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梔子のなみだ  作者: 水無月
女王時代
154/180

訪れる人たち

マリーネアとテオドアの関係を修正いたしました、申し訳ありませんでした!



「招待いただき、誠にありがとうございます、イルミナ女王陛下。

 お元気そうで何よりです」


「こちらこそ、遠路はるばるいらっしゃって下さり、感謝します、ラグゼン大公」


翌日、ラグゼンファード王弟であるハーヴェイ・ラグゼンが到着した。

貴賓である彼は、今回は城での滞在になる。

予定された滞在期間は全部で八日間だ。


「ラグゼンファード王からも祝いの言葉を預かっています」


「ありがとう、サイモン王にも感謝を」


公的な謁見の場であるその場では、二人は対等な立場ではない。

イルミナは一国の王で、ハーヴェイはあくまでも王の弟だ。

色々あり、互いに腹に一物あってもその場では和やかに会話は終えた。




「久しいな、以前より顔色がいい」


「そうでしょう。

 前回いらっしゃっていただいた際には色々とありましたからね」


公的な謁見を終えると、イルミナとハーヴェイ、そしてアルマとグランの四人の個人的なお茶会が開かれた。

アルマは席に着くことなく、ハーヴェイの背後に立っているが。

そしてアーサーベルトも同様にイルミナの背後にいるが。


「こんなに早くなるとは思わなかったな」


「一日も早い後継者が望まれていますからね」


ハーヴェイの苦笑を込めた一言を、イルミナはさらりと躱す。

彼と話している際に、真面目に取りすぎるほうがいけないのだと前回学んだせいもあった。


「まぁ、それはそうだろうな」


ハーヴェイも気にした様子はなく、そのまま会話を続ける。


「貴方のほうこそ、どうなんですか?」


「俺か?

 まぁ・・・何とかな」


兄の為に役立ちたいと願っていた男は、この国で色々な意味で叩きおられて国へと帰った。

その先で兄王とどんな会話がなされたのか、イルミナには興味がないが面倒ごとを一度持ち込まれた側としては確認しておきたいのももちろんある。


「サイモン陛下にこってりと絞られておりましたよ」


「アルマ!!」


涼しい顔で情報を吐くアルマに、ハーヴェイは慌てたように口止めをしようとする。

しかしイルミナはそれを聞いてにこりと微笑んだ。

いや、どちらかというと冷たい笑みだったが。


「そうですか、それはよろしいことだと思います」


「・・・前からそんな態度だったか?」


「えぇ」


「イルミナ」


あまりにも素っ気ない態度を取るイルミナを、グランが形だけでもと思ったのだろうか、窘める。

しかし本気で窘めていないのは、その表情から窺い知れる。


「一介の従者の身ではございますが、女王陛下、そしてライゼルト様、この度のご成婚、誠におめでとうございます」


アルマも気にしていないのか、飄々と二人に祝いの言葉を贈る。


「ありがとう」


イルミナは冷たい笑みを一転、優し気な微笑みを乗せながら礼を言う。


「アルマ、お前まで・・・」


「ハーヴェイ様は甘やかされておりましたから、少し厳しくするようにとサイモン王からの指示がございましたので」


しらっと言うアルマに、ハーヴェイは一人項垂れた。

二人の力関係が如実にわかる構図だった。

もちろん、非公式の個人的な場であるからこそのものだが。


「・・・でも、貴方も以前に比べれば少しはマシな顔つきになりましたね」


「・・・そこまで俺が嫌いか?」


「珍しいな、イルミナがそこまで言うのは」


イルミナは紅茶を飲みながら言い、言われたハーヴェイは年上のはずなのにと心の中で嘆き、グランはそんな攻撃的なイルミナを新鮮な気持ちで見た。

いつだって温和、というよりかは優しげな印象を持たせる彼女にしては、珍しい。


「嫌い、というよりか・・・、なんて表現すればいいのでしょう・・・。

 同属嫌悪?」


「・・・それは嫌いということじゃないか」


哀愁すら漂わせて言うハーヴェイに、イルミナは苦笑を浮かべた。


「まぁ、本気で嫌いなわけではありませんから」


「・・・そうか」


肩を落とすハーヴェイに、アルマのフォローは入らない。

彼も本気ではないことくらいわかっているのだろう。


「・・・あぁ、そういえば兄上から書状を預かっている」


「サイモン王から、ですか?

 先ほど祝いの言葉を頂きましたが」


「それとは別、だ。

 個人的なもののようでな、直接渡すように言われている。

 もちろん中身は知らんぞ」


ハーヴェイはそう言いながら懐にしまっていた手紙を取り出した。

本来なら一番に出すべきものではないのだろうか。

イルミナはそう思いながらも手紙を受け取る。

内容への心当たりは一切無かったが、変なことではあるまいと信じながら。


「・・・」


「イルミナ?」


手紙を見るなり、難し気な表情をしたイルミナを、グランが心配そうに見やる。


「あ、いいえ、困るような内容では・・・いえ、ある意味困るかもしれませんね・・・」


「内容を聞いても?」


「結果的に言うのであれば、私の政策の話を聞きたいそうです」


「イルミナの?」


「はい。

 出来れば教育関係を主に、だそうです」


手紙の内容はこうだ。

識字率を上げるため、そして国に住まう民の知識を上げるための政策は大変魅力的だ。

それによる国の発展は著しいものとなるだろう。

それを我がラグゼンファードでもぜひ行いたい。

しかし同じようには行くとは思っていない。

だが政策の内容を知らねば何もできないだろう。

その為、一度イルミナと対談したい、という旨の内容だった。


「・・・それは、非常に難しいな」


グランはただそれだけを言った。

それにイルミナも首肯する。

話をするだけなら簡単だ。

別に隠匿すべきものではないのだから。

だが、政策は成功していない。

というより、まだまだ模索しながら行っている。

試験のこともそうだし、まだまだ学び舎に関しては決まっていないことが多い。

そんなあやふやなものを教えるわけにもいかないだろう。


「・・・とりあえず、後で返事を書いてお渡しするので、サイモン王にお渡しください」


「わかった」


ハーヴェイはサイモンの行動に何かを言うつもりはないらしく、ただ一つ頷いた。


「ラグゼンファードはどうですか?」


「あぁ、こちらと変わりないな」


含蓄ある言葉に、イルミナはその内容を正確に読み取る。

いうなれば、こちらと同じように一部の貴族が更迭されたのだろう。

イルミナが理解したのを悟ったのか、ハーヴェイは椅子に深く腰掛けながらため息をつく。


「まだすべてが終わったわけではないがな。

 だが、デカいものは粗方片が付いて、あとは引きずりだすだけだな」


「大きいものが片付けば、そう難しいことではないでしょうね。

 小物は小物でしかないでしょう。

 小物を大きくしないのも、必要ですがね」


「あぁ。

 そこらへんは兄上も理解されているだろう」


薬物に関してもそうだが、どうしたって国の中にはいいものも悪いものも入ってくるし、生まれる。

全てを取り締まることなんて出来るはずもない。

だが、出来ないからといって取り締まることをしないという手は悪手でしかない。

そんなことをすれば、国が腐敗する道しかない。

だが、悪を全て排除することは不可能だ。

でも、出来る限り排除を目指さなければならない。

統治者は、そういったことに頭を悩ませながらもいい統治を目指さなくてはならないのだ。


「同盟国である以上、出来る範囲内であれば手をお貸しします」


「有難い話だ。

 兄上にもそう伝えておく」


「もちろん、有事の際には手を貸してもらいますよ?」


「もちろんだ」


こうしてハーヴェイたちとのお茶会を終えたイルミナは、近日中にやってくるハルバートの王太子へと意識を移した。







***************







「お初にお目にかかります、ヴェルムンド女王陛下。

 私はハルバート国王太子、テオドア・ハルバートと申します」


「この度は遠路はるばるようこそおいでくださいました。

 どうぞ滞在中、何かあれば言ってください」


「ご厚意、感謝いたします。

 こちらを、国王から預かっております。

 どうぞお納めください」


「ありがとう」


ハルバートからやってきた王太子は、騎士然とした好青年だった。

黒い短髪に、黒い瞳。

自前に調べた情報によれば、彼はハルバート国内でも完璧な王太子と名高いらしい。

完璧すぎるがゆえに、自国の貴族に嫌われているのだろう。


「よければ後程お茶をご一緒しませんか?」


「よろしいので?」


「もちろんです」


イルミナはテオドアをもてなすためにそう誘いをかける。

それに対して、テオドアが断るはずがない。


「では後程メイドを迎えに行かせますので、それまでご用意した部屋でお休みください」


「感謝いたします」


そうしてテオドアは連れてきた侍従と共にメイドの案内について行った。


「噂通り、好青年のようですね」


傍にいたヴェルナーが彼の姿が見えなくなったのを確認したのち、そう口火を切る。


「ハルバートの王室の方ということですと、陛下の血縁の御方、ということですよね?」


アーサーベルトが確認するようにイルミナに問う。


「あぁ・・・そういえばそうですね」


直接的な血縁関係にはないが、テオドアにとってマリーネアは叔母であり、イルミナにとっては祖母だ。

しかしイルミナはそのことを完全に忘れていた。

先王妃が母であるマリーネアの言うことを聞かずにヴェルムンドに嫁いだことにより、疎遠になっていたのだ。

結婚式に関しても、国のつながりの関係上で招待状を出したが、正直に言ってきてくれるとは思わなかったというのが本音だ。

勿論、出席してくれることに喜びを覚えないわけではないが。


「あとで彼と話をしますから、その時にでも意向を聞きましょう」


イルミナは侍従が持ってきたハルバート王からの書状を開く。

そこには当たり障りのない言葉が並ぶだけだ。

もし何かあるのだとすれば、テオドアがメッセンジャーとしてきたと考えるのが妥当だろう。


「では瑠璃の間でお茶をします。

 手配をよろしく、タイタス」


「かしこまりました」


タイタスは華麗に一礼すると、そのまま部屋を後にした。


「同席はどうされますか?」


「・・・アーサー、隠れてでお願いします」


「卿は?」


「いえ、今回は二人だけでお願いします」


「よろしいのですか・・・?」


「えぇ」


ヴェルナーは少しだけ心配そうな表情を浮かべるが、イルミナの考えを理解したのかわかりましたとだけ言う。

国の王室同士のものだ。

そう下手なことにはならないだろう。

そうして、イルミナは準備が整ったとの報告を受け、アーサーベルトを連れて瑠璃の間へと向かった。





「お待たせしました、女王陛下」


「いいえ」


瑠璃の間には、イルミナが先についた。

そして数分のうちにテオドアがメイドに連れられてやってくる。

爽やかな笑みが好印象を与える。

しかし、その笑みが本物でないことをイルミナは知っている。

だって、目が笑っていない。


「どうぞ、おかけください」


「ありがとうございます」


メイドに紅茶を淹れてもらい、そして退室させる。

アーサーベルトは二人の見えないところで待機している。

ふわりと香る紅茶を、二人は無言で楽しんだ。


「・・・私と、テオドア殿は」


「ハルバート王室の血を持つ血縁者ということになりますね」


「・・・今は非公式の場です。

 どうぞ楽になさってください」


イルミナがそう口にすると、テオドアはにまりと笑った。


「陛下がそう仰られるのであれば・・・。

 何か、私に聞きたいことがあるのでしょう?」


「・・・では単刀直入に。

 正直に言って、今回出席されるとは思いませんでした。

 もちろん、出席いただけることは嬉しいですが、先王妃との件があります。

 なぜ来る気に?」


「本当に単刀直入ですね。

 わが父の言葉を伝えましょう。

 確かに、ヴェルムンドの先王妃様はマリーネア様の意向を無視され、この国に嫁がれた。

 そのことに対して、叔父君はお怒りになられましたし、父も無知な姪だと思われているのは確かです。

 ですが、それと貴女は関係ないでしょう?

 先王たちの件、我々の耳にももちろん入っております。

 それもあって、私に出席するように言われました」


大体の予想はついていたが、やはりそうか、とイルミナは思う。


「陛下は、我々ハルバートの血を汲んでいる。

 確かに、かの件で疎遠になりましたが、これを機に国交を密にしたいと父であるハルバート王は考えています」


「そうですか」


イルミナは薄い笑みを顔に張り付けながら真意を探ろうとテオドアを見る。

そのことにテオドアはすぐ気づき、笑みを深めた。


「裏はありませんよ。

 父は、貴女の境遇を憂いていらっしゃった。

 ですが、それと同じように姪を嫌っておいでだった。

 父の個人的な言葉です。

 ”助けてやらずにいた、すまなかった”とのことです」


「・・・いいえ、そんなことはありません。

 そのことについては病まれませんようにとお伝えください」


「感謝します」


そのことで、ハルバートの手のものが城にいることは窺い知れた。


「これからは、積極的な国交を行い、より良い関係を築きたいと王は考えています。

 その件に関しては、私が全て一任されています」


「・・・その話をされるということは、本気と受け取ります」


「もちろん。

 折角です、私と貴女は親戚ですから、どうぞテオとお呼びください」


「・・・私的な場では、そう呼ばせていただくやもしれません。

 ハルバート王、そして貴方の意向は理解しました。

 こちらでもその話を精査したいと思いますが、いいですか?」


「もちろんです。

 滞在を延ばす許可ももらっていますから、ぜひ答えを国に持ち帰らせてください」


「わかりました。

 では答えは婚礼後になります。

 その期間中、ヴェルムンドのものを付けますので、どうぞ気になられることがあったらその者に聞いてください」


「ご配慮、ありがとうございます。

 ・・・マリーネア様に似た貴女が、幸せであるよう王室一同、願っております」



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