織鉉 エンド
「なぜお前が彼女を?」
「偶然助けただけです。勘違いしないでもらえますか、見知らぬ方」
「……」
■
目がさめると私は祖母の家にいた。
「大丈夫ですか」
「織鉉さん……?」
彼が意識を失った私を助けてくれたようだ。
「急に起きあがるのはよくありませんよ」
「……すみません」
彼は私を運んでからどのくらいここにいたんだろう。
「いいえ」
「あの、両親は?」
随分静かだな、と耳をすます。
「家の方は留守だったようで、気がつくまで診ていたほうがいいと思ったんです」
「助けてくださってありがとうございました」
ゆっくり起き上がり、頭を下げた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
母達が帰宅したらしい。どうやら四人だけで、縒彦さんはいない。
「あらその美形さんだれよ彼氏?」
「違うよ神主さんだし恋愛禁止でしょ」
私がそういうと織鉱さんが微笑を浮かべながら母に事の説明をした。
「では私は失礼いたします」
「わざわざありがとうございました~」
母は隠しきれないほど上機嫌である。
浮いた話のない女子高生がイケメンと話していたら彼氏認定をしたくもなるだろうけど。
「……」
「あらおかえりなさい縒彦くん」
やはり彼も外出していたらしい。
姉が狐憑きで最近は女子高生に包丁を向けたとかで警察のお世話になったという。
そのどうしようもない醜聞もあり、彼は外出を控えていたようなのだが……。
「……知り合いが訪ねてきた」
「あ……」
あまり友人がいるタイプではないし、居るなら向こうよりこちらにいそうだ。
「……さっきの男は知り合いか?」
おそらくは帰る頃に織鉱さんとすれ違ったのだろう。
「どこかの神主さんです」
「そうか……」
彼は神社の息子だから、どこの神社なのか気になるのだろう。
■■
「あ、いた」
翌日、お礼をしに彼のいる神社をたずねた。
「こんにちは」
「あの、昨日はありがとうございました」
軽く頭を下げると、困ったような顔をする。
「私は当然の事をしただけ……なんて、月並みですが」
「いえ、本当に感謝しても足りないくらいですよ!」
なにかお礼をしたいと思って辺りを見渡す。
「あの、よかったら神社のお掃除を手伝わせてください」
「え?」
彼は困った様子で考えている。掃除がお礼じゃ変だったのだろうか?
「ご迷惑ですか?」
「お気持ちは有りがたいのですが、この神社は女性の神様ですから……」
――もしかしたら私が彼と話したから神様が怒って気絶したのかもしれない。
それなら神社の事に関わらないほうがいいよね。
「でも縁結びにはいいんです。よかったら拝まれませんか?」
「じゃあ好きな人が出来ますように、でもいいんですか?」
特定の好きな相手がいるわけでもなし、ガツガツ彼氏がほしいわけでもない。
気長に運命の相手が現れるのを待つのもいいだろう。
「そうですね、特に出会いをお願いする方もいます」
私は5円を賽銭箱へ投げて鐘を鳴らし、神様にお願いした。
「私もご縁がほしいものです」
「神主さんかっこいいから女神様がゆるしてくれないんじゃないですか?」
私がからかうと、織鉉さんは苦笑いを浮かべる。
「恋といえば今日は恋愛ドラマの最終回なんですよね」
「へえ……どんなドラマなんですか?」
「知り合いが脚本をやっているんですが、主人公の女子高生が元カレにつきまとわれていて、逃げた先の縁切り神社で運命の相手に出会う話です」
――つきまとう元カレ、私とは縁のなさそうな話だ。
「へ~そうなんですか……さようなら、また来ますね」
「はい」
神社の階段を降りると、見知らぬ若い男女が私を見た。
「あ……」
「ねえ、ちょっといいかしら?」
私が警戒すると思ったのか、女性は声をかけようとした男性を止める。
美男美女なのだが、私の第六感が違和感をうったえている。
「私は吉仁菊花、彼は木上一重。あの神社の神主について聞きにきたの」
「はあ、いま神主さんならいましたから、私に聞かなくてもいいと思うんですけど……」
本人に聞けない事なのだろうか?
「そうしたいのは山々だけどあの神社、カップルでいくと別れるっていうから嫌なのよ」
この二人はカップルになりたてのようで、神主に用事があっても行きたくないらしい。
「じゃあ、聞きたいことってなんですか?」
「神主の名前」
名前くらいならネットで調べれば出そうだし、言ってもいいだろう。
「柴金織鉉さんです」
「……なら違うか」
「サンキュー」
どうやら探し人とは違うらしく、怪しげな二人は去っていった。
「あれ、もういない?」
まばたきをしたら、前にいたはずの二人は消えていた。
「こういうの狐につままれるっていうのかな」
気味が悪くて足早にそこを去った。
●●
夕食が終った頃、母がチャンネルを選び、漫画原作のドラマを見ている。
というかこれ、織鉉さんが言っていたやつだ。
「少女漫画の最終回って大体が結婚式で占めるわよね~」
「それが制作者側も楽で観てる側も無難なんじゃないかな」
病気だとか、ひったくりに刺されるとか下手に悲劇的な終め方をされてもね。
「無難な結末は現実くらいでいいのに」
それはまあ、フィクションだから新鮮味はほしい。
「じゃあどんな結末が好きなの?」
「駆け落ちかしら……知らない土地で苦労、男に付いてきた後悔なんてリアルではぜったい嫌だけど」
私は愛で苦労や後悔するくらいなら愛したまま心中のほうがマシだと思う。
「まあドラマだし」
現実で不思議な珠が光るという大変なことはあったが、受け止められていない。
「ふあ……」
急に眠気が来たので風呂へいって寝よう。
「おやすみなさい」
布団に入ったものの目は冴えている。
さっきまで眠かくて仕方がなかったのに入浴で飛んでしまったらしい。
「あれ?」
縒彦さんが今外へ向かっていくのが見える。
夜だし追わないほうがいいと思うのに、珠の吸い込まれた右手が勝手に動いた。
「まってよ……」
夏とはいえ夜は寒いから薄手のジャケットを羽織る。
寝間着はパジャマっぽくない。
Tシャツと短パンでカジュアルという感じで人に見られても大丈夫のはず。
彼を追いかけ着いたそこは神社の階段だった。
「おやまあ、こんな時間に何してるんだい?」
中年女性が声をかけてきた。
「あ、親戚のお兄さんが外出していくのが見えて追いかけていたんです」
「あんたが礼の……皆!!」
中年女性が叫ぶと武器を持った村人たちが私をとりかこんできた。
逃げ場は神社階段しかなくて、私は急いでのぼる。
幸い村人たちは私を追いかけてこない。
私はなにか悪い夢でも見ているんだろうか、なら早くさめてほしい。
「はー……」
鳥居を潜り下を見るとやはり、村人がそこから動かない。
「夢、それともこの神社が嫌いな村人かな……」
「静華さん?」
後ろから声をかけられ足が飛び上がった。
「あ、びっくりした」
「こんな夜に何故?」
「あの、親戚のお兄さんをおいかけてきたら、信じてもらえないと思いますが村人が武器を持って私を囲んだんです!」
彼は眉を潜め、階段の下を眺める。
「田舎だからといって、夜に外出してはいけませんよ。それに明るさがないので都会より危険かもしれない……」
オカルトな村人が武器を所持とか、霊より生身の人間が怖いとかいうレベルではない。
「物理と精神、ダブルできてるんですが」
「親戚のお兄さんなら中です。ひとまずこちらへどうぞ」
彼は蝋燭の灯りを頼りに段差のあるところで手を引いてくれた。
「なぜここに……」
「貴方を追いかけてきたそうです親戚のお兄さん」
「今日は目が冴えて、そしたら外出するのが見えて……」
なぜ外出しているのか、あの村人はなんなのかを説明してもらう。
「ここに来るには昼間だと村人にヒソヒソされるからだ」
「でもあの人たち、縒彦さんには何もしてませんよね?」
私が親戚だと言ったら騒がれたけど、彼には偶然なのか危害はくわえられていない。
「いくら村人が考えなしに行動するとしても、仮にも神社の子に危害はくわえられませんよ」
それほど村人は信心深いのだろう。
「その村人はなぜ神社に入らないんでしょう?」
「入れないんです」
織鉱さんの顔をじっとみる。
「え?」
「夜の村人は化け物と同類、結界があるので聖域の中へ近づけず弾かれる」
やはりオカルトな話に巻き込まれてしまった。
「えと、私が狙われたのは縒彦さんの親戚で神社には関係ないからですか?」
親戚だって言ったら村人が反応したし。
「この時間は霊力が高い人間は狙われます」
「俺が確認しなかったせいで……」
「追いかけた私が悪かったんです」
というか村人が化け物なんて知らなかった。
「ひとまず朝までここにいてください」
「すみません」
そういえば縒彦さんは彼になんの用があるんだろう。
「二人はお知り合いなんですか?」
「神社関係者ですから」
織鉱さんは間髪入れずに答える。縒彦さんはなにか言いたそう。
「……!」
「まさか……」
「どうしたんですか?」
彼等は外を見て冷や汗をかいている。
「村人より厄介な参拝者が来たようだ」
縒彦さんが御札を取りだして構える。
「まったく貴女の両親は何故またこの村に連れて来てしまったんでしょうかね……」
――彼は私がこの村に来たのが二度目だと何故知っているのだろう。
「あの……」
「静華、これを心臓付近に持っておけ」
御札を縒彦さんに渡されたので言われた通りにする。
「縒彦さんはどうするんですか?」
「先に祟り神が入れないような場へ移動していろ、奴等を鎮めてから後を追う」
――だからその安全な場所はどこ!?
「行きましょう!」
織鉉さんに手を引かれて、裏口から走って逃げる。
「神社の中にいないと村人が襲ってくるんじゃ……?」
「村人は避けられても、むしろ神社にいるほうが危険な相手が来たんです」
縒彦さんが祟り神って言ってた。
「祟り神ならやっぱり神社のほうが市街地より安全なんじゃ?」
「あの神社に憑いているようなもので、今日彼が訪れたのもそれを鎮める為だったのです」
それならどうして神主の織鉉さんが神を鎮めないのかが不思議だ。
「なぜ私がやらないかと言いたそうですね?」
「ごめんなさい顔に出てましたか?」
頷きながら織鉉さんは苦笑している。
「私は祈祷は出来るんですが、そういうものに向いていないというか」
向いていないとか以前に、普通の神主が陰陽師みたいな事しない。
縒彦さんがあまりに自然に鎮めるとか言うから麻痺していた。
「ここなら村人も入れない。大丈夫だと思います」
―――はじめてくるはずなのに不思議と見覚えがある。
「……ここは?」
「暗くてよくわかりませんが、地図によると祭りで贄役が閉じ込められる部屋のです」
贄役がいた部屋なんて呪われていそうな恐怖感がある。
「震えていますね怖いですか」
「贄の人は……」
「別に死ぬわけではないですよ?」
織鉉さんが私の知りたいことを答えてくれた。
「あ、なら怖くないです」
「それにしても、真夜中に恋人でもない相手と密室で二人きり……」
織鉉さんが急にシリアスになって、ドキッとした。
「これがミステリーもので私が犯人ならバッドエンド間違いなしですよ」
「織鉉さんって今まで恋人いましたか?」
彼の表情は見えないが黙り込んでいる。
「清く正しく真面目に生きてきたもので……昔は頭がよく見えるように伊達眼鏡もかけてましたし……」
きっと明るかったら目をそらしながら口笛吹くような顔をしている事だろう。
「密室とかいうから少女漫画みたいだなあとか思ってしまいました」
「え、私などが少女漫画のヒーローでいいんですか?」
どちらかといえば彼は雰囲気が当て馬っぽいと思ってしまったけど言わないでおこう。
「別に織鉉さんは少女漫画のヒーロータイプじゃなくても……素敵だと思います」
「え……ありがとうございます」
今の私は顔が真っ赤だと思うから暗闇でよかったと思う。
「あの、さっき聞けなかったんですけど」
「なんでしょう?」
「どうして私が村へ来たのが二度目だと知っていたんですか?」
縒彦さんは沈黙している。
「貴女が彼の親戚だと知って、たまたま彼から聞いたんです」
「あ、そうなんですか……実は昔、会ってました。という事はないんですね」
そもそも珍しい紫髪の人なら記憶にぜんぜん残ってないのはありえない。
「そんな過去があったらよかったですね……」
織鉉さんは残念そうにため息をついている。
「ふあ……いつになったら帰れるんでしょう?」
「夜が開けるまで、ですね」
本来なら寝る時間で、睡魔が襲ってくる。
「私が見ていますから眠っていても……いえ、私がいると無理でしたね」
「じゃあ先に織鉉さんが仮眠を……」
■■
「おはよう」
「え?」
―――どちらが先に眠るかと譲りあっていたら、二人仲良く寝ていたのを縒彦さんに見られてしまった。
「寝ずの番をすると言いつつ私が先に寝入ってしまうとは……」
「そんなにタイムラグはなかったですって」
取り合えずお互いに無事に朝を迎えられてよかった。
「えっと、よほどの理由……ゾンビが家に入って来ない限りはもう深夜徘徊はしません!」
「この村に限らずそれが常識的な判断です」
織鉉さんは苦笑している。
「いつまで滞在なさるんです?」
「それが、祭の女神役は静華なんだ」
「え?」
寝耳に水というのをはじめてリアルで体験した。
「彼女は知らないようですが?」
「いま初めて話した」
「まさか私が村に来たのって……」
女神に選ばれたからではないかと、出先を思い出す。
だけど両親はそんなことをまったく話してくれなかった。
「どの神社で儀式をやるんでしょう?」
「まだわからない。九狐家のお偉い方に聞いてみないことにはな」
クコ家ってなんだろう?
「静華さん、一先ずは家に帰られたほうが良いですよ」
「はい」
「お前は来ないのか」
縒彦さんは織鉉さんを引き止めた。
「私がいても役に立ちませんし」
「言い訳するときに二人きりだと誤解される」
縒彦さんは言い訳がしたいからと言うより単に織鉉さんがいたほうが良いと思っている?
「年頃の男女が夜中に合挽きしていた~といえば察してくれますよ。なおさら私がいたら変です」
「あ、あの!どうせなら織鉉さんと噂になったほうが嬉しいです!」
咄嗟に彼を引き留める方法が浮かばなくて、とんでもない事を言ってしまった。
「……では、私達が静華さんをかけて真夜中の決闘という事でいいですか?」
「ああ」
なんか少女漫画を引き摺っている。
「なんだまだ寝てるじゃないか」
シーンとしていて、誰も起きた形跡はない。
「杞憂でしたね」
「まあ一応、寝室にいるか確認を……」
縒彦さんが音を立てないよう慎重に襖を横にスライドさせる。
「え?」
「誰もいない……」
――すべての部屋を確認し、誰も内に居ない事がわかった。
「もしかして、私達がいないから探しているとか?」
「ならだれか一人くらいは家にいないといけないだろう」
たしかに、祖父母まで老体に鞭打つように村を探し回るなんて考えられない。
「祭りの支度なのでは?」
「なるほど、しかし今は朝方の3時……さすがに早すぎるんじゃないか」
たしかに、こんな早くから支度になんていかないだろう。
「これでは付近の村人も寝ているか怪しいですね。どうしましょうか?」
知り合いと言えば厭紀さんや乃穢さんだが、隣村で家もしらないし、こんな朝方に行ったら迷惑だろう。
「静華――!!」
「乃穢さん!?」
なんてベストタイミングだろうか。
それに着の身着のまま、といった感じの寝巻きはボーイッシュだ。
「どうしたんですかこんな朝方に」
「それはこっちのセリフだけど、大変なんだよ!ついさっき厭紀が連中に連れてかれた!!」
乃穢さんのいう連中とはわからないが、厭紀さんが悪い奴に拐われたらしい。
「いま彼女の家に祖父母と両親が居ない」
「それも連中の仕業?」
「おそらくは、繋がりがあるのでしょう」
どういう事かわからないが、その連中という悪い奴を捕まえればいいのね。
「九狐家に行くぞ」
「え」
■■
「ここが九狐家……」
いわゆる村の御三家で、この村を管理している地主らしい。
「田舎の悪い権力者って漫画みたい……」
「しーっ聞こえるって」
まるで魔王の城に拐われた姫を助けにいく勇者一行だ。
「面倒だけどピンポンして正面からいこう。弱味握られたくないし」
「それで無理矢理追い返されたらやましいことがあるって事か」
なんだ忍び込むんわけじゃないのか。
「お前こんな早い時間にどうしたんだジジイかよ」
「お、タナシじゃん。ラッキー、実は厭紀が拐われたから犯人は99%九狐家に間違いないって事」
タナシと言われた青年は開口一番がそれかと言わんばかりに、あんぐり口を開いている。
「あの」
「ん?」
「もしかしてタナシさんって乃穢さんの彼氏なんですか?」
タナシさんが吹き出した。
「なわけねーよこいつおと……ぶべ!!」
「黙っとけよオイオイ~静華ちゃん、こんなブサメンが僕の彼氏なわけないって~」
どうやら言ってはいけない事を言ってしまったらしい。
「で、厭紀を返せ!」
「……どうせ祭りの贄役に選ばれたんだろ」
「では祭りの女神役に選ばれた彼女の祖父母とご両親はなぜ消えたんでしょう?」
織鉉さんがタナシさんに問う。
「んなの知るか、ミステリーならお約束展開ってだけだろ」
「村人が静華を襲ったのは九狐家が仕組んだことじゃないのか?」
なんでもかんでも狐が悪いみたいな疑いは良くないと思う。
「それは知らねえ」
「……悪い」
縒彦さんは後ろめたいのか目を反らしている。
「EXキャラみたいにパーティー入ってよタナシ」
「なんだよEXキャラってのは」
「特別な条件を満たすと現れるエクストラステージとかのあれ」
あ、マジでゲームの魔王撃退イベントだった。
「で、特別な条件ってなんだ」
「タナシってさ、清華ちゃんの事好きだよね?」
「……」
乃穢さんが言い出した女の子の名にタナシさんはびくりと反応する。
「厭紀を救出してくれないと、僕らだけで助けて彼女を厭紀が取っちゃうかもよ~?」
「はあ……」
それはつまり乃穢さんはタナシさんが非協力的だったと厭紀さんにチクる。
そもそも彼を助けられるかが問題な、遠回りする嫌がらせだ。
■■
「結果的に厭紀さんを助け出した前提なのに嫌がらせされるんですか?」
「アイツ自身でやりかねないからな」
意味はよくわからないけど、それだけ頭が上がらないみたい。
「タナシ~そんな簡単に靡く女じゃないって清華ちゃんを信じてやれよ~」
「……あいつはアイドルが好きで結婚報道やら解散で心療内科に行くほどの面食いなんだ」
信じてやりたいのは山々だが、とタナシさんは苦悩している様子。
「まあまあ、この村はアイドル顔負けのイケメンしかいないんだしタナシも面はいいんだから大丈夫だろ?」
「その言葉、お前にピッタリだな」
乃穢さんは怒るかと思ったがスルーした。
「たぶんここだろ」
数人の村人が集まって支度している。
「あら女神役の方だわ」
「やっと見つかったな」
ぞろぞろと村人が集まってくる。
「すいませんが、この祭りで何をしたらいいんですか?」
「あらやだ説明がまだだったの?」
私が問いかけると、村の少女が口を開く。
「私は九狐ミノカともうします。僭越ながら説明させていただきますが、女神役の方は贄役を婿に取り、家を継ぐ風習がありますの」
「ムコ?」
私には馴染みがない単語だが、改めて嫁の反対だと理解する。
「なんで厭紀さんが!?」
「榊家は九狐家と繋がりがあって、美男ときたら彼しかいない。そう当主様が指示なされたのです」
つまり私が女神役をやったら厭紀さんが強制的に私の婿になる?
「そんな……」
「あーあ、アタシ厭紀くん狙ってたのになあ」
「わたしも~」
好きな人がいないから、出会うのは誰でもいいと思っていた。
たしかに厭紀さんはかっこいいし、優しいし嫌いなんかじゃない。
それでも結婚と言われたら、向こうも私も困るだろう。
「女神役、辞退させてください」
「それはいけません」
「なぜですか?」
「貴女はカタリベ家を継がれる方です。それに、貴女が辞退なさったら双子の妹である清華さんが……」
――タナシさんの好きな相手である清華さんは私の双子の妹!?
「それはどういう事なんですか……」
「いえ、口が滑りました忘れてください」
九狐ミノカは頭を下げると去っていく。
「意味がわからないお父さんお母さんもなんの説明も無しに……」
私は右手に浮かび上がった石を撫でる。
「静華は厭紀のこと親戚として好きでも、婿にはしたくないって感じなんでしょ?」
乃穢さんはよく人をみている。
そして一人で厭紀を連れ出して逃げてくると言って神社に入っていった。
「でも私が断ると……」
「清華のことは俺が自分でなんとかするさ」
タナシさんは手をヒラヒラとさせて去る。
「織鉉、やることができた」
縒彦さんはそういってどこかに行った。
「……静華さん」
「はい」
織鉉さんは私の手を握ると走り出した。
「私と逃げましょう」
織鉉さんが車の運転席に、助手席に私が乗り込む。
「でも何処へ?」
隣村にも関係がある九狐家の息がかかる村には逃げ場などなくて不安しかない。
「村から出るんですよ」
「……道わかりますか?」
「私だって何度か都会にも行っていますからね?」
てっきり彼は村を一度も出てないかと思っていた。
「でも私を村から出したら神主として立場が……」
「私が管理する神社に参拝に来ない上に悪い噂を流すなど、まともな村人ではありませんからね」
彼は窓からなにかをばら蒔く。すると追手の車は次々にパンクして渋滞が出来る。
「どうして助けてくれるんですか?」
「村の神主である前に私は一人の男です」
あのカップルは縁切り神社っていっていたけど、やっぱり縁結びの神社に間違いない。
「織鉉さん、好きです」
「……!」
危うく運転をミスるところだったという感じに急ブレーキがかかる。
「厭紀さんと結婚って言われて嫌だったのはきっと……」
「その続きは後でゆっくり聞きますから」
――私達は互いに何もかもを捨てて暮らす事になった。
「結婚してしまえばこちらの物なのですが、未成年の結婚には親の同意が必要なので……」
4年以内に私が連れ戻されないかが問題だ。
「海外に逃げますか」
彼には西洋が似合わなそうだと思う。
「でも未成年を連れ回しているって税関で問題になりませんか?」
「ですねえ……」
そもそも彼は何歳なのか、私はよくわからない。
「あの、織鉉さんは何歳なんですか?」
「大柳縒彦と同い年です」
縒彦さんは大学生で20代、つまり彼も大学生と同じ20代。
「縒彦さんより年上かと思ってました」
「これでも弟タイプなんですよ」
お兄さんがいるのだろうか?
「すっごい衝撃を受けました」
「そして実は正規の神主ではありません」
――はじめて彼に驚かされてしまった。
■■
「これでいいかしら」
清楚な女は婚姻届の保護者名を記入した。
「……ありがとうございます」
青年は頭を下げてその場を立ち去る。
「兄弟揃って気弱そうな見た目なのに、我の強いところが似ているわ」
派手な着物の女は扇子をパチリと閉じて気だるげに横たわる。
「ほんとねぇ当主様」
清楚な女はペンのキャップを閉める。
■■
織鉉さんとの生活が続く中、夏休みなので学校はまだない。
「あれ、縒彦さんから?」
私達に届いたそれは婚姻届だった。
「まったく、これでは頭が下がるばかりですね」
手紙には結婚したら気兼ねなく村に戻れと書いてある。
「いや、気兼ねはしますよ」
「こうもトントンだと疑いたくなりますね」
逃避行からたった一週間なので色々な問題はどうなっているかなど気になる事だらけ。
「では婚姻届を出したら結婚式を神社でやりますか?」
「そうですね」
■■
「あー夏休みも終わったなあ」
「どう、二人とも彼氏できた?」
「彼氏はできてないけど結婚したよ」
取り合えず結婚式の招待状を友人2名に渡す。
「ちょっ!?」
「えええ!?」
二人が彼氏を連れて結婚式へ来るならブーケは二本、いや三本用意しようかな。
【幸せのお裾分け】




