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僕は腹を決めて告白する

今回はいよいよ告白です

告白前っていろんな意味でドキドキするのはなんでだろう?

では、どうぞ

 水沢先生の生徒指導の後、僕は昼食を終え、昼休みを何事もなく過ごし、午後の授業もトラブルなく受ける事ができた。そして、放課後─────────


「いつもなら何もなく家に帰って夕飯の用意をするんだけど……」


 今日は水沢先生の連絡を待つことをしなければならない。マンガや小説なら誰もいない放課後の教室や夕日に照らされた保健室が最高の告白スポットだと思うけど、現実はそんなロマンチックには進まない。教室には誰かいるかもしれないし、保健室には保健の先生がいる。この2つ以外にも学校には屋上とか、桜の木の下とか告白するスポットはあるけど、それは空想上の話で実際はグランドには部活に勤しむ生徒がいるし、屋上は教師の許可なしに入れなかったりする


「結局は近くの公園とかで告白するしかないんだけど、僕の場合は相手が相手だからなぁ……」


 後輩、同級生、先輩なら近くの公園でもいいんだけど、相手は教育実習生だ。普通の女子大生だったら後輩、同級生、先輩と同じでもいいんだけど、教育実習生ともなると告白する場所を考えなきゃいけない。メールでもいいんだけど、万が一という事もある


「厄介な立場の相手に好意を持たれ、厄介な立場の相手を好きになってしまった……」


 今更ながら後悔している。水沢先生が同じ学校に通う生徒なら教室だろうとどこだろうと呼び出して告白なりなんなりする。だけど、相手は教育実習生だから苦労する


「実習生が来た時からは考えられないよなぁ……僕が教育実習生に好意を寄せられ、好意を寄せる事になろうとは」


 教師も教育実習生も大嫌いだった。だけど、教育実習生の水沢葵衣じゃなくてどこにでもいる女の子の水沢葵衣として見たらどうだろう?考えるのに僕は誰からヒントをもらわずに1人で決めたっけ……


「人間の価値観が変わるって僕が身を持って証明してしまった……」


 水沢先生からの連絡を待っている間、僕は自分が身を持って人間の価値観を証明してしまったことに対し、溜息が出てしまった。


「おっ、終わったかな?」


 公園で1人で迷走していたところに着信が鳴り、迷走を一時中断


「水沢先生からか」


 メールの差出人は水沢先生で内容が『今、終わりました』の一文だけ。水沢先生からしてみれば告白の返事を今日されるわけだし、大体、学校が終わったという内容の連絡を長文で送る意味はない


「了解しました。通学路の公園に来てくださいっと」


 場所を指定したメールを送り、携帯をしまう。一緒に歩いてるところを見られたところで偶然会ったと後で言い訳できるから一緒に歩いていて見つかったところでどうということはない。だけど、それが告白しようものなら話は違う。泣かれでもしたら言い訳をすることが難しくなる


「さて、学校からここまで5分くらいだし、待つとしますか」


 時刻は午後5時。実習最終日だし、実習日誌を学校に提出して帰宅するだけだから遅くまで残れって言うバカな教師はいないだろう


「こ、光晃君!お待たせ!」


 やって来た水沢先生は息を切らし、若干汗ばんでいた。そんなに急ぐ事ないのに……


「いえ、そんなに待ってませんから」

「そ、そう、ならよかった……」

「とりあえず、移動しましょうか?」

「え?ここで話をするんじゃないの?」


 僕の移動しようという提案に目を丸くする水沢先生だけど、こんなところで告白したら他の生徒に見つかるかもしれないし、泣かれでもしたらご近所の目もある。喫茶店とかだとご近所じゃなくて他の客の目があるしね


「ここで水沢先生の告白に返事をして他の生徒や学校関係者に見つかりでもしたら大変でしょ」

「そ、そうだね、移動しよっか」


 僕と水沢先生は公園を出て、僕の家へと向かう。僕の家なら見られて真理姉さんだけだし、真理姉さんなら学校に報告するなんてしないだろうし、したとしたら今度は真理姉さんの監督責任を問われるかもしれない


「…………」

「…………」


 移動中の僕と水沢先生は無言だった。無言になるのも仕方ないか……水沢先生は告白の返事がYESかNOかでドキドキだし、僕は僕でどう話をしたらいいかを迷っているし。とてもじゃないけど、家まで話ながらなんていう気分じゃない


「つ、着きましたね」

「そ、そうだね」


 普段、教師や教育実習生に絡まれた時はスラスラ言葉が出てくるし、水沢先生や真理姉さん、秀義から離れようとした時だって熱くなってはいたもののスラスラ言葉が出てきた。けど、今は言葉が出ない


「お、おじゃまします」

「ど、どうぞ」


 鍵を開け、中へ入るけど、それもどこかぎこちない


「お茶持って行きますから水沢先生は僕の部屋へ行っててください」

「お、お構いなく……」


 水沢先生を僕の部屋へ上げ、僕は飲み物を用意する。水沢先生は緊張してたみたいだけど、僕も緊張している


「お、お待たせしました、水沢先生」

「あ、いや、そんなに待ってないよ」


 これから僕、この人に告白するんだよなぁ……小説の主人公ならこのあと気の利いたことを言うんだろうけど、僕は小説の主人公じゃない。


「僕は小説の主人公でも恋愛経験豊富でもありません。なので単刀直入に言います」

「うん」

「僕は教育実習生の先生から告白をお受けする事はできません」

「や、やっぱり迷惑だったよね?私からの告白なんて……ごめんね!もう帰るから!じゃあね!」


 泣きそうな顔で部屋を出ようとする水沢先生だけど、僕の話はまだ終わってない。いや、むしろここからが本番だ


「水沢先生、話はまだ終わってません。むしろここからが本題なんです」

「で、でも、私失恋しちゃったし……」

「先生、人の話は最後まで聞けって教わりませんでしたか?」

「そ、それは……そうだけど……でも……」


 僕は教師と教育実習生が大嫌いだ。人の話は聞かないし、自分の価値観を押し付けてくるし、授業がつまらないのを棚に上げて説教してくるし。教育実習生を好きになることはない。僕は今までそれを貫いてきたし、これからもそうするつもりだ。


「僕は教師や教育実習生は大嫌いです」

「うん」

「人の話は聞かない、自分の価値観は押し付けてくる、授業で居眠りしてたら自分の力不足を棚に上げて生徒を一方的に説教してくるし。ハッキリ言って教師や教育実習生に恋愛感情を向けられても迷惑です」

「じゃあ、私が好きって言ったことも……」

「ええ、()()()()()()水沢葵衣に好意を向けられても迷惑でした」


 僕の言葉を聞いた瞬間、水沢先生は声を出さずに泣き出してしまった。話の途中で泣かれるのはちょっと……泣かせている僕が言えた立場じゃないけど


「やっぱりフラれちゃった……」


 涙声になっている水沢先生は恐ろしくネガティブだから結論を言ってしまおう


「教育実習生の水沢葵衣から好意を寄せられても迷惑ですが、1人の女の子の水沢葵衣なら僕は好きです!」

「え……?」

「水沢葵衣さん!」

「は、はい!」

「好きです!!僕と付き合ってください!!」


 回りくどい告白の仕方だけど、これが僕だから仕方ない。教師や教育実習生は大嫌いだ。もちろん、水沢先生も例外じゃない。教育実習生だし。でも、1人の女性の水沢葵衣に僕は惹かれていった


「はい!!」


 こうして僕と水沢先生────葵衣さんは恋人同士になった


「これで恋人同士って事でいいですか?水沢先生?」

「恋人同士になったんだし、私の教育実習はもう終わったんだよ?葵衣って呼んでよ」

「あ、葵衣さん」

「さんはいらないよ!私を利用しようとした時みたいに呼び捨てで呼んで!」


 実習初日にオドオドしていて実習期間中はほぼ依存状態だった人が恋人同士になった瞬間、急に強気になったぁ……


「わ、わかりましたよ。葵衣」

「敬語もいらない!」

「わかったよ、葵衣」

「うん!光晃!」


 この人は男を尻に敷くタイプかもしれない。なんて事は置いておいて、この人は僕のどこが好きなんだろう?


「ところで葵衣」

「何?光晃?」

「葵衣は僕のどこを好きになったの?ハッキリ言って僕って女性から好かれる要素皆無なんだけど」


 僕が女性なら絶対に周囲に冷たい奴なんて好きにならない。秀義みたいな奴も好きにならないけどね


「何だかんだで面倒を見てくれたり、大嫌いな教育実習生でも助けてくれたりするところ」


 僕は自分に火の粉が降りかからないようにしてるだけだし、教育実習生を助けたと言うよりは教育実習生のサポートが授業をサボった罰だから自分で実習生のサポートをしたいと志願したわけではない


「僕は自分に面倒事が来ないようにしているだけだし、教育実習生を助けたって言ってもそれは授業をサボった罰だからそうしただけなんだけど……」

「じゃあ、どうして美咲の指導案の手伝いをしたの?あの時、断わることだってできたよね?」


 そりゃ、羽山先生の手伝いを断るって選択はできた。けど、それをしなかったのは北南高校の教師がいかに仕事をしてないかを証明したかっただけ。ただ、それだけ


「羽山先生の手伝いを断ることはできたけど、それをしなかったのは北南高校の教師が仕事をしないってことを証明したかっただけで深い意味はないよ」

「ふふっ、そういうことにしておいてあげる」


 どこか嬉しそうな表情を浮かべている葵衣だけど、どうしてかな?


「どうして笑っているかを聞こうか?」

「光晃って本当に優しいなと思ってね」

「優しい?僕が?」


 僕のどこをどうしたら優しいって印象を受けるんだろう?


「うん!小谷先生や名倉君の側から何だかんだ言っても離れないでしょ?」

「あー、それね。別に真理姉さんや秀義の側を離れないのはまぁ、気まぐれかな?」

「私と付き合ってるのも気まぐれなの?」


 捨てられた子犬みたいな表情で僕を見ないでほしいんだけど?数分前に告白したのにどうして気まぐれだと思うの?


「葵衣は僕が好きで告白したんだよ。気まぐれじゃない」

「でも、私が学校で告白した時はフッたよね?」

「その訳はちゃんと話したでしょ?」

「フッたよね?」

「はい」


 実習中の葵衣なら言いくるめられたけど、今の葵衣は言いくるめられる気がしない


「学校でフッた訳をちゃんと聞こうか」

「その訳を話す前に葵衣は実習先の学校で『彼氏・彼女はいますか?』って質問された時にどう返せばいいって教わった?いや、そもそも、それ自体を教わった?」

「い、一応は」

「どう教わったの?」

「彼氏・彼女がいるかどうかはなぁなぁな答えにしなさいって教わったよ」


 対処法は教わって来たみたいだ。どうしてそう答えなきゃいけないかも知ってると見て間違いないだろう


「まぁ、教育実習生に告白してしまう生徒もいるだろうし、彼氏・彼女がいるかって質問だけで時間を使ってしまうからなぁなぁで答えろっていうのは間違いないよ」


 北南大学は教えるところはちゃんと教えているみたいで安心安心


「で?どうして学校での私の告白を断ったのかな?」

「嫌で断ったんじゃなくて、学校側にバレたら葵衣の実習が打ち切りになってしまうかもしれないし、公私混同して僕を休み時間毎に呼び出して関係を疑われかねないから」

「そ、そう……」

「ところで葵衣」

「何?」

「何だかんだでもういい時間だけど、帰らなくて大丈夫?」

「うん!だって私、今日からここに住むから」


 僕はこの日、恋人ができたと同時にその恋人と一緒に住む事が決定してしまった。いつの間に半同棲が決まったんだろう?

今回は告白でした

教育実習生としての好意は迷惑だけど、1人の女の子としての好意なら嬉しい光晃

何だかんだで素直じゃないというか、肩書きじゃなくてありのままを受け入れたと言いますか……教師に歯向かうくらいだから相当ひねくれていると思う

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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