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梔子のなみだ  作者: 水無月
王女時代
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かのじょののぞみ





「お姉さまはどこ?」


「申し訳ありません、お疲れの為、村に療養に行かれたとのことです」


「宰相はどこ?」


「申し訳ありません、そちらに関しては不明です」


「ウィルはどこ?」


「申し訳ありません、ウィリアム様は政策の為に多忙にされているご様子です」


「・・・お父様は、どこ・・・?」








心細くて、涙がこぼれる。

どうして、誰も傍にいないの。

メイドや騎士じゃないの。

どうして、どうして。

女王になんか、なりたくない。

ウィルと結婚する為には、女王にならなきゃいけないみたいなことを、お姉さまは言っていたような気がするけど。

でも、ウィルは傍にいてくれない。

どうして、どうして。


なぜ、誰も傍にいないの?








**********************








「では、説明する」


「お願いします」


グランは何枚かの用紙を用意した後、イルミナに告げた。


「まず、政策はヴェルナーを中心にブラン公爵にアリバル侯爵が補助として進めている。

 アーサーベルトは、城の警備と宰相に関しての情報収集をしていると聞いている。

 宰相は独房にて拘束中だ。

 彼は、お前を手に入れる為に長い間これを計画していた可能性がある。

 そのために、王にリリアナを女王とするように進言したのもやつだ。

 この件に関わっているのは、先ほどいった人物たちだ。

 アウベールの村長、そして一部の村人は大まかな状況は知っているが詳細は知らせていない。

 陛下には詳細を伝えてあるが、王妃は大まかに。

 リリアナ殿下には何も知らせていない」


イルミナはそこまで聞いて、自分はいらないのではないかと考えてしまった。

政策だって、ヴェルナー達がいれば安心だ。

しかも、アリバル侯爵とブラン公爵が手を貸してくれるなんて思いもしなかった。


「そう・・・。

 ありがとう」


イルミナは胸中の思いは口に出さず、それだけ口にする。

両陛下は、何も言ってきてないのか、と他人事のように思いながら。


「イルミナ、

 何を考えている?」


グランはそんなイルミナの状態を看過し、問うた。

ぎくりと、肩を揺らす。


「・・・出来るのであれば、お前には城に戻ってほしいと考えている。

 それは、私だけの意見ではない」


「・・・?」


「アリバルも、ブランも。

 お前だから力を貸すことにしたと言っているのだ。

 ヴェルナーも、アーサーも。

 お前が帰ってくると信じて、城に留まっている状態だ。

 ここの村人にも聞くと言い。

 女王になってほしいのは誰かと。

 もう、家族に愛されるために、居場所を探す必要などない」


「っ!!!!」


それは。

イルミナが誰にも言わなかった本音だ。

自分でそれに気づき、そして絶望した。

どうして―――。


「・・・最初から何となくではあるが、気づいていた。

 だから、裏切らないだろうとも思っていた。

 お前は、家族から愛されたかったのだろう?

 その為ならば、女王となって認められることをすると決めるぐらいだからな。

 だから、逃げ出さないだろうとも思っていた」


「・・・、な、んで・・・」


呆然とするイルミナに、グランはまっすぐな瞳を向けた。


―――ハーヴェイの知らない、イルミナの本当の望み。

  それを知るものが居ない限り、グランはイルミナにとっての唯一となれるだろう。

  そうして依存した後であれば、誰が彼女の望みを知ろうと関係ない。

  既に彼女は自分のところにいるのだから。



「・・・イルミナ、どうするか決めよう。

 あと数日もすればお前の十六の誕生日だ。

 決めなさい、これからを。

 政策を続けるのか、逃げるのか。

 ヴェルムンドに残るのか、捨てるのか」


「―――!!」


刃物のような言葉に、イルミナは恐怖する。


「私から言えるのは、

 両陛下はお前が女王となり、全てから認められるようになっても愛すことはないだろう」


「―――っ」


知っていたけれど、他人に言われるとこんなにも傷つくのか。


「リリアナ殿下が女王になれば、何人かの貴族は領地に戻る。

 もちろん、私も」


「・・・」


イルミナの頭は、真っ白だ。

何も考えられない。

それでも、わかっていた。

そうなってしまうことを。

そして、それを少しだけ嬉しくも感じる。

イルミナだからこそ、力を貸してくれるという人が居ることに。

そしてそう考える自分を、ひどく汚れたものに感じた。


厳しい目でイルミナに話した後、グランは目元を和らげる。

それだけで、だいぶ印象が変わることにイルミナは気付いた。


そして、そっとイルミナの手を取る。


「・・・これは、私の、わがままだ」


グランはそう切り出した。


「出来るなら、私と領地に行って欲しい・・・。

 これ以上、お前を傷付けるだけの城など棄ててしまえばいいとすら思う。

 政策だって、私が裏から何とかしよう。

 君は、私とともに領地で過ごしてくれればいい」


そう言って、深く息を吐きながら目を閉じるグランに、イルミナはくらくらした。

正直イルミナには分からなかった。

いつの間に、彼は自分にこの様な熱い言葉を贈るようになったのだろうか。

出会った当初から気に入られていたのは知っているが、それでもこのような言葉を送ってくる間柄ではなかったと記憶していたが。


顔を赤く染め上げるイルミナを見て、グランはにやりと笑った。


「!!」


その少しだけ意地悪そうな表情の中、愛しくて仕方ないという瞳が逆に羞恥心を誘う。


「そんなに時間はあげられないが、ゆっくり考えなさい」


グランはそういうと、イルミナの手を放した。

そのことになぜか少しだけ寂しさを覚える。

イルミナのその寂しげな表情を見たグランは、苦笑しながら寝台に片手を乗せ、体をイルミナに近づける。


「―――――いい夢を」


そうして微かに頬に当たる、柔らかい熱。

呆然とするイルミナを、グランは軽く笑いながら部屋を後にした。










――――――きす、された・・・?


呆然とするイルミナの脳裏には、先程のグランの意地悪そうな笑顔が焼き付いている。

悶えてはじけ飛びそうな心に、イルミナは挙動不審になる。

もし、自分が彼と共にいることを選択したら・・・。

そのことを考えて、一瞬で頭は沸騰しかけた。

しかし、それによって生じる事を想像すると、それも一瞬で沈静化した。


「どうするのか、か――――」


それはイルミナ自身、未だに見つけられていないものだった。

あの日。

自分の本当の望みというものを知ってしまった日以来、以前よりかは女王という座に執着はしていない。

だからと言って、政策から外れることなど考えてもいない。

自分が認められるきっかけとなったのだ。

中途半端にするなど、ありえない。


しかし、と考える。

リリアナが女王になれば、グラン始め何人かの有力貴族は王都から離れてしまう。

そんな状態で、政策は上手くいくのだろうか。


考えてみれば、イルミナは女王となるために視察やらいろいろしていたが、リリアナはしているという話を聞いたことが無い。

そもそも、宰相はリリアナの力を認めて言ったわけではない。

そんな状態で、リリアナが女王になっても国は大丈夫なのだろうか。


ぐるぐるといろんな考えが頭を駆け巡る。


そう言えば、ラグゼンのことも考えねばならない。

彼は自分に求婚している、はずだ。

万が一それを了承したとして、きっと自分はラグゼンファードに行かねばならないだろう。


・・・いや、行くこともできるのだ。

王弟である彼は、自身の国の為にイルミナを欲している。

それに乗ることの何が悪いのか。

利害の一致、とでもいうのだろうか。

それで何がいけない、と脳内で声が響いた。


自分を良い様に使う国を、捨てることの何が悪いのだ、と。


「っ!!」


頭を勢いよく振る。

そんな、ことを。


もう、どうすれば正解なのか、わからない。

どれもが正解のように見えて、不正解のようにも感じる。

イルミナは答えが欲しいと切実に思った。

そうすれば、こんなに考えなくて済むのに。


前まではこんなことを考えなくても良かった。

だって、女王になればすべてが解決すると思っていたから。

でも、それは違うということを知ってしまった。

考えなくては、いけない。


アリバルにも言われていただろう。

流されたままでいいのか、と。


きっと、よくない。

流される人間が、どうやって国政を担おうというのだ。


いや、そもそも自分には婚約者など早いのかもしれない。

イルミナはそう考え始めた。

ある意味逃げの考えだが、今すぐに決めなくてはならないというわけでもないだろう。

確かに、次を残すために出来るだけ早いうちに婚姻を結ぶことは理想だが、リリアナだっているのだ。

自分が焦って決めることで、悪手になる可能性だってあるのだから。


王は、良縁を探すと言っていたが、今回の件できっとそれもないだろう。

万が一、そのような話が合っても今回のことを引き合いに出して断ればいいのだ。


そこまで考えて、イルミナはふと考えた。

もし。

もし、自分が何も気にしないで好きなことをしていいと言われたら。

どうするのだろうか。

愛に生きることも、国の為に生きることも自由に選べる立場だったら。

だったら、自分はいったい何を選ぶのだろうか。







「・・・・・・」



答えは出なかった。


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