騎士団長と宰相補佐
毒に関しての知識はないので間違えていたらすみません
一日目
痺れる効能を持つ毒を投与
濃度 1 (濃度は全部で5段階にて表記)
症状:投与三分にて痺れを訴える
手足の痺れのみで、呂律は問題なく回っている
視界も問題なし
二日目
痺れる効能を持つ毒を投与
濃度 2
症状:投与五分にて痺れを訴える
手足の痺れのみで、呂律は少しうまく回っていないようだが、会話可能
視界も問題なし
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五十九日目
呼吸器官を害する毒を投与
濃度 3
症状:投与後7分にて軽度の呼吸困難
視界もおぼつかず会話も不可
解毒薬を投与十分後に処方
六十日目
呼吸器官を害する毒を投与
濃度 3.5
症状:投与後九分にて呼吸困難後、吐血
視界は辛うじて、会話は不可
解毒薬を投与十分後に処方
ある日、アーサーベルトは、ヴェルナーに呼び出された。
月が天に上ったころ、彼はろうそくの光と共に沢山の書類を持ってきて、それをアーサーベルトに渡した。
そしてそれを黙々と読み続けると、アーサーベルトの顔色は蒼白となっていった。
「・・・・・・・なんだ、コレは・・・!!」
アーサーベルトは、持っていた紙の束を握りつぶしそうになった。
目の前には、その書類を渡してきた男―――ヴェルナー―――がいる。
「見てのとおり、殿下の記録だ」
「なんで、こんなことを・・・!!」
アーサーベルトは言葉に出来ない怒りで、全身を震わせた。
なぜ、なぜこのようなことを。
それしか口に出来ない。
「ヴェルナー!!貴様!!
殿下を殺すつもりか!!」
それくらい、酷い内容だった。
痺れ薬から、麻痺毒、筋弛緩毒、場合によっては、心停止すらあり得る。
それを、かの王女に服毒させたというのか。
しかも、ほぼ毎日!?
正直今、イルミナが生きていることが奇跡にも等しい。
鍛錬は今までにもたまにであるが行っていた。
しかし、身体が鈍っていたりする日も、そして急遽これなくなる日もあった。
講義が急遽入ったという言葉を真に受けていた。
変だとは思いつつも、その理由を聞くことをしなかった自分の阿呆さにも怒りが湧き上がる。
怒りはヴェルナーに向けられているようで、本当は自分に向かっているということをアーサーベルトは分かっていた。
それでも、ヴェルナーへの言葉を止められない。
「答えろ!!ヴェルナー!!」
「私だって!!」
アーサーベルトの怒声に、ヴェルナーも怒鳴って答えた。
「私とて!!
出来るならこのようなことはしたくない!!
だが!せねば!
殿下は殺されてしまう!!」
まるで悲鳴のようなか細い叫びに、アーサーベルトは息をのむ。
ヴェルナーとの付き合いは長いが、彼がこのように叫ぶのを初めて聞いた。
「アーサー、殿下は、きっと偉大な女王なられるだろう。
しかし、今のあのお方ではあまりにも弱いのだ・・・!
城で冷遇され、後ろ盾のないあのお方は、いくら我々が能力が高いといっても、それだけでは駄目なのだ!!
信頼できるものを得る前に、馬鹿な貴族によって病死させられる可能性だってあるんだ・・・!」
その言葉に、アーサーベルトも言葉を失う。
彼が、そこまで彼女のことを考えているなんて、思いもしなかった。
ヴェルナーが誰かに肩入れすることはほとんど無い。
現王も、宰相も、誰も彼の心には入れない。
アーサーベルトは昔なじみなので比較的に心を許されているほうだが、どちらかというと悪友とか戦友という名が当てはまる。
平民の自分が、ヴェルナーに突っ掛かりまくってようやく手にした、その立場。
だからこそ、彼を知っている。
その、ヴェルナーが。
「ヴェルナー、お前・・・」
悔しさを滲ませた表情で、ヴェルナーがアーサーベルトを睨む。
「お前の言う通り、あのお方は素晴らしい方だ。
もっと、沢山の人に認められ、愛されるべきだ。
その能力だってある。
ただ、今の城はあの方にとって針の筵でしかない、私たちだって、彼女を助けてやれないのだぞ・・・!」
血を吐くようなその絶叫に、アーサーベルトはあぁ、と少し嬉しく思った。
殿下、殿下、あなたを想うものが、ここに一人増えましたと。
「・・・お前の気持ちも考えず、すまなかった・・・。
私も、あのお方を鍛えている間、同じように思ったのにな・・・」
そう、あの小さな体を、何度も傷つけたのは自分も一緒だ。
その度に彼女は、フラフラになりながらも立ち上がった。
その姿に、自分は心を打たれたのだ。
「血を、吐く殿下を見て、後悔した・・・もういいと、止めてしまいましょうと・・・。
言ってはならない言葉だとわかっていても、それでも、言いそうになった」
ヴェルナーは告白するように言った。
言ってはならないと分かっていても、言いたくなったその言葉。
それが彼女の努力を否定するような言葉だとわかっても、言いそうになってしまった。
「しかし殿下は、自分の為にやっていることでしょうと言って・・・、
そんなに責める必要はない・・・感謝しているのだと・・・!」
あの小さな体は、どれだけの悲鳴を飲み込んだのだろうか。
どれだけの悲しみを、涙を、独りで飲み込んだのだろうか。
それを、知っている人はいるのだろうか。
そしてそれを助けられない無力な自分に腹が立つ。
次期宰相と呼ばれておきながら、しかし補佐でしかなく。
何一つ決定権を持たない。
自分に出来るのは、裏からちょっと手を貸すだけ。
ヴェルナーは、初めて中途半端な立場の自分を呪った。
宰相であれば、位の高い貴族であれば。
彼女の後ろ盾になることだって出来たというのに。
ヴェルナーが深い悔恨に飲まれそうになっていると、それをアーサーベルトが止めるかのように強く言った。
「ヴェルナー、
私たちは、強くならねばいけない・・・!
あのお方を、お守りできるくらいに」
アーサーベルトは目を潤ませながら言った。
そうだ。
自分たちは、まだ彼女の後ろ盾になれるほどの力を有していない。
二人は確かに能力が高い、しかし若すぎるのだ。
長きに渡ってその世界に身を置いている貴族や宰相に太刀打ちできるほどの経験は、まだ得られていない。
だが、経験は得られるものなのだ。
「・・・ッ言われなくとも・・・!」
小さな彼女が、頑張っているのだ。
自分達が頑張らないでどうするのだ。
少しでも、あのお方の傍に近づけるように。
そうしてのちに、ヴェルムンドの双璧と呼ばれる二人は満月の夜の下誓い合った。
生まれも、育ちも何もかも違う二人を、その後もつなげ続けたのはある一冊の記録だと、知るものはいない。