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『バレット・ファントム ~仮想銃姫の覚醒~』  作者: 蒼狐
第2部 弾道の女王

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第17話 Voidの深淵

 Crown Coliseumの第四試合アリーナは、無重力に近い浮遊空間「Void Abyss」に設定されていた。


 Rei Phantomは、浮かぶ無数の破片のひとつに足をかけ、静かに立っていた。

 周囲は完全な無重力空間に近く、崩壊した鉄骨やコンクリート片がゆっくりと漂っている。遠くに暗い虚空が広がり、時折青白いエネルギー雷が走る。重力は極めて弱く、わずかな動きで体が浮き上がる感覚が、零の仮想の身体を不安定にさせる。


 銀髪が無重力の中でゆっくりと舞い、左目に浮かぶ赤い十字が激しく明滅していた。

 義眼の疼きは、今や常時激しく、0.3秒の先読みは2.5秒近くまで伸びていた。視界が現実と仮想で激しく切り替わり、頭痛のような痛みが脳の奥深くまで響き、零の思考を乱していた。


 零は背中に固定したVoid Railgunをゆっくりと構えた。


 この武器は、零にとって特別な存在になっていた。


 Void Railgun——反物質スナイパー。


 全長約2.1メートル、重量約28kg。特殊合金とエネルギーコイルで構成された銃身は、発射時に強力な電磁フィールドを発生させる。弾丸は「反物質弾」——接触した物質を「無」に還す特殊弾頭で、通常の物理法則を大きく逸脱した挙動を示す。


 発射音は重く低い「ヴゥゥゥン……!」というエネルギーうなりで、反動は非常に強く、零の肩を激しく押し戻す。スコープは高倍率の変倍式で、風速・湿度・気温・コリオリ効果まで自動補正するAIアシストが搭載されているが、零はそれをほとんどオフにしていた。自分の感覚と義眼の先読みを信じていたからだ。


 零はゆっくりと息を吸い、吐いた。


 無重力空間での射撃は、通常のマップとは全く異なる。

 反動で体が大きく後ろに流され、弾道予測も難しくなる。

 しかし、零はここでVoid Railgunの本当の力を試したかった。


 試合が開始された。


 敵は、強力な長距離特化チームだった。

 三人のスナイパーと、二人のサポート。すべてが精密射撃に特化した構成だ。


 ヴゥン! ヴゥン! ヴゥン!


 敵の三連射が、無重力空間を切り裂いて零の位置へ飛んでくる。


 零は義眼の先読みで弾道を「視」て、わずかに体を回転させてかわした。破片が体をかすめ、仮想の痛みが走る。


 零は即座にVoid Railgunを構え、反撃した。


 ヴゥゥゥン……!


 重く低いエネルギーうなり。反物質弾が無重力空間を貫き、敵のスナイパーの一人を一撃で蒸発させた。空間に黒い穴が開き、赤いエフェクトがゆっくりと広がる。


 敵チームが動揺する。


 零の心に、強い高揚が湧き上がった。


 ——この感覚。


 Void Railgunを撃つ瞬間、全身を貫く充足感。

 現実では失われた「自分がコントロールしている」という実感が、ここで鮮やかに蘇る。


 しかし、同時に、義眼の異変が零を苛んでいた。


 先読みが長くなりすぎる。

 2.5秒、3秒……視界が現実の部屋と激しく切り替わる。ベッドに横たわる自分の体、Neuro Linkerの異常な点滅、右目の義眼の熱。


 零は歯を食いしばった。


 ——まだ、持て。


 戦闘は長く続き、零はVoid Railgunを駆使して敵を次々と撃破していった。


 ヴゥゥゥン……! ヴゥゥゥン……! ヴゥゥゥン……!


 三発の反物質弾が、無重力空間を貫き、敵のスナイパーをそれぞれ消滅させる。


 反動で零の体が大きく後ろに流される。銀髪が無重力で激しく舞い、息が荒くなる。


 敵の残りメンバーが、零の死角から接近しようとする。


 零は即座にUSP二挺を抜き、接近戦に移行した。


 パン! パン! パン! パン! パン! パン!


 サイレンサー付きの小さな乾いた音が無重力空間に響く。二刀流の高速連射。9mm弾が敵の体を次々と貫く。


 戦いは極限まで続き、零のHPが徐々に削られていく。


 零の心に、複雑な感情が渦巻く。


 高揚。

 恐怖。

 孤独。

 そして、わずかな——成長の実感。


 Void Railgunを撃つたび、零は自分が強くなっていることを実感していた。

 しかし、その強さが、義眼の異変を加速させていることも感じていた。


 現実と仮想の境界が、ますますぼやけ始めていた。


 零は最後の敵をVoid Railgunで撃破した。


 ヴゥゥゥン……!


 反物質弾が敵の体を無に還す。


 【敵チーム全滅 勝利!】


 アリーナに、静けさが戻った。


 零は浮遊する破片に体を預け、荒い息を繰り返した。


 銀髪が無重力でゆっくりと舞い、左目に浮かぶ赤い十字が激しく明滅していた。


 HPは残り21%。瀕死に近い。


 零はゆっくりと目を閉じた。


 胸の奥で、激しい感情が渦巻いていた。


 強くなりたい。

 もっと遠くへ撃ちたい。

 しかし、この能力が、零をどこへ連れて行くのか——恐怖も同時にあった。


 そのとき、視界の端に黒い影が一瞬だけちらついた。


 【Null】


 謎の影は、静かに零の成長を観測し続けていた。


 零は小さく呟いた。


 「……Voidの深淵か」


 仮想の銃姫は、無重力の闇の中で、静かに次の戦いへと目を向けた。


 義眼の赤い十字が、暗い虚空の中で強く輝き続けていた。


(第17話 終わり)

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