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梔子のなみだ  作者: 水無月
王女時代
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第一王女と村人たち





久しく涙を流すという行為をしてこなかった弊害が、こんなことを起こすとは・・・。





イルミナは久々に泣いたのは良いが、どうやって止まるのかわからなかった。

ぽろぽろと涙を零すイルミナに、グイードは完全に焦った。

そして、パニックになった。


「ななななな、泣くなぁあああああ!!」


そう言って、彼女を持ち上げてぶん回した。


「!?!?!?!」


いきなり持ち上げられたと思ったら、そのままグイードは回りはじめ、イルミナはそれに振り回される。

影のようにイルミナについてきていた護衛は、いきなりのことにどう対処すべきか混乱し、おろおろとしている。

下手に突っ込めば護衛対象であるイルミナが傷つくかもと考えてしまったのだ。

ぐるんぐるん回る視界に、決して楽しいとは思えずイルミナは意識を飛ばしそうになった。


―――アーサーの、訓練より、つらい。


「ひ、ヒメサマ!?」


ぐったりとしたイルミナに気付いたグイードは、慌てて彼女を祖父の家へと連れ帰った。







**************






「ばっっっっっっかもぉぉぉおおん!!!!」


タジールがグイードに雷を落とす。

それをアイリーンはにこにこ笑顔を浮かべながら見ている。

しかしこめかみには青筋が浮かんでいるが。


「殿下を振り回したじゃと!?

 お前何しとんじゃ!!」


「いや!

 ちょっと色々あって!

 気分転換になればいいなって思っただけだろ!!

 てかそれでみんな笑ってんだから!!」


「グイード?

 ちなみに、それは、誰にしたら、笑っていたのかしら・・・?」


「近所のガキ」


パーーーンとアイリーンがグイードの頭をはたく。

その音は、数軒先まで聞こえてきたと翌日噂になった。


「も、申し訳ない、私が悪いのです・・・。

 グイード殿は、むしろ優しくしてくださって・・・」


イルミナは酔ったのか、ぐったりとしたまま椅子にもたれている。

王女にあるまじき姿と分かってはいるが、なにより気持ち悪い。

まだ頭がくらくらしている。


「殿下、こんなおバカに優しくしなくていいんですよ、

 きっちりと教え込みますからね」


「「!!」」


アイリーンの言葉に、家の男たちは震え上がる。


「いいえ、本当に大丈夫ですよ。

 ご迷惑おかけしました・・・」


イルミナはアイリーンに渡された水を一気に飲み干す。

清涼系の薬草でも入れてくれたのだろうか、すっきりとした後味のお蔭で少しだけ気分がましになる。


「それより長殿、グイード殿に色々お話を聞かせて頂いたのですか、よろしいでしょうか」


イルミナは、好奇心を抑えられずタジールに問いかける。


「何でしょうか、殿下」


「この村では治水に関する知識と技術が高いことは知っていましたが、村の誰しもが知っていることだとグイード殿に伺いました。

 ・・・本当ですか?」


「皆ではありませんな、しかしほとんどの者は知っております」


「そうですか・・・。

 教育をされる方がいると伺ったのですが」


「そうですな、老人でそういったことをしておるものはいます」


「理由をお伺いしても?」


「まぁ、ご存知の通り村というのは一つの完成した世界でしてなぁ、

 色んなことを出来るようにならなければならないのじゃ。

 一人一人が役目を持っており、それを行わないと成り立たないものがある。

 だが、一人しかできない仕事なんぞ意味がない。

 そやつに何かあったら、出来なくなる仕事?

 しかし文字なんぞ読める村人も少ないから紙に残しても意味はない。

 なら、出来る人間が教えるのが一番いい道じゃろう?

 それでみんながみんな、自分の仕事のみでなく、万が一何かあった際に手伝えるというわけじゃ」


「・・・素晴らしい考えです。

 可能であれば、その教育の場を視察したいのですが」


「ふむ、明日確かおばばが薬草を教えると言っていたか?」


「えぇ、昼前からやってご飯時には解散予定のはずよ」


「殿下、明日グイードに案内させましょう」


「ありがとうございます、長殿」


イルミナは、自分が知らないことがこんなにもあるのだと脱帽する勢いだった。

しかしこれは非常に大きな収穫となるような気がする。

限りある資源ではなく、育てることの出来る資源。


その瞬間、イルミナの脳裏に一つの考えがひらめいた。

もし、うまくいけば国は一気に何段階か生活の質が向上する。

そして他国にも引けを取らないものともなる。


しかし、これを導入するには色々な壁があることもわかる。

イルミナは起こるであろうことを頭の中で出来うる限り思いつこうとする。

きっと、反対派の方が圧倒的に多いだろう。

貴族はきっと民が力をつけるのをよく思わない。

そうすることとで自分たちの立場が危なくなることを一番に考える人たちもいるだろう。


しかし国としては一人でも使える人間ならば欲しい。

もし軌道に乗れば、この政策はきっと一生ものとなろう。


その為に、必要なものは。


イルミナは考える。




―――これ(・・)を、もし、成功させたら・・・。

  ―――自分は、この国に必要な一人になれるのだろうか。




「殿下、申し訳ありません、お部屋なのですが・・・」


アイリーンが考え込むイルミナに声を掛ける。


「あぁ、ごめんなさい。

 どちらのお部屋を借りれますか?」


「ご用意しているのですが、護衛の方々はどうされますか?

 どちらで警護を・・・」


「問題ありません。

 一人を残して他の皆さんは休暇と言う形にするつもりです。

 それでいいですね?」


「っは、

 では当初の予定通り、我々は馬車の近くで野営を。

 村にいる間は持ち回り式で、一人第一王女殿下に付かせて頂きます」


先ほどから部屋の片隅で黙り込んでいた護衛がそうイルミナに声をかける。

それに驚いたのはタジールだ。


「ええ、宜しくお願いします」


一人だけが護衛につく。

それが今の王族の普通なのだろうか。

タジールは疑問に思う。

自分が知っている貴族は、そのようなことは無かったはず。

だとすれば、王族であればもっとあり得ないことではないのだろうかと。


「では本日は自分が。

 外にいるものに声を掛けてきますので少し、御前を外させて頂きます」


「わかりました」


そう言って外に出る護衛をイルミナは見送った。

そんなイルミナに不思議そうに声を掛けたのはアイリーンだ。


「殿、下・・・?

 その、お一人だけで大丈夫ですか?

 確かに平和な村だと思いますが・・・」


「そうじゃの、万が一にもあってはならぬと思っておるのじゃが」


タジールも後に続くように言う。

しかしイルミナは首を横に振った。


「大丈夫です。

 私にもわずかながらに剣の心得はあります。

 それにぞろぞろと連れていては皆さんお休みになれないでしょうし、威圧的に感じられてしまうかもしれませんから。

 私のことは気にされないで下さい」


そうは言っても、万が一村の中で何か起こればその責任は長であるタジールが負うことになる。

それを心配しての言葉だと気付いたイルミナは、さらに続けた。


「万が一、何かが起こっても全ての責任は私になります。

 なのでご安心ください」


そう言うイルミナだが、タジールたちは安心できなかった。








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