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シオン様の初お忍び王都ぶらり旅



 私は正式にシオン様から依頼を受けた。

 あまり長居すると邪魔になってしまうので、とりあえずお悩み相談ギルドから出て、道行く人たちにぶつからないように道の端に寄る。

 お悩み相談よろづギルドは王都の中心地にある。

 中心地は仕事の斡旋所から、食堂から、武器防具店から、洋品店まで、様々なお店が並んでいて賑やかだ。


「シオン様、どこか行きたいところがあるのですか?」


「そうだね、アーチェの行きたい場所なら、どこでも良いよ」


「そうですか……でも私、街歩きに詳しいというわけではないのですよね」


 冒険者初期装備の私と、暗黒呪術師のシオン様と、執事が二人と、猫が一匹。

 不思議なとりあわせの私たちを、ちらちらと道行く人たちが通りすがりざまに眺めていく。

 目立っているわね。まぁ、目立つわよね。シオン様は綺麗だもの。

 けれどシオン様がシオン・ハージェスト王太子殿下だと気づくひとは、どうやらいないようだった。

 目立つのは別に構わない。

 シオン様がシオン様であることに気づかれなければそれで良いのだ。

 なんせお忍びなのだから。

 お忍びというのは忍んでこそなので、気づかれた時点で任務失敗となってしまう。


「私も、街を歩くのははじめてなんだ。だから、実を言えば何がどこにあるのか分からない。頼りなくて、ごめん、アーチェ」


「良いのですよ! そんなことは謝らなくても良いのです。ええと、スケイス、カークス、こういうときはどこに行けば良いのでしょうか」


 私は少し離れた位置にいるスケイスとカークスに尋ねることにした。

 二人に視線を向けると、スケイスは壁際にもたれかかってアロマパイプをふかしていて、カークスは抱っこしているメリサンドを見せてと、子供達に群がられていた。


「何故私たちに聞くのですか、お嬢様。デートなんですから、二人で考えてくださいよ」


 スケイスはお仕事中なのに、ぷは、と口からアロマの香りのする煙を吐き出しながら溜息をついた。

 アロマパイプは、魔力量の多い魔導師の方々が好んで使用する、魔力安定剤の一つである。

 私にはよく分からないけれど、魔力量の多い方々は魔力を持て余すと不調になってしまうらしく、それをおさえるために特殊なアロマを吸うことで、溢れる魔力を鎮めているらしい。


「デートではありません、護衛です」


 そう、これはデートではない。

 勘違いしそうになったけれど、口に出さなくて良かった。

 私だけ浮かれていることに気づかれて、恥ずかしい思いをするところだった。


「武器屋などはどうですか、お嬢様」


「武器屋さんですか……」


 生真面目にこたえてくれるカークスに、私はなんとかえして良いか分からずに、曖昧に言葉を濁した。

 デートで、武器屋。

 いえ、デートでは無いのだけど。

 でも、武器屋。


「申し訳ありませんお嬢様。俺も、武器屋ぐらいしか普段行かないので」


「私も酒場ぐらいしか普段行かないので」


 カークスの言葉に続き、スケイスも片手をあげて言った。

 酒場に武器屋。

 武器屋は良いとしても、酒場は論外だろう。


「アーチェは、年頃の女の子らしく、行きたい場所はないのですか?」


 子供達に大人しく撫でられながら、メリサンドが言った。

 子供達が「猫ちゃんがしゃべった!」と吃驚している。カークスが「賢い猫は喋る」と、苦しい言い訳をしている。


「年頃の女の子らしく……?」


「アーチェは、どこに行きたい? 服が見たい、とか。宝石が欲しい、とか。……あまり、他に思いつかないな。城の中の女性達は、服や宝石が好きだけれど、アーチェは」


 シオン様に尋ねられたので、私は首をひねった。

 行きたいところ、好きなもの。


「そうですね、それなら、まずはお茶を飲みましょう。お茶を飲んで甘い物を食べて、お昼ご飯に美味しいものを食べて、それから、昼過ぎに甘い物を食べて」


「食べてばっかりじゃないですか」


 年頃の女の子らしいことを言ったら、スケイスに呆れられた。

 年頃の女の子は甘い物が好きだと思うのだけれど、違ったかしら。


「お茶だね。行こうか、アーチェ。スケイスも、カークスも」


「俺たちは、店の外で待っています」


「邪魔をしたいわけじゃないんです。お嬢様とシオン様を二人にするのが心配というだけで」


 カークスとスケイスが顔を見合わせる。

 シオン様は口元はマスクで隠れていて見えないのだけれど、目を細めた。

 多分微笑んだのだと思う。


「私は、皆で一緒に話がしたい。賑やかな方が、楽しいと思うけれど、駄目かな」


「もちろん構いませんよ。カークス、スケイス、良いですよね?」


 シオン様の健気で優しい言葉に、私はシオン様の我が儘は全部かなえてさしあげたいと、心から思った。

 なんだろう。

 よく分からないけれど、私はシオン様に結構弱い気がする。

 たぶん、私の方が強いし、私よりもずっと頼りなさそうに見えるからだろう。

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