影響なんですか?」尋ねるミコト。
「…今からする話は、ここだけの話だ。そのつもりで聞いてほしい」
龍の穏やかな声に、メイは再び背筋がゾクッとする感じを覚えた。
* * *




